例外的なケースは個々の事実背景が大切

弁護士費用を認める例外的なケース(exceptional case)は事実背景がとても重要になります。特に物事が起こったタイミングが重要なことが多いので、訴訟案件の1つ1つの時系列を改めて見直し、精査する必要があります。

2020年6月8日、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、カリフォルニア州中央地区連邦地方裁判所(CDCA)が35 U.S.C.§285および15 U.S.C.§1117(a)に基づき弁護士費用を授与した命令を覆したました。

Munchkin, Inc. v. Luv N’ Care, Ltd.、No. 2019-1454, __ F.3d __ (Fed. Cir. Jun. 8, 2020)。

CAFCは、原告が訴訟の提起と維持において不合理な行動をとったとの判断を支持するものではないため、CDCAはその裁量権を濫用したと判断しました。

訴訟の経

2013年9月16日、Munchkin, Inc. (Munchkin)は、Luv N’ Care, Ltd. (LNC)をこぼれないカップのロゴに関連した商標および不正競争防止のために提訴しました。1年後、CDCAはMunchkinに訴状を修正する許可を与え、(1)商標と不正競争の主張の根拠を新しいロゴに置き換え、(2)トレードドレス侵害と新たに発行された米国特許第8,739,993号(’993特許)の侵害の主張を追加しました。

これに対し、LNCは、’993特許の当事者間審査(IPR)を申請しました。特許審判不服審査会(Patent Trial and Appeal Board: PTAB)はIPRを開始しましたが、そのタイミングはMunchkinが特許クレームに焦点を当てるために地裁での非特許クレームを却下し、CDCAがMunchkinの’993特許の狭いクレーム構成を採用する前でした。そして、PTABは最終的な書面による決定で、LNCのより広範な構成を採用し(ここで地裁とPTABにおける特許の取り扱いに差が生じた)、’993特許は非特許であると判断しました。CAFCはPTABの決定を略式に支持し、その後、MunchkinはCDCAにおける特許請求を棄却しました。

弁護士費用請

LNCは、35 U.S.C.第285条および15 U.S.C.第1117条(a)に基づき弁護士費用を請求しました。CDCAはこの申し立てを認め、Munchkinは’993特許の有効性に関する立場が弱く、非特許請求項が実質的に弱いことを認識していたはずであると判断しました。これを不服にMunchkinは控訴します。

CAFCは地裁の弁護士費用を認める判決を覆し、例外的なケース(exceptional case)の決定が裁判所で十分に訴訟されなかった問題に基づいている場合、弁護士費用の授与には「訴訟当事者の立場に対する裁判所の評価についてのより詳細な説明」が必要であるとの見解を示しました。CAFCは、LNCの弁護士費用請求の申し立ては、要求された「Munchkinの訴訟上の立場についての詳細な事実に基づく分析を行い、それらが完全にメリットを欠いていることを立証する」ことができなかったとし、また、弁護士費用を認める意見書も同様に十分な裏付けを欠いていたため、CDCAはその裁量権を濫用したと判断しました。

特許請求に関して、CAFCはCDCAがMunchkinは’993特許の有効性を不当に擁護したと判断したことに誤りがあったと認定しました。特にCDCAは、CDCAがMunchkinの狭いクレーム構成を採用した際に、LNCもCDCAもMunchkinの防御が不合理である理由を説明しておらず、「LNCの無効性への異議申し立てに重大な障害となっている」と指摘している。CAFCはまた、IPRの成功統計や’993特許のIPRの結果は、Munchkinの訴訟上の地位の実質的な強さを示す事実ではないと指摘し、’993特許のIPRが提起された後にMunchkinが不当に特許請求権を維持したと判断したCDCAの判断に誤りがあったとしています。最後に、CAFCは、Munchkinが’993特許の起訴中に先行技術を開示しなかったという主張は、Munchkinの有効性の立場の「実質的な弱さ」を示しているとするCDCAの判断を、結論的なものとして却下しました。

商標およびトレードドレスに関し

商標およびトレードドレスのクレームに関しては、CDCAの例外的なケースの決定は、Munchkinの訴状の補正を認める命令と矛盾するものであるとCAFCは判断しました。CAFCはまた、Munchkinが偏見をもってクレームを棄却したことは、Munchkinが特許クレームに焦点を当てたいというように、クレームを棄却するには実体的弱点以外にも多くの理由があるため、本件が実体的弱点であることを立証するものではないとしました。

解説

前回も説明しましたが、アメリカの訴訟は基本当事者が自分の 弁護士費用を負担します。しかし、裁判所が例外的なケース(exceptional case)と認めた場合、35 U.S.C.§285(特許訴訟)および15 U.S.C.§1117(a)(商標訴訟)に基づき弁護士費用が授与される場合があります。

例外的なケースというのは、ただ単に「勝った」「負けた」という結果だけでなく、事実や経緯に大きく影響されます。

今回の場合は、

  • 地裁が権利者であるMunchkinの訴状補正を訴訟が開始された1年後に認めたこと
  • PTABにおけるIPRのタイミング
  • PTABと地裁でのクレーム解釈基準の違いからもたらされる特許の有効性に関する問題
  • Munchkinが特許侵害以外の主張を取り下げたタイミングとその理由

などの事実が大きく関わっています。

このような事実背景の中、IPRが提起された後にMunchkinが不当に特許請求権を維持したと判断するに至るには十分な説明がなかったというのがCAFCが出した結論です。

ここで注目したい点が2つあります。

1つはIPRの手続きと地裁での訴訟手続きの同時進行。仮にIPRが開始(Institution)された後に、地裁がIPRにおける結果を待つように訴訟手続きを一時停止(Stay)していれば、PTABと地裁におけるクレーム解釈基準の違いからもたらされる特許の有効性に関する問題が生じなかったと思われます。

そうすれば、IPRが開始された時にはまだ地裁におけるクレーム解釈が行われなかったので、そもそも例外的なケース(exceptional case)の判断の焦点になった「IPRが提起された後にMunchkinが不当に特許請求権を維持したか否か」という問題自体が発生しないことになります。

しかし、IPRが開始された時点に時を戻すと、商標の侵害主張もあったので、地裁における訴訟手続きを完全に止めることができず、IPRと平行して進めるという判断を行ったのだと思います。理想的には、IPRの開始のタイミングかそれ以前にMunchkinが特許侵害以外の主張を取り下げていたら、状況は変わっていたかもしれません。

2つ目に注目したい点は、PTABと地裁におけるクレーム解釈の基準の違いです。この問題に関しては実はもう解決されています。2018年11月13日から、PTABによるIPR、post-grant review、CBM手続きにおけるクレーム解釈基準には、地裁と同様のPhilips Constructionが採用されています。

関連記事:PTABのPhilips Construction採用が決定。11月13日から変更

今回のケースは2013年に始まったものなので、PTABのクレーム解釈基準が旧式のBRI基準(broadest reasonable interpretation)だったので、このような地裁とPTABにおけるクレーム解釈が異なってしまいました。

このように弁護士費用を認める例外的なケース(exceptional case)は事実背景がとても重要になります。物事のタイミングも重要なので、訴訟案件の1つ1つを精査して見る必要があります。

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まとめ作成者:野口剛史

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