With Prejudiceの訴訟取り下げであっても弁護士費用が認められる可能性がある

要約:規則41(a)に基づくPrejudice付きの訴訟取り下げであっても、規則54(d)に基づく弁護士費用の検討は排除されない。

ミニ解説

裁判の際に、申立人が訴訟を取り下げる場合、通常はwithout prejudiceという条件が付いてきます。この場合、申立人はまた訴訟を起こせる条件が整えば、同じ請求で裁判を起こすことができます。しかし、Prejudice付きの訴訟取り下げ(with  prejudice)の場合、申立人は同じ請求で裁判を起こすことができなくなります。

アメリカの民事訴訟の大部分、特許訴訟で言うと80%以上は採取的には「和解」で訴訟が終わります。その際に、申立人と被告が共同で訴訟の取り下げを裁判所に申し出ますが、そのときに、Prejudice付きにするのかPrejudiceなしにするのかなどが当事者間で議論されることがあります。

また、申立書や裁判を起こした際に何らかの不適和があったとき、申立人はいまある訴訟をwithout prejudiceで取り下げ、その不適和を直して、新たに訴訟を起こすことがあります。

判例:KEITH MANUFACTURING CO. v. BUTTERFIELD

概要

Keith Manufacturing社は、元従業員のLarry Butterfield氏が取得した特許に関連して、同社の元従業員であるLarry Butterfield氏を提訴しました。18か月間の訴訟の後、当事者は規則41(a)に基づいてPrejudice付きの訴訟取り下げを提出しました。その後、Butterfield氏は規則54(d)に基づき弁護士費用を請求しました。連邦地裁はこの申し立てを却下しました。連邦地裁は、Microsoft Corp. v. Baker, 137 S. Ct. 1702 (2017)における最高裁の判決に基づき、Prejudice付きの訴訟取り下げは規則54(d)に基づく弁護士費用を得るために必要な「判決」ではないと判断しました。この判決を不服にButterfield氏は控訴します。

控訴された案件は、連邦巡回控訴裁で審議され、地裁を覆し、さらなる審理を求めて再送還しました。連邦巡回控訴裁判所は、Prejudice付きの訴訟取り下げが規則54に基づく「判決」を構成するかどうかを判断する際には、Microsoft判例は適用されないと判断しました。連邦巡回控訴裁判所は、Microsoft判例は規則54条に基づく「判決」ではなく、合衆国法典第28条第1291条に基づく「最終決定」を扱ったものであり、この2つの用語は同等ではないと指摘した。連邦巡回控訴裁はまた、規則54に関する調査では、Microsoft判例で問題となっていた政策上の懸念は生じていないと判断しました。

解説

今回の判決は、申立人の軽率な特許訴訟を抑制する効果があります。

Keith Manufacturingケースでは、訴訟が始まってから18ヶ月後に当事者が共同でPrejudice付きの訴訟取り下げを行っています。今回の判決ではあまり事実背景が描かれていないので詳細はわかりませんが、Prejudice付きの訴訟取り下げをしたということは、訴訟は被告有利の状況だったと思われます。

つまり、逆に見ると、申立人は事前の準備や調査を十分に行わないまま特許訴訟に踏み切った可能性があります。私個人も訴訟はビジネスツールの一環だと考えているので、訴訟を起こす必要があるなら訴訟をするべきだと思いますが、相手に嫌がらせをするための訴訟はやるべきでないと思っています。

アメリカの場合、原則、訴訟の弁護費用は自分持ちです。つまり、訴訟を起こされてしまったら、どんなに不条理な主張であっても、自分のことを弁護しないといけません。最終的に和解になり、訴訟が取り下げられても基本、使った弁護士費用が戻ってくることはありません。しかし、それには例外があり、規則54(d)によって弁護士費用を請求することができるのです。

この規則54(d)に基づく弁護士費用は、申立人が軽率な特許訴訟を行った際に、認められることが多いです。

しかし、地裁の判決がそのまま連邦巡回控訴裁判所で肯定されてしまっていた場合、with Prejudiceの訴訟取り下げをしたら、規則54(d)が適用されず、申立人は軽率な訴訟を起こしても被告側の弁護士費用を肩代わりするリスクがなく、軽率な訴訟を助長するような判例になってしまいます。

しかし、今回、連邦巡回控訴裁判所が知財の判決を覆したことで、たとえ、with Prejudiceの訴訟取り下げられても、申立人は被告人の弁護士費用を肩代わりしなければいけないリスクが残りました。

この判例によって、訴訟を起こす申立人が事前の調査などを行い十分侵害の可能性があるケースだけに訴訟を起こすようになっていくことが期待されます。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Justin J. Gillett, Karl W. Kowallis and Paul Stewart. Knobbe Martens  (元記事を見る

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