第9巡回区は、今回初めて、DTSAにおける継続使用の原則(continued use doctrine)を認め、最初の不正使用がDTSA成立前に行われたと主張している場合でも、原告が企業秘密の不正使用に対してDTSA請求を行うことを認めました。さらに、第9巡回区は、原告が特許出願に含まれる以上の企業秘密情報が不正に流用されたと主張しない場合、特許出願がDTSA請求を妨げる可能性があるとしました。
判例:Eli Attia, et al. v. Google, LLC
DTSA下における企業機密不正利用の請求
連邦企業秘密保護法(Defend Trade Secrets Act、以下DTSA)は2016年5月11日に制定されました。それまでは企業機密(Trade secret)に関する法律はすべて州法で、判例や法律にばらつきがあり、企業機密の不正利用があった際に、企業機密を保有していた企業が訴訟を起こすのが難しい状況でした。しかし、連邦法であるDTSAが制定されてから、連邦法下で連邦地裁における訴訟が可能になりました。
DTSAは、「(同法の)制定日以降に何らかの行為が発生した営業秘密の不正流用」に関して、連邦法の元で訴訟を起こす権利を与えているのですが、今回、DTSA発効前に被告が原告の企業秘密を最初に不正利用したと主張し、発効後も不正利用を継続した場合にはどうなるのかという疑問に初めて答えました。
DTSA制定前から継続して不正利用されている場合、DTSA下で訴訟できるのか?
第9巡回区は、DTSAが成立する前に最初の営業秘密の開示が行われた場合でも、DTSA発効後に発生した継続的な不正使用からDTSA請求ができる可能性があると判断。
第9巡回区は、統一営業秘密法(Uniform Trade Secrets Act。略してUTSA。)には継続的使用禁止規定(anti-continued use provision)が含まれており、UTSAが同法の発効前に始まった不正使用をカバーしないことを明確にしていると指摘。同裁判所は、議会がUTSAを熟知していたにもかかわらず、議会がDTSAに同様の継続的使用禁止規定を盛り込まなかったことは、制定前に始まっり継続されている不正使用にも同法を適用するという議会の意図を示唆していると解釈。したがって、DTSA制定前の企業秘密の不正利用は、制定後の不正利用や同じ企業秘密の継続的な使用に起因する請求を排除するものではないと判断しました。
特許出願で企業機密が「公開」された場合、DTSA請求は維持できない
しかし、第9巡回区は、疑惑の企業秘密が特許出願で公開された場合、企業秘密としての保護を失い公知となるとしています。したがって、特許出願に含まれていた企業秘密の不正利用についてはDTSA請求をすることができなくなります。
ただし、被告が特許出願に含まれていた情報よりも多くの情報を不正利用したことを原告が証明できれば、DTSA請求は維持できる可能性はまだ残されています。
DTSA請求の幅は広がったが、企業機密の「開示」には気をつけるべき
今回の判決でDTSAの継続的使用の可能性が認められる可能性がわかったので、DTSA請求できる事件の幅は広がりました。しかし、時間が経過し、DTSA制定時から遠ざかるにつれて、DTSAの継続使用の原則が関係する可能性のあるケースの数は減少していくでしょう。
この判例でより重要なのは、DTSA請求の対象となる企業機密が特許出願で開示されていないこと、もしくは、たとえ開示されていても、その内容以上のものに基づいていることを確認することでしょう。
参考文献:”Ninth Circuit Recognizes Continued Use Doctrine under the DTSA, but Confirms that Patent Publication Precludes Claim” by John P. Phillips and Jesse M. Coleman. Seyfarth Shaw LLP