特許侵害と関連があるだけでは連邦裁判所の管轄外

訴訟の際に判決を下せる管轄(jurisdiction)を調べることはアメリカの現地代理人の仕事ですが、管轄が正しくなければ、弁護士に払うお金と余分な時間がかかってしまうので、訴訟に発展しそうな内容を早期に調べ、適切な管轄を特定することは大切です。

契約の問題が特許侵害と関連がある場合、連邦裁判所で争われるべきか?

今回取り上げる判例は、INSPIRED DEVELOPMENT GROUP v. INSPIRED PRODUCTS GROUP, LLCです。

訴訟に至った経緯は、契約やその他の州法に関する問題でしたが、訴えたDiversityという手続き法 (civil procedural)の下、Inspired Developmentは連邦裁判所で争われるべきと主張、しかし、そのdiversityは認められませんでした。

その後、Inspired Developmentは、州法による契約の違反と衡平法に基づく主張は連邦法である特許法から発生したものであるので、連邦裁判所で議論されるべき問題(federal question)であるという主張をしました。

Gunnテストの適用

この問題は連邦地裁や高裁を行き来した後、最終的にCAFCで議論されることになりました。CAFCでは、主張された請求を理由づける事実のどれも連邦法である特許法から発生したものでないことを確認し、それでもこれらの事実を連邦法から発生したものとして取り扱うべきかを決めるため、Gunnテストという以下の4つの項目を考慮する分析をおこないました。

if a federal issue is

  1. necessarily raised,
  2. actually disputed,
  3. substantial, and
  4. capable of resolution in federal court without disrupting the federal-state balance approved by Congress

この4つの条件を満たしていれば、州法による主張でも連邦の管轄になります。

Inspired Developmentが主張しているunjust enrichment claimは特許侵害の問題から発生していると見ることも可能ですが、契約書の文言が、特許を使用している、いないに関わらず、支払いの義務を課していることから、CAFCは、特許侵害の問題を解決したところで、Inspired Development の主張が認められるというものでもないので、今回のInspired Development の主張はGunnテストのどの条件も満たさないということを示しました。この結果、CAFCは連邦地裁はこのInspired DevelopmentとInspired Productsの間の問題を審議しる管轄権は持っていないとしました。

この訴訟案件は放棄され、却下されるために地裁に差し戻されました。

まとめ

法的な問題が起こった場合、その問題に対して判決を下せる管轄がどこなのかを正しく認識しておく必要があります。今回のように、本来なら州の裁判所で争われるべき内容でも連邦裁判所に持ち込んでしまうと、本来の審議に進む前に手続き上のハードルがあります。そして、管轄が正しくないと判断されてしまうと、訴訟自体が却下されてしまうので、それまでにかかった弁護士費用と時間が無駄になってしまいます。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Janet M. Allendorph, Karen M. Cassidy and Paul Stewart. Knobbe Martens (元記事を見る

ニュースレター、公式Lineアカウント、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

公式Lineアカウントでも知財の情報配信を行っています。

Open Legal Community(OLC)公式アカウントはこちらから

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

change-sign
商標
野口 剛史

米国商標、本社住所記載義務化へ

アメリカ特許庁は、すべての商標出願人と登録者に対して、所在地を示すために商標出願人、または、登録者の住所の記載を義務化しました。現在、アメリカで商標を出願中、または、アメリカで登録商標を持っている会社は、この住所記載義務に応じる必要があります。

Read More »
twitter
商標
野口 剛史

ブランド侵害監視のためのソーシャルメディア規制

ソーシャルメディアにおける活動は、商標で識別される製品又はサービスに関する情報を提供するだけでなく、個人又は企業の一般的なイメージ及び評判に関わります。このような評判は、第三者によって容易に悪用され、商標権者に不利益をもたらす可能性があります。このような背景から、ソーシャルメディアと商標の間の複雑な相互作用は、多くの権利と利害が対立する領域となっています。そのため、異なるプラットフォームでの商標使用の一貫性を確保したいブランドオーナーにとって、商標のモニタリングは非常に重要です。

Read More »
契約
野口 剛史

Teslaに学ぶオープン&クローズ戦略

2014年、TeslaのElon MuskがTesla特許をOpen sourceにすると宣言しましたが、この宣言には様々な制約があります。業界に問わず知財の Open/Closed 戦略は重要課題であると思うので、今回はTeslaの特許 Open Source 宣言について詳しく見ていきたいと思います。

Read More »