主要な国の特許庁や裁判所の見解を見ると世界のコンセンサスは「人工知能は発明者にはならない」ということで一致しています。実質審査がない南アフリカは別として、唯一オーストラリアが人工知能を発明者と認める動きを見せていましたが、今回の控訴審で一転しました。
オーストラリア連邦裁判所は控訴審で、特許は、発明者または「発明者に代わって権利を主張する者」(somebody claiming though the inventor)にのみ与えられるという点において、「後者は自然人からしか生じず、法的同一性のない機械からは生じない」という判決を下しました。
この2022年4月13日に発行された判決により、オーストラリア連邦裁判所は、人工知能(AI)マシンであるDABUSがオーストラリア法に基づく特許出願の発明者に該当するとした2021年の判決を覆しました。
DABUSを発明者とした出願キャンペーン
今回の話は、DABUSという人工知能を開発したDr. Stephen Thalerが主導するプロジェクで、オーストラリアを始めとする10カ国以上でDABUSのみを発明者とした出願をおこなっていました。
しかし、実質審査がない南アフリカ以外では、人工知能が発明者として認められておらず。2021年にオーストラリアの裁判所で人工知能でも発明者となりうるという趣旨の判決が出たときは、けっこう話題になりました。
しかし、控訴審において、連邦裁判所の5人の裁判官からなるパネルは、DABUSを唯一の発明者として挙げている事実に注目し、人工知能マシンが発明の発明者となることは、特許出願が失効するような法的不可能性であるため、これは名称要件を満たさないという見解を示しました。
人工知能を発明者として認識するには法改正が必要
これまでのDABUS関連の特許庁の見解や判例を見ると、現在の特許法は「人間のみが発明者である」ことを前提に成り立っています。たとえば、当業者であるPHOSITA(A person having ordinary skill in the art)は空想上の人物が基準になっており、その当業者の基準によって、自明性(obvisousness)などが議論されます。
もし人工知能が発明者になる場合、このPHOSITAを用いる自明性判断の基準なども変える必要があることが考えられ、そうなると法律の解釈だけでは対処できない部分が出てきてしまう可能性があります。
このように今の枠組みに「人工知能も発明者になりえる」という概念を加えようとすると、どうしてもムリが生じる可能性があるので、もし「人工知能も発明者になりえる」ことを認めるようにするのであれば、特許法の改正が必要になると思われます。
参考文献:DABUS Sent Back to Drawing Board Following Reversal of Inventorship Decision by Australia Court