最高裁は、登録者の著作権法に対する無知や誤解に起因する不正確な情報が含まれていても、著作権登録は有効であると判示しました。この判決により、単に不正確な情報に基づいて著作権登録が無効となる可能性は低くなったと言えるでしょう。しかし、これは知財では例外として扱われるべきです。
判例:Unicolors, Inc. v. H&M Hennes & Mauritz, L.P., 595 U.S. __ (2022)
著作権登録までの流れと不正確な情報の取り扱い
著作権登録を受けるには、作品の著作者は、作品に関する情報を提供する申請書を米国著作権局に提出しなければなりません。著作権局が、その作品に著作権があり、その他の法的要件を満たしていると判断した場合、著作権局は、登録者が申請書に記載した情報を反映した登録証明書を発行します。
申請時に登録者が申請書に不正確な情報を記載した場合、結果として登録が無効になることがあります。しかし、そのような「不正確な」記載があっても、著作権法にはセーフハーバー(safe harbor)というものがあり、「不正確な情報が不正確であることを知りながら著作権登録の申請書に記載された」場合を除き、不正確な情報にもかかわらず登録は有効であると規定されています。
著作権登録時にルールを知らなかったことは許されるのか?
Unicolors, Inc. v. H&M Hennes & Mauritz, L.P., 595 U.S. __ (2022) において、最高裁判所は、「不正確であることを知りながら」という言葉に着目し、この文言は、申請書の不正確さが申請者の事実に関する知識の欠如に起因する場合にのみ当てはまるか、あるいは不正確さが申請者の法律に関する知識の欠如から流れた場合も当てはまるかについて検討しました。
裁判所は、「事実または法律のいずれかの知識の欠如は、著作権登録の不正確さを免責することができる」(つまりセーフハーバーの範囲内である)と判断しています。
今回のUnicolors事件では、Unicolorsはある布のデザインの著作権を所有しており、著作権侵害でH&Mを訴えていました。

H&Mは、Unicolorsの登録は不正確な情報が含まれているため無効であり、したがってUnicolorsは侵害を訴えることができないと主張し、抗弁しました。著作権局の規定では、複数の著作物が特定の要件を満たす場合でなければ、登録者は複数の著作物を一度に申請することができないとなっています。しかし、今回問題になった商標出願において、法的要件を満たしていないという認識がない状態で、Unicolorsは31の別々の作品をすべてまとめて1つの出願をしていました。
問題は、このような知識の欠如が、著作権法の「不正確であることを知りながら」という文言を満たすかどうかということでした。
最高裁判決におけるセーフハーバーが適用される「無知」の範囲の解釈
この問題に対して、最高裁は、不正確な情報はUnicolorsの著作権登録を無効にするものではないと判断しました。
裁判所は、その判決を支持するいくつかの理由を示します。まず、裁判所の結論は、著作権法の条文に従ったものであるという点です。Unicolorsは、登録しようとしている31のデザインが、単一の出願に含めるための要件を満たしていないことを知らなかったと主張。このシナリオは、表面上、著作権法のセーフハーバー規定を満たしているように見えます。つまり、Unicolorsは、「(申請書の)情報が不正確であることを知って」行動したわけではないというように理解することができます。
さらに、セーフハーバーは、事実に関する知識と法律に関する知識を明確に区別していません。もし、議会がセーフハーバーを法律上の間違いではなく、事実上の間違いに適用することを意図していたならば、議会はセーフハーバー自体の文言でこれを明確にすることができたし、おそらくそうしていたであろうと法律を解釈。そうしなかったということは、議会はセーフハーバーが事実上の間違いと法律上の間違いの両方をカバーすることを意図していたことを示唆していると述べました。
さらに、この結論はセーフハーバーの立法経緯によってさらに支持されているという理解を示しました。議会での経緯をたどると、議会が著作権の取得と行使を容易にし、有効な著作権登録の行使を妨げる可能性のある抜け穴を排除するためにセーフハーバーを制定したことを示しています。これらの目的に照らせば、セーフハーバーが、著作権法の詳細についての誤解による著作権の無効を食い止めるように作られたことがわかります。
このような理解のもと、最高裁は、セーフハーバーは、事実上の誤りだけでなく、法的な誤りにも適用されると結論づけたのですが、それと同時に、この判例の適用範囲についても重要な制限を設けます。
それは、下級審は、著作権者の著作権法を知らなかった、理解していなかったという主張をすべて鵜呑みにして自動的に受け入れる必要はないということです。著作権登録者は、法律上の要件を故意に無視することは許されません。つまり、登録者が著作権法を無視することを選択した場合、あるいは著作権法について無知なままであった場合、登録者は後になって、法律に対する無知や誤解がセーフハーバーの下で許されると主張することはできないのです。
さらに、裁判所は、法律上の誤りの重大性、適用される規則の複雑さ、および申請者の著作権法に関する過去の経験などの状況証拠を考慮し、申請者が著作権登録における法的に不正確な情報を実際に認識していたと判断することもできます。
著作権の有効性を否定するのは難しくなった
このような制限があるものの、今回の判決が著作権申請者や保有者にとって有益であることは明らかです。なぜなら、今回の判決により、著作権登録が無効となる可能性が低くなるからです。しかし、著作権申請者は、法律上の要件を故意に無視し続けることはできないため、要件に曖昧さや不確実性がある場合は、弁護士に相談する必要があります。
すでに著作権を取得しているのであれば、不正確な情報が含まれているからといって、その登録が無効であると考えるべきではありません。むしろ、不正確な情報の理由を弁護士に相談し、その不正確さが著作権法のセーフハーバーに該当するという主張を弁護士と一緒に展開する必要があります。
著作権侵害の疑いのある者にとっては、今回の判決は明らかに楽観視できないものです。この判決により、著作権登録を無効とするために利用できる手段が減りました。申し立てられた著作権侵害者は、単に登録の不正確な情報に基づいて登録を無効化できる可能性が低くなります。その代わり、被疑侵害者は、弁護士と協力して、より明白でなく、より微妙な抗弁を特定し、主張を展開する必要があると思われます。
今回のような特定の状況でない限り法律の無知が言い訳になるとは考えない方がいい
最後に、アメリカの格言で「法律の無知は言い訳にならない」(“ignorance of the law is no excuse” )ということばがあります。これは一般的な法律(たとえ信号無視が違法としらなくても、実際に信号を無視して警察に捕まれば罰せられることになる)でも、特許などの他の知的財産(拒絶通知を指定された期間内に対応しないと権利放棄とみなされたり、他社の知財を無視してビジネスをやっていたら、権利者から訴えられる)でも同じです。
しかし、今回の最高裁の判決は、一見この「法律の無知は言い訳にならない」という格言に反しているように見えます。
これは、著作権は著作物を創作した時点で自動的に発生し、その取得のためには原則手続きを行う必要がないという、商標や特許など登録されて初めて権利が発生する知財とは異なる性質にあることが大きいと思われます。(アメリカにおいては著作物を登録しておくメリットがあるのですが、それは権利を認める・認めないという話ではなく、著作権局に「お墨付き」をもらうという感覚がわかりやすいと思います。)このように本来は登録前にすでに存在している著作権なので、今回のような手続き上の「無知」には、セーフハーバーが適用されるべきと判断されたのだと思います。
しかし、「法律の無知」が裁判所でも有効な言い訳になるという状況はほとんどないので、この最高裁の判決を拡大解釈することなく、法律に関する理解を深め、必要であれば、専門の弁護士に相談することをおすすめします。