Enablementに対する主張がクレーム範囲を狭める結果に

特許審査中に特許権者が主張した内容は、訴訟の際のクレーム解釈の際に考慮され、クレームの適用範囲を大きく変えることがあります。今回の判例では、特許権者が審査中に主張したEnablement違反に対する反論が訴訟の際にクレーム範囲を狭めることになり、結果として非侵害判決の決定的な原因となってしまいました。

Iridescent Networks, Inc. v. AT&T Mobility, LLC, [2018-1449] (August 12, 2019) において、CAFCは地裁の特許非侵害判決を肯定し、地裁における “high quality of service connection” という用語の解釈も維持しました。

訴訟の対象になった特許はネットワークに関するもの

問題になった特許は U.S. Patent No. 8,036,119 System and Method of Providing Bandwidth on Demand というもので、system and method for managing network traffic routes and bandwidth availability to minimize adverse network conditions and to assure that the network connection maintains a requested minimum level of one of these three parameters に関するものでした。

用語が定義されていなかった

この特許で問題になった用語が、“high quality of service connection” という用語で、クレームに使われていましたが、クレーム、または、明細書内で、“high quality of service connection” がどういうものかという明確な定義はありませんでした。

用語の定義の主張に大きな差

特許権者であるIridescentは、“high quality of service connection” の意味は、 “a connection in which one or more quality of service connection parameters, including bandwidth, latency, and/or packet loss, are assured from end-to-end based on the requirements of the application” であると主張。

一方で、訴えられたAT&Tは、“high quality of service connection” の意味は、  “a connection that assures connection speed of at least approximately one megabit per second and, where applicable based on the type of application, packet loss requirements that are about 10-5 and latency requirements that are less than one second” であるべきと主張しました。

両者の主張を見てわかるように、特許権者の主張は数的な制限がないざっくりとした定義になっている一方、訴えられたAT&Tの主張は、すべてのパラメータに関して数的な制限が明記されています。

CAFCは審査履歴から図で示された数的制限を採用

問題となっている“high quality of service connection” の解釈について、まずCAFCは、“high quality of service connection” という用語自体、市場における一般的な意味はないことを示しました。

続いて、どのような状態が“high”なのかクレームでは説明されていなかったので、CAFCは明細書と審査履歴から“high quality of service connection”という用語がどのように理解されるべきかを議論しました。

その中で、CAFCは図3に注目しました。というのも、審査履歴から、Enablement違反を指摘された出願人が、補正を行った際に図3に書かれているコネクションのパラメータを引用して、問題となっている“high quality of service connection”という用語を説明していました。

“the various connection parameters illustrated for high quality of service enabled bandwidth applications in Fig. 3 supported the term “high quality of service connection.” 

このように出願人が図3に書かれているminimum connection parameter requirementsに頼ってEnablement違反を回避したことから、“high quality of service connection”の用語の定義には、図3に書かれているminimum connection parameter requirementsが採用されるべきとしました。

特許審査中の出願人の発言は慎重に

特許権者は、明確な拒否がない限り審査履歴はクレーム解釈に関係ないと主張しましたが、CAFCはその主張を退け、明確は拒否がなくても、審査期間中に発明者による説明、解説、比較などはすべてクレーム解釈に関わるとしました。

また、CAFCは解釈が問題になっている用語に対して明確な一般的で習慣的な意味(ordinary and customary meaning)がない場合、最初に明確は拒否を探すことなく、審査履歴からガイダンスを得るべきとしました。

最後に、CAFCは、特許権者によるEnablementに関する主張はクレーム範囲に影響を与えるものではないという主張も退け、Enablementの条件は開示された発明よりもクレーム範囲が拡大することを防ぐ役割を担っているので、Enablementに関する主張もクレーム範囲に影響することを明確にしました。

まとめ

クレーム解釈を行う上で、審査履歴は重要な情報になりえます。特に、審査中の出願人・発明者の発言はクレーム解釈を大きく変える可能性があるので注意が必要です。また、102や103などの先行例文献に対する主張や補正だけでなく、Enablementに対する主張もクレーム範囲を狭める可能性があるので、拒絶理由対応時の主張や補正によってクレーム範囲が必要以上に狭まらないよう注意が必要です。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Bryan K. Wheelock. Harness, Dickey & Pierce, PLC (元記事を見る

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