ブランドによっては、日本語などの外国語の単語やフレーズをアメリカで商標登録することがあると思います。しかし、外国語を用いたマークを出願する場合、同意語に気をつけたり、翻訳(や音訳)を含まないといけないなど、注意する点も多数あります。
同じ意味を持つ外国語との混同に気をつける
外国語を商標登録する場合、ブランドは米国特許商標庁(USPTO)の外国語等価法(Doctrine of Foreign Equivalent)を念頭に置く必要があります。この原則によると、「外国語(アメリカの消費者の相当程度に馴染みのある言語のもの)と英語の相当語は、混同されるほど類似していると判断される場合があります」。“a foreign word (from a language familiar to an appreciable segment of American consumers) and the English equivalent may be held to be confusingly similar.” 混同の可能性は、商標法第2条(d)に基づき、商標登録出願の拒絶理由となりえます。15 U.S.C. § 1052(d)。
実際に起きたケースでUSPTO が好んで提供する例として、WOLF と LUPO というマークがあります。前者は英語で「狼」、後者はイタリア語で「狼」 を意味する言葉です。USPTO が懸念する限り、これら 2 つのマークは、関連商品を記述する場合、混同するほど類似しているとのことです。このロジックでいくと、AZUL(スペイン語で「青」)とBLUE(英語で「青」)も、SAKURA(日本語の「さくら」)とCHERRY BLOSSOM(英語で「さくら」)も同様に、混同されるほど類似しているという判断がなされることでしょう。
また、使われる外国語は、「アメリカの消費者の相当程度に馴染みのある言語のもの」 (a language familiar to an appreciable segment of American consumers) でなければならないという条件もあります。しかし、この条件のハードルはそれほど厳しくありません。例えば、2006年、Trademark Trial and Appeal Board(TTAB)は、米国人口の0.6%がフランス語を「非常によく」または「よく」話すという国勢調査の証拠に基づき、フランス語は米国で「よく使われる言語」(“commonly spoken language” )であると判断しました。同年、TTABは、706,000人のロシア語話者が米国における「消費者のかなりの部分」を構成していると判断しています。
そのため、日本語が使用されていても、この「アメリカの消費者の相当程度に馴染みのある言語のもの」としてみなされる可能性が高いと思われます。
おしゃれな外国語でも商標では何も考慮されない
外国語の商標を取得する場合、同じ意味を持つ英語の商標との類似性は、潜在的な問題の一つに過ぎません。外国語の単語は、ほとんどのアメリカの消費者にとってエキゾチックな響き(おしゃれ、かっこいい、Cool)を持つかもしれませんが、USPTOは、その単語が問題の商品やサービスの一般的な説明であると見なす可能性があります。このように判断されてしまうと厄介です。というのも、商標法では、「単なる記述的な」(merely descriptiv)商標の登録を禁止しているからです。15 U.S.C. § 1052(e)
記述的商標の例としては、コーヒーを販売する店舗を特定するために使用する場合、 COFFEEHOUSE が挙げられます。このような使用はダメですが、同じ COFFEEHOUSE がガーデニングサービスや電池を識別するために使用されている場合、記述的であることを理由に登録に問題が起こることはないでしょう。上記の例のロジックを用いると、例えば CAFÉ というマークは、コーヒーショップ(あるいはコーヒーそのもの) を描写するものに過ぎないと言えるでしょう。ちなみに、米国における商標出願では、「É」の文字が使用可能です。
中国語の商標登録はどうなるのか?
英語と関係性の近いアルファベットをつかったラテン語系統の文字についての取り扱いについてはある程度理解できたと思いますが、中国語の商標はどうでしょうか?
USPTOは、外国語等価法に基づき、中国語の音訳による商標登録申請を拒絶しています。例えば、USPTOは、「NIHAO」(ニーハオ、你好)の登録申請を拒否する根拠の一部として、「HELLO!」というマークを引用しています。
Nihaoは、米国では比較的よく知られた言葉ですので、これをUSPTOが拒絶するのは簡単だったでしょう。しかし、これを名称の一部として製品やサービスに使用している中国系の企業の数は計り知れません。例えば、米国に就航している中国南方航空は、機内誌の名前に使っています。しかし、ピンイン(pinyin、読み方)があまり知られていない場合はどうでしょうか?あるいは、その商標に実際の漢字が含まれていた場合はどのように対応されるのでしょうか?
出願人は外国語の翻訳を提出しなければならない
外国語の商標登録出願を審査する場合、USPTOはその単語を翻訳する必要はありません。なぜなら、連邦規則では、商標出願が、英語以外の文言の英訳を含めなければならないとされているからです。37 CFR § 2.32(a)(9). 非ラテン文字の場合、音訳と翻字の両方を提供しなければなりません。37 CFR §2.32(a)(10).
これらの要件の両方を示す商標の一例は、Din Tai Fung で、 2021年に登録されました。この商標は、漢字のレストラン名とその音訳の両方を含んでいます。登録によれば
商標中の「DIN TAI FUNG」の英訳は「tripod is calm and rich」である。
商標中の非ラテン文字がDIN TAI FUNGと音訳され、これは英語でtripod is calm and richを意味する。
The English translation of ‘DIN TAI FUNG’ in the mark is ‘tripod is calm and rich.’
The non-Latin characters in the mark transliterate to DIN TAI FUNG and this means tripod is calm and rich in English.
と記載されています。
USPTOとの駆け引きは勧められない
当然のことながら、外国語を商標登録する際、出願人はUSPTOに対して、特定の単語は外国語では意味がないと主張したり、登録を容易にするために意図的に翻訳したりと、正しい情報を提供せずに、手っ取り早く済ませようとすることがあります。
しかし、これまで指摘してきたように、商標の審査官は、審査するときにインターネットにアクセスすることができますし、実際に活用しています。なので、商標出願で使われているマークの意味を偽ることなく、USPTOと駆け引きをしないようにしましょう。もしそのような行為をして、審査官が本当の意味を知ってしまった場合、その問題を強く指摘されてしまうことでしょう。