新型コロナウイルスに見る知財戦略の対比

COVID-19に対してまず行うべき対策は、新型コロナウイルスに既存の技術を適応させることです。現場では治療薬・治療方法確立のために様々な努力が行われていますが、多くの組織が協力できるよう知的財産の保護も必要になってきます。

今回はCOVID-19をめぐるイノベーションの具体例として、有望なCOVID-19治療薬であるレムデシビルを取り上げ、そのようなイノベーションに関する特許に期待されるものを紹介します。

レムデシビルはもともとGilead Sciences社がエボラの治療のために開発したものです。Gileadは、レムデシビルを用いてアレナビル科およびコロナビル科のウイルスを治療するために複数の特許出願を行っており、COVID-19の出現よりもかなり前の2015年に提出された開示に基づいています。 さらにCOVID-19 の出現以来、武漢ウイルス研究所が COVID-19 の治療にレムデシビルを使用するための新しい特許を出願しています。 このように、レムデシビルは注目を集めているので、多様な特許戦略とその戦略がどう相互作用するかを説明するのにいいケーススタディとなります。

Gilead社の戦略

Gilead社は、COVID-19の新規出願がなされた後、既存の知的財産を拡張する戦略をとっています。これは、2015年以降に開発された第三者の発明が先行技術として扱われることを心配することなく、Gilead社がさらなる保護を得ることを可能にするという明確な利点があります。しかしながら、Gileadの戦略はCOVID-19の出現前に作成された開示に基づくため、レムデシビルがCOVID-19にどのように適用されうるかについての詳細は書かれていません。さらに、既存の知的財産に基づく戦略は、すでに出願済みの案件にクレームや新たな出願を追加することになります。しかし、そのような手法は、出願している国によってルールが異なるため、すべての出願国で同じような戦略がとれるとは限りません。

武漢研究所の戦略

Gilead社とは対照的に、武漢研究所の出願は、レムデシビルを COVID-19 に適用した場合の保護を求めるというアプローチをとっています。これにより、コロナウイルス全般を対象とした開示に頼らなければならないというGilead社の戦略の欠点を回避することができます。また、武漢研究所は、COVID-19 に特化した治療ステップに頼ることで、各国の特許庁に特許を与えるように説得することができます。武漢研究院は既存の開示に頼らないため、新たなクレームを追加する際に、出願国における自由性・制限性の違いを心配する必要がありません。しかし、武漢研究所には、すでに開示された出願がないので、優先権を主張することができません。

つまり、2015 年以降の第三者の発明と比較して、 COVID-19 の特定の機能が特許可能であることを示す必要があります。また、それらの特徴がGilead社の既存特許と比較して特許可能であることも示す必要があります。武漢研究所が特許を取得したとしても、記載されている技術を使用するには、ギレド社からライセンスを取得するか、レムデシビルのCOVID-19への特定の用途が、一般的なコロナウイルスの治療にレムデシビルを使用することに対するギレド社の保護の範囲内に収まらないことを示す必要があります。

異なる戦略がもたらす結果は協力

保護を求める戦略が異なるため、Gilead社と武漢研究所は、レムデシビルとそれを使用するために開発された特定の技術が COVID-19 の治療に広く採用され、利用できるようにするためにお互いに協力していくことになるでしょう。

武漢研究所の特許出願が承認された場合、(政府が強制的に実施するライセンスのような特別な措置がない限り)武漢研究所とGilead社が何らかの合意に至らない限り、誰も COVID-19 を治療するために武漢研究所が記載している技術を使用することはできません。しかし、武漢研究所とGilead社は、お互いの知的財産の使用を阻止するような状況を回避するよりも、協力し合うことでより多くの利益を得ることができます。

武漢研究所は、後発の特許出願しかしていないため、Gilead社 とは異なり、全く保護を受けられないリスクがあります。一方、武漢研究所は、Gilead社とは異なり、既存の開示に基づく新たな請求項の提出について、出願国の違いによる自由度の高低を気にする必要がありません。Gilead社と武漢研究所が協力することで、武漢研究所は世界中で COVID-19 に特化した保護の可能性を提供し、Gilead社は COVID-19 に特化していなくても既に承認されている保護のベースラインを提供することで、それぞれの弱点を補うことができるのです。

クロスライセンス契約を強制しようとすることは、既存の技術をCOVID-19との戦いに適用することに成功したイノベーターにとって、共通の戦略である可能性が高いです。たとえ彼らが特許を行使する意思がなく、独自の保護がない場合でも、後発のイノベーターは、既存技術の所有者に既存技術を使わせる方法を持っていません。このことが、武漢研究所の特許出願の動機となったようです。武漢研究所は、特許によって外国企業に特許化された治療法を使わせないようにしたり、あるいは、使用された場合、ロイヤリティー求めるということを望んではいないようです。 既存技術の再利用が COVID-19 との戦いにおいて重要な役割を果たしてきたことを考えると、レムデシビルの例は、既存技術の新たな用途に対する特許と、新たなイノベーターと過去のイノベーターの両方がお互いの技術をこの病気に適用することを可能にするクロスライセンスの重要性を物語っています。

解説

武漢研究所の特許出願が行われた際、多くのメディアで取り扱われましたが、正しくない情報や不安による研究所の発表とは異なる推測による報道がされてしまったこともありました。

しかし、今回の記事を読んでみるとCOVID-19 の治療を普及させるためにいかに武漢研究所とGilead社は協力することがいかに合理的かということがわかると思います。そして、研究は知財で守ることが大切だという点も今回の武漢研究所とGilead社の異なる知財戦略から見えてくると思います。

研究と知財は本来切っても切れない関係にあります。今回のレムデシビルにまつわる武漢研究所とGilead社の知財戦略とクロスライセンス契約の合理性は、特許出願に否定的な研究者を説得するのにいい例になったと思います。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:William S. Morriss. Frost Brown Todd LLC(元記事を見る

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野口 剛史

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