コロナ禍の善意のサービスであっても著作権侵害になりえる

この訴訟は、Internet Archiveがパンダミックの初期に「National Emergency Library」を立ち上げ、140万冊のデジタル化された書籍を待ち時間なしで読めるようにしたことがきっかけでした。COVID-19のロックダウン時に図書館が閉鎖されている間、デジタル書籍を貸し出す臨時のサービスで、同年3月24日から6月16日まで運営されていました。善意で行われたサービスのようですが、書籍の著作権を持つ出版社はInternet Archiveを著作権侵害で訴え、地裁では出版社側の全面勝訴に至りました。今回は特にフェアユースと変革的利用(transformative use)に関してこの判決を考察していきます。

判決文:HACHETTE v. INTERNET ARCHIVE

ニューヨークの連邦地方裁判所は、Internet ArchiveのOpen Libraryプロジェクトが数百万冊の書籍のデジタルコピーをオンラインで公開することは、著作権侵害にあたると判断しました。Internet Archivesと参加図書館が書籍の印刷物を購入し、ほとんどの場合、1対1で借りられるようにしていたようですが、裁判所はInternet Archivesのフェアユースの抗弁を却下しました。裁判所は、フェアユースの適用範囲を広げようとしたInternet Archivesの主張を拒否し、印刷物の所有者は、たとえ配布を制限したとしても、単にデジタル化して公衆に提供することはできないということを示しました。

単なる著作物のデジタルコピーは変革的(transformative)ではない

裁判所は、Internet Archiveの利用の目的と性質が変革的(transformative)であるかどうかについて、広範な分析を行いました。最終的に、Internet Archiveは単に著作物の完全なコピーをスキャンして公衆に配布しただけであったため、裁判所はその利用が変容的なものではないと判断しました。

このケースで裁判所は、被告が書籍の全コピーをスキャンしたものであっても、オンラインユーザーがその内容を検索できるようにしたケースと今回のInternet Archivesのケースを慎重に区別しました。というのも、これらの検索できるケースでは、被告は抜粋を一般に公開していただけだったからです。しかし、今回のInternet Archivesのケースで裁判所は、著作物の形式を変えるだけでは、変形的利用を示すには不十分であると判断しました。

フォーマットをデジタルにしたことによるアクセスの向上は変革的利用(transformative use)ではない

裁判所は、Internet Archiveが主張した、図書館に容易にアクセスできない人々が作品を利用できるようにしただけであり、変革的利用であるという理由を退けました。Internet Archive社は、同社のOpen Libraryは、最高裁がSony Corp. of America v. Universal City Studios事件で、ベータマックス機のホームユーザーがテレビコンテンツを録画して後で視聴することは著作権を侵害しないとした際にフェアユースと認めた「タイムシフト」の類に類似していると主張しました。しかし、今回の裁判では、オープンライブラリーがオリジナルの代わりに作品を配布するという行為は、ベータマックスの判決で定められた範囲に収まらないと判断されました。Internet Archiveは、出版社が販売する書籍の代替品を提供しているに過ぎないとみなされたわけです。

「無料」サービスでも著作権侵害になりえる

裁判所はまた、Internet Archiveの利用が完全に非商業的であったという主張も退けた。Internet Archiveは非営利団体であるが、資金調達の手段としてOpen Libraryを利用し、そのサービスを通じて所在する書籍の販売から利益の一部を受け取っていることから、商業活動に従事していたことになると判断されました。裁判所は、Internet Archivesが電子書籍の利用によって利益を得ている以上、オープンライブラリーの利用者が電子書籍を読むことが非商業的であることは「ほとんど関係ない」と判断しました。

先販売法(first sale doctrine)には作品を複製する権利は含まれていない

また、裁判所は、Internet Archiveの利用が、著作物の正当な購入者がその著作物を再販売することができるという先販売法(first sale doctrine)に合致しているというInternet Archiveの主張も退けた。Internet Archiveは、1対1ベースで作品の配布を管理している、つまり、Internet Archiveやその参加図書館が所有する印刷物1部に対して、デジタルコピーは1人にしか貸与されないと主張しました。しかし、先販売法のいかなる規定も、Internet Archiveが許可なく配布するために作品を複製することを認めてはいない。

最後に、裁判所は、オープンライブラリーが原告出版社と同じ消費者を対象としており、競合していたと判断しました。裁判所は、Internet Archivesが提出した、オンライン・ライブラリーが出版社の収益を損なわないことを示唆する証拠は、オープン・ライブラリーと出版社の利益との間に因果関係を示すものではないため、無関係であると判断しました。また、いずれにせよ、そのような証拠は、裁判所が変革的な使用ではないと判決を覆すには至らないという判断でした。

Internet Archivesは上訴を計画しているとのことです。

参考記事:District Court Rules Internet Archive’s Open Library Project is Not Fair Use | Global IP & Technology Law Blog

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