膨大なサイバーセキュリティへの投資、比較的新しいサイバーセキュリティ関連特許の数、侵害検知がしやすい特徴、市場のプレイヤー数などを総合して考えると、今後サイバーセキュリティ関連特許による特許訴訟が増えてくる可能性があります。
サイバーセキュリティへの投資
ここ数年の大型データブリーチやハッキング等の影響からか、サイバーセキュリティへの投資が上がってきています。Cybersecurity Venturesという会社の予測では、2017-2021の間に投資額が $1 trillion を超えるとされています。また、アメリカ政府においてはFY2019の予算で$15 billionを投資する予定です。このようにサイバーセキュリティは政府・民間問わず、今後も大きな投資が見込める 分野です。
このように投資額や市場が成長することは当事者にとってはよいことですが、弊害もあります。その弊害の1つは特許訴訟のリスクが上がることです。市場の拡大により以前よりもより多くの賠償請求額をえられたり、競合他社へのプレッシャーにもなる可能性があるので、このように成長する市場では特許訴訟が増える傾向にあります。
特許の数
市場の拡大に応じてサイバーセキュリティ関連の特許数も増加しています。国別で見ると中国とアメリカでサイバーセキュリティ関連の特許数が特に多いので、アメリカや中国における特許訴訟の増加が懸念されていいます。
また、サイバーセキュリティ関連の特許数の伸びは比較的最近の動きなので、訴訟の対象になる特許は若く、特許の有効期限が長いものが多いです。このような場合、訴訟における賠償金や和解によるライセンス契約等によるロイヤルティー支払いの義務が長期化する恐れがあり、長期的に影響が出てくる可能性があります。
侵害を特定できる特許
特許侵害は侵害を特定しやすい機能がクレームされていると重宝します。サイバーセキュリティの根幹になる部分は機密になっていたり、特許になっていても侵害を特定するまでに至らないこともありますが、サイバーセキュリティ関連の特許にはユーザーインターフェースから侵害を特定できるものも数多くあります。
このような製品やサービスを使うユーザサイドに見える部分での特徴等に関わる特許クレームなどは今後積極的に権利行使されることが予想されます。
市場のプレイヤー数
サイバーセキュリティ市場はまだ成長過程で、実にさまざま企業が混在しています。企業のサイズも大手からスタートアップまであるので、それぞれの思惑が複雑に絡み合う中、競合他社にプレッシャーをかけるために特許訴訟を起こすという手段を選択する企業も増えてくるかも知れません。
このような状態で一番リスクが高い企業が、売り上げがそこそこあるにも関わらず特許などの知的財産をほぼ持っていない会社です。これらの会社を特許訴訟で訴えても、特許によるカウンターを心配しなくてもいいので、ターゲットにされやすくなります。しかし、特許を持っているからといって安心もできません。
まとめ
サイバーセキュリティ業界の企業は今から自社の技術を知財化し、競合他社の知財状況を監視し始めた方がいいかもしれません。市場が成長していくのはうれしいですが、そこでは激しい競争が予想されます。それはだた単に製品やサービスの善し悪しだけでなく、知財も大きく関わってくるので、事前の対策をお進めします。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: Elliot C. Cook and Jeffrey A. Berkowitz. Finnegan, Henderson, Farabow, Garrett & Dunner LLP(元記事を見る)