電子データ( electronically stored evidence (ESI))の保存は企業機密訴訟において重要な役割を持ちます。しかし、アメリカの訴訟時のディスカバリーの際に正しく電子情報の取り扱いを行わないと、データ隠滅と見なされ、罰則を受けてしまう可能性があります。今回はそのようにならないための3つのポイントを解説します。
なぜ企業機密訴訟においてESIが大切になるのか?
企業機密訴訟は申立人が被告人に企業機密を盗まれたと主張することから始まります。そのような事実があったことを証明するためには、例えば企業機密として扱われているファイルのメタデータなどの電子情報はとても重要な証拠になります。
一方、被告側は、申立人が実際に合理的な手段を用いて機密情報を守っていたのかという点を指摘するのに申立人の情報開示を分析し不備を指摘できる材料がないか探します。また、被告人としては、独自に開発を行ったということを証明することも有効な手段なので、その際は、自社のデータを適切に保存しておくことが大切です。
データの隠滅に関する罰は厳しい
過去の判例ではデータの隠滅が行われたと判断された際、裁判に多大な悪影響をおよぼしたこともあります。(参照:E.I. du Pont de Nemours & Co., 803 F. Supp. 2d 469, 510 (E.D. Va. 2011) または、 Roadrunner Transportation Servs., Inc. v. Tarwater, 642 F. App’x 759, 759-760 (9th Cir. 2016))
つまり、ESIの管理や取り扱いを正しく行わないと、罰金はもちろんのこと、陪審員に悪い印象を与えてしまったり、勝てる訴訟も負けてしまったりするリスクがあります。
そこで、今回は3つのステップからなるフォレンジックデータコレクションのプロセス(forensic data collection process)を紹介し、どのようにESIを取り扱っていくべきかを解説します。
ステップ1:ESIのソースの特定と訴訟ホールド
ほぼすべてのデータコレクションは訴訟に関連するESIを特定することから始まります。通常は、訴訟人と訴訟代理人が協力してカテゴリー等を決め、そのカテゴリーに関連するESIを特定します。これは訴訟が進み、それぞれの主張が行われることにより追加や変更する場合もあります。
一般的な次のステップは、該当するESIカテゴリーの情報を保持している人物とその媒体と場所を特定する作業です。ここでは訴訟人の協力が不可欠です。また、訴訟になれていないクライアントなどの場合は、訴訟代理人がアンケート等をおこなうことによって、クライアントが人物、媒体、場所の特定をしやすいように導くことも重要です。
また、訴訟代理人は、早い段階で会社の役員などにESIの正しい扱いの重要性を説明し、理解を求めるべきです。訴訟の早い段階で役員からの理解が得られれば、情報提供を拒まれる(最終的に、データ隠滅として扱われる)リスクが低くなります。
一般的に、該当するESIカテゴリーの情報を保持している人物が特定された時点で、訴訟ホールド(Litigation hold)の指示が送られます。通常、そのような指示には、次の指示があるまでデータの保存(つまり、消去や破棄をしない)をすることが明記してあります。
この指示にはIT部署も含まれることが頻繁にあり、IT部門で定期的に行っているデータの削除やアーカイブも、対象のデータの保存に影響があるものに関してはストップする必要があるかも知れません。
また、訴訟ホールドの指示には、対象となる電子書類だけでなく、それにかかわるメタデータの保存も含まれている場合があります。
訴訟ホールドは大切ですが、それだけでは証拠隠滅の疑いを回避できるということにはなりません。実際に訴訟人が訴訟ホールドの指示に従いESIの取り扱いが適切になされている必要があります。そのためには形式的な指示だけでなく、実際にデータを持っている人物と協力してESIの保存と取り扱いをおこなっていく必要があります。
ステップ2:回収
ESIを回収する理由は、(1)ファイルのフォレンジックイメージを作り保存をおこなうため、(2)ディスカバリーでの訴訟相手の要求に応えるため、(3)自分の訴訟代理人の要求に応じるため(これは案件の強みや弱みを分析したり、訴訟戦略のため)などがあります。
回収に関しては、フォレンジックコンサルタントと一緒に行います。また、証拠隠滅などの疑いをかけられないよう、独立第三者の専門家を雇って、ESIの回収が隠滅の意思なく行われたということを示すことも場合によっては必要かもしれません。
回収における作業がスムーズにいくように、フォレンジックコンサルタントと訴訟代理人はお互いに協力していく必要があります。また、既存のビジネスへの影響を抑えるため、ハードディスクのバックアップ等は営業時間外に行うなどの工夫も必要かもしれません。
また、回収に伴い、chain of custodyの問題も重要になってきます。訴訟で証拠として提出するには、ある程度の証拠としての条件を満たさないといけません。そのためにはchain of custodyが問題になることがありますが、ESIの回収の際は、どのように回収が行われたのか、明確で追跡できるレコードが必要になります。
ステップ3:プロセス、レビューと生産
ESIが無事回収出来たら、次はESIのプロセスを行い、レビューや分析が出来る形にします。例を挙げると、秘匿特権で守られた情報の特定や、訴訟において重要な証拠の特定などです。
秘匿特権やその他の理由で情報の生産をしない場合でも、それらの情報の保存は必要です。というのも、裁判官がそのような情報を生産するように命令してくることもあるからです。
まとめ
フォレンジックデータ保存は始めから考慮されるべき問題です。なぜならESIの取り扱いを間違ってしまうと、データ隠滅とみなされ、訴訟で不利になってしまうことがあるからです。特に、企業機密訴訟におけるESIの取り扱いは重要なので、今回紹介した3つのステップによるESIの取り扱いを参考にしていくべきです。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Rebecca Edelson, Seong Kim and Angela Reid. Sheppard Mullin Richter & Hampton LLP (元記事を見る)