10年以上にわたり、ソーシャルメディアやその他のウェブページにリンクされた画像や動画を埋込式(embedding)でウェブサイトに掲載することは、著作権的に「安全」であると考えられてきました。 しかし、ニューヨークで最近下された2つの判決では、このような行為が許されるかどうかについて、判断が分かれる可能性が出てきました。
判例:Nicklen v. Sinclair Broadcast Group, Inc., 20-cv-10300 (S.D.N.Y. July 30, 2021).
埋め込みメディアの著作権侵害の議論は避けられていた問題だった
最近は、埋込式メディアを扱った事件が多く発生しています。いくつかの例外を除いて、これらの事件では、画像の埋め込みがInstagramやTwitterの利用規約に基づいて許可されているかどうか、または埋め込みがフェアユースであるかどうかが問題となっています。しかし、これらの判例では、そもそも埋め込みが著作権者の公示権(public display right)を侵害しているかについての議論が避けられてきました。
おさらいすると、著作権法は、著作権者に著作物に関する5つの排他的権利を与えています。それらは、(1)複製する権利(reproduce)、(2)頒布する権利(distribute)、(3)公に展示する権利(publicly display)、(4)公に上演する権利(publicly perform)、(5)著作物の二次的著作物を作成する権利(create derivative works of the work)です。
「サーバー・ルール」は絶対的なルールではない?
2007年のPerfect 10, Inc.vs. Amazon.Com, Inc.487 F.3d 701 (9th Cir. 2007)という重要な裁判において、第9巡回区は、ウェブサイトの表示に関する「サーバー・ルール」を作りました。 これは、基本的に、著作権のある作品を表示しているウェブサイトが、著作権侵害目的のための侵害的表示とみなされるためには、コンピュータのメモリ内に作品のコピーがなければならないというものです。
しかし、これに対して、ウェブサイトに掲載されている画像が埋め込みだった場合、著作物が保存されている(Instagramなどの)サーバーにリンクが張られ、著作物がその第三者のサーバーに残ることになります。 このため、被告ウェブサイトのサーバーのメモリに固定されておらず、「サーバールール」に基づく表示ではないため、ウェブサイトは著作権の侵害をしていないということになります。
2018年頃まではこのルールが一般的でしたが、2018年にニューヨーク南部地区のフォレスト判事が、ニュース記事にツイートを埋め込むと著作権者の公示権(public display right)を侵害する可能性があると判示して、いままで当たり前だった「サーバールール」を否定しました。Goldman v. Breitbart News Network, 302 F. Supp.3d 585 (S.D.N.Y. 2018).
そして、最近、ニューヨーク南部地区の別の判事Rakoff判事が「サーバールール」を否定。 Nicklen v. Sinclair Broadcast Group, Inc., 20-cv-10300 (S.D.N.Y. July 30, 2021). Rakoff判事は、被告の棄却申し立てを却下する際に、「サーバー・ルールは、著作権法の文言と立法までの経緯に反している。. . . 第9巡回区のアプローチでは、侵害者とされる者が侵害者のコンピュータに作品のコピーを保存していない限り、表示は不可能であり、公示権(public display right)は単に複製権のサブセットに過ぎない」としました。
地裁での判決のみだがこれは大きな変化の始まり?
このように、「サーバー・ルール」に反対しているのはニューヨークの2つの地方裁判所だけです。しかし、他の地域ではサーバー・ルールを積極的に採用していないことから、第9巡回区以外でもサーバー・ルールが絶対的なルールという位置づけになっているのか疑問に感じるところです。
SNSを参照するニュースやコンテンツは尽きないので、埋め込みメディアに関する著作権訴訟は今後多発することでしょう。そうなると、近いうちにこのトピックに関する別の判決が出るのは時間の問題です。それまでははっきりした線引ができないので、 特に、メディア企業やブロガーは埋め込みメディアに取り扱いに注意が必要です。
参考記事:Embedding Images May Be Copyright Infringement After All