デザイン特許の損害賠償の未来

2016年の Samsung Electronics Co. v. Apple, Inc.からデザイン特許が再注目されてきましたが、最高裁で提示されたテストの適用について、まだ明確な「ルール」はありません。今回は、現在控訴中のケースから予想されるデザイン特許の損害賠償の未来について考察します。

Samsung v. Appleの影響

2016年の判決で、最高裁は、損害賠償を決める際のベースとして用いられる“article of manufacture” は最終製品であっても、その部品であってもよいとする判決を下し、デザイン特許としては画期的な部品をベースにした損害賠償の可能性を示しました。

最高裁は、損害賠償を決める際のベースを決めるためのthe Solicitor General’s four-factor testというテストを提示しましたが、その適用は地裁に一任したのでどのようにこのテストを適用するのが正しいのか明確ではありません。

The Solicitor General’s four-factor testとは、スコープ、design prominence 、conceptual distinctness や、severability を元に、デザイン特許侵害の際、損害賠償を決める際のベースとしてどのような “article of manufacture” が正しいかを決めるテスト。

Samsung v. Apple後に始めてこのテストが用いられたケース

Columbia Sportswear North America, Inc., v. Serius Innovative Accessories, Inc.は、Samsung v. Apple後に始めてこのfour-factor test が用いられたケースです。地裁では、部品の侵害にもかかわらず、最終製品から得られた利益であるTotal profitsをベースにした損害賠償の分析がおこなわれ、$3Mほどの賠償金支払い命令が下されました。

この地裁の判決は、CAFCに控訴され、2019年の9月5日に公判がありました。

Columbia Sportswear の考察

CAFCにおける判決が今後デザイン特許の損害賠償の未来にどこような影響をおよぼすかを考えてみたいと思います。

CAFCが地裁を是正した場合、35 U.S.C. §289におけるTotal profitsをベースにした損害賠償の勝利になります。1つの部品の侵害が部品ベースの損害賠償計算ではなく、Total profitsをベースにした損害賠償をおこなうだけ需要なものだという判断がなされた場合、デザイン特許で守られている部品は商品全体と切っても切れない関係にあり、商品全体にとって重要なものだという主張が今後有効になっていくと思われます。特に、デザイン特許で保護されている部品が顧客に提供されていなかったり、販売されていない場合、このような主張が裁判で受け入れられる可能性は高くなります。

逆に、CAFCが地裁の判決を覆すようであれば、損害賠償を低くするだけでなく、デザイン特許全般の価値を下げる判例を作ることになります。35 U.S.C. §289におけるTotal profitsをベースにした損害賠償の義務は、侵害の予防や和解を促すきっかけになっているものです。しかし、このケースでCAFCが部品をベースにした損害賠償が適切と判断した場合、模倣品の拡大が懸念されます。例えば、模倣品の売り上げが$13Mで侵害による賠償金が$2M程度であるならば、それは模倣品ビジネスをおこなうための費用として捉えられて、デザイン特許は模倣品を抑制するようなものにはならないかもしれません。

またこのような判決は、デザイン特許の侵害者を訴えても、高額の損害賠償が期待できないので、訴訟が侵害者有利に進んだり、和解の際に侵害者有利で交渉が進んだりと、デザイン特許権者の立場を更に弱くすることが考えられます。

The Solicitor General’s four-factor testとその未来

最高裁はthe Solicitor General’s four-factor testを提示したものの、実際の適用は地裁に一任していたので、このCAFCによる判決から、このテストがどのように適用されるべきなのか、より明確なガイダンスを提示してくれることが期待されています。

現在、“article of manufacture” を特定することはとても複雑で、不透明であり、テストの適用方法に関して参考にできるようなケースがありません。もしCAFCがColumbia Sportswear における地裁の判断が適切ではなかったと判断した場合、どのように“article of manufacture” を特定するべきか、そのガイダンスをどう示すか?に注目が集まっています。

まとめ

CAFCがColumbia Sportswear に対してどのような判決を下すかに注目が集まっています。このケースは、侵害品が完成品でなく部品だったときの損害賠償金の計算方法だけにとどまらず、最高裁で示されたthe Solicitor General’s four-factor testがどう適用されるべきかについても明確なガイドラインを提示する機会をCAFCに与えています。地裁の判決を是正すればデザイン特許の価値を更に高める判例になり、判決を覆せばデザイン特許の権利行使が難しくなる判決になることが予想されます。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Babak Kusha. Kilpatrick Townsend & Stockton LLP(元記事を見る

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