今日製品のデザインは大切な要素の1つです。知財においてもApple v. Samsungでデザイン特許が注目を集めて以来、デザイン特許の需要は伸びてきています。そこで、今回はハードウェア会社のためのデザイン特許の基本を紹介します。
デザイン特許の出願数は、2008年のリーマンショック以降、年々増えていて、特にApple v. Samsungの最高裁判決があった2016年には急増していることがわかります。(グラフは元記事に掲載されています。)
デザイン特許はすべての業界に適用されるものですが、特にハードウェア会社にとって重要な知財になります。予定されている製品のデザイン候補や既存の製品のマイナーデザインチェンジなどが常にあるハードウェア会社にとって、デザイン特許の特徴を知り、賢く活用することは知財戦略において重要な点になってきます。
Patentabilityの問題
デザイン特許は一般的なUtility patentとは違うものですが「特許」なので、同じように新規性(novelty)や進歩性(obviousness)が問われます。
そこで、ハードウェア会社がデザイン特許を取得する場合、出願を予定している製品のデザイン候補や既存製品のマイナーデザインチェンジが既存の製品等と比較して十分「新しい」必要があります。
費用と効果の問題
また、当然出願には費用がかかるので、どのデザインチェンジやデザイン候補を保護するべきでどれを保護しないのかを見極め、費用対効果を検討する必要があります。しかし、その「効果」の部分の分析が難しく、訴訟になったとしても権利化後の数年後である可能性が高いので、金銭やリソース面でどのデザインを特許で守るべきかというのは、非常に難しい判断です。
侵害の判断
デザイン特許はまったく同じものでなくても、十分に似ていれば侵害の可能性があります。しかし、ハードウェア会社にとっては、いつ侵害が起こるかということよりも、何がデザイン特許を侵害しているのかという問題のほうが重要になってきます。
言い直すと、侵害・非侵害の議論そのものよりも、デザイン特許で守られている部分が製品のどの部分なのかという議論のほうが大切になります。なぜかというと、これも2016年にあったApple v. Samsungの最高裁判決にさかのぼります。
35 U.S.C. § 289 (2019)において、”article of manufacture” (AOM)がデザイン特許を侵害していれば、特許権利者は賠償金が得られます。最高裁での議論は、このAOMが何なのかであり、AppleはSamsungの携帯全体がAOMであると主張し(つまり賠償金のベースが携帯価格になる)、Samsungは携帯の一部がAOMである(つまりAOMと判断されたパーツベースで賠償金が計算される)と主張しました。
最高裁では、Samsungの主張が採用されましたが、結局AOMが何だったのかの明確な判決やテストは示されずに終わりました。その後、最高裁から差し戻されたthe Northern District of California で以下のような4つのファクターによるAOMテストが採用され、今日に至っています。
- The scope of the design claimed in the patent (i.e., the drawing and written description)
- The prominence of the design within the product as a whole
- Whether the design is conceptually distinct from the product as a whole
- The physical relationship between the patented design and the rest of the product (including whether the design is applied to a discrete component that is easily separated from the product as a whole) (Apple v. Samsung, Case No. 11-CV-01846-LHK, 2017 U.S. Dist. LEXIS 177199, at *82-83 (N.D. Cal. Oct. 22, 2017)
このようなデザイン特許の判例や流れを見てもわかるように、ハードウェア会社がデザイン特許の侵害問題を検討する場合、侵害・非侵害の判断だけでなく、製品全体が侵害しているのか、または、製品の部品が侵害しているのかという部分まで調査・判断する必要があります。
賠償金を算出するベースとなるAOMの価値が上がれば上がるほど賠償金自体も多くなるので、侵害検討をする場合、AOMがどのように判断されるかによっていくつかの賠償金算出を行うことが大切になってくると思います。
ハードウェア会社のデザイン特許戦略
戦略を考える上で2つ重要な点があります。
1つ目はデザイン特許の保護範囲。1つの製品に複数の部品やデザインの特徴がある場合、それら複数の特徴をすべて含む製品全体を対象としたデザイン特許を取得するのか、それとも、こまかな1つ1つの特徴を複数のデザイン特許で守るのかという選択。
2つ目は、各特許の内容。クレームを(リリースされる製品における)特徴に限定するのか、それとも、(採用されなかった)他のデザイン候補も含めてクレームするのか。
効果的なデザイン特許戦略は、この2つの点において会社にあったバランスを見つけることから始まります。そのためには、製品の価値や、部品の価値、デザイン特許の予算やリソース、競合他社やアフターマーケット、代替パーツの存在、修理の容易さなど様々な要素が関わってきます。
今からできること
ハードウェア会社にとってデザイン特許は無視できない知的財産権になっています。アメリカではデザイン特許の取得や活用が活発になってきているので、事業リスクの面からも自社にあったデザイン特許戦略をなるべく早くに考える必要があります。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: Bijal Vakil . White & Case LLP (元記事を見る)