インターネット上の著作物の侵害とそれに基づくアメリカでの訴訟の際の管轄問題

インターネット上のサービスを日本などのアメリカ以外の国で運営していたとしても、連邦ロングアーム法によって、アメリカの裁判所で著作権侵害訴訟を起こされる可能性があります。ポイントはコンテンツを米国に「意図的」に向けたかというものですが、この問題は事実証拠に基づく判断です。アメリカで意図しない訴訟に巻き込まれないようにするには、アメリカからのアクセス数やそこからの収入、アメリカ向けと思われるようなサービスの向上などに気をつけましょう。

米国第9巡回区控訴裁判所は、ミニマム・コンタクト・テスト(minimum contacts test)の第1段階(外国人被告が意図的に米国に活動を向けたか否か)に着目し、日本語の動画投稿サイトの運営者に対する特定の人的管轄権 (specific personal jurisdiction) を有していないとした連邦地裁を破棄し、連邦ロングアーム法 (Fed. R. Civ. P. 4(k)(2)) の下での更なる分析のため、本件を差し戻しました。

判例:Will Co. v. Lee, Case No. 21-35617 (9th Cir. Aug. 31, 2022) (Wardlaw, Gould, Bennett, JJ.)

日本語コンテンツを取り扱う香港・カナダのアダルトサイトはアメリカの裁判所の管轄に含まれるのか?

Willは、米国著作権局に50,000本以上のビデオを登録している日本のアダルト・エンターテイメント制作会社です。Willは、そのコンテンツへのアクセスをウェブサイトで販売しており、米国の消費者から年間100万ドル以上の収入を得ています。被告Youhaha Marketing and Promotion (YMP)とLeeは、YouTubeに似た日本語のビデオホスティングサイトであるThisAV.comを所有・運営しています。ThisAV.comでは、ユーザーが無料で動画をアップロードし、第三者業者が掲載する広告と一緒に閲覧することができます。

Willは、ThisAV.com上に13本の自社ビデオを発見した後、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づき、被告に削除通知を送りました。しかし、被告がテイクダウン通知に応じなかったため、Willは著作権侵害で訴えます。

被告側は、Leeは香港の永住者で現在はカナダに住んでおり、YMPは香港(ThisAV.comを運営している)で登記されているため、対人管轄権の欠如を理由に訴えを却下するよう求めました。Willは、被告が著作権で保護されたビデオを表示することは米国と十分に関係があるため、下級裁判所は被告に対して特定の人的管轄権を有すると反論しました。連邦地裁は、ThisAV.comのコンテンツは米国を「明示的に狙った」ものではなく、同サイトの閲覧者のうち米国人はわずか4.6%であることから、被告は「管轄権上の重大な損害」を与えていないと結論づけ、被告側の却下の訴えを認めました。その後、Willは控訴しました。

サイトがコンテンツを米国に「意図的に向け」たか?は事実上の問題

控訴審の主要な争点は、被告がThisAV.comのコンテンツを米国に「意図的に向け」たかどうかで、これは、被告が(1)意図的な行為を行い、(2)明確に法廷地を目指し、(3)被告が法廷地で被る可能性が高いと知っている損害を与えたかどうかを尋ねるminimum contacts Calder testに基づくものでした。 

第9巡回控訴裁は、YMPとLeeがThisAV.comを運営し、ドメイン名とドメイン・プライバシー・サービスを購入することによって、意図的な行為を行ったと完結に結論づけました。しかし、LeeとYMPがThisAV.comを米国に「明示的に向けた」かどうかは、より深い分析が必要な問題でした。

裁判所は、「単なるウェブサイトの受動的な運営」では、明示的な狙いを示すには不十分であると指摘しました。その代わり、運営者は「そのフォーラムの聴衆に訴え、そこから利益を得る」必要があるとしています。

そのため、裁判所はまず、米国の消費者がウェブサイトに掲載された広告を130万回以上閲覧し、被告は閲覧数に応じて第三者である広告主から報酬を得ていたことから、被告は米国市場から「利益を得ていた」と判断しました。さらに裁判所は、被告が意図的に、米国の消費者が待ち時間(ローディング時間)を短縮して素早くアクセスできるようにすることで、米国市場に「アピール」していたと結論づけました。待ち時間の短縮は、ユーザーの注目を集め、維持するために極めて重要であり、希望する視聴者の近くにあるサーバーでウェブサイトをホストするか、希望する地理的領域をカバーするコンテンツ配信ネットワーク(CDN)へのアクセスを購入することで可能になります。裁判所は、被告がサイトのホスティングをユタ州で行い、CDNサービスを北米で購入したことから、米国の消費者に「アピール」する意図があったと推論しています。

第9巡回控訴裁はまた、ウェブサイトの法令遵守のページは、米国の閲覧者にのみ関係するものであると指摘しています。プライバシーポリシーのページでは、サイトが米国のユーザーにとって合法であることだけが保証されており、ウェブサイトではDMCAや18 U.S.C. § 2257など、米国の法律に特化したページが提供されていました。これらの事実は、ホストサーバーとCDNが北米にあることに加え、被告が「他のすべてを排除して米国の訪問者のために準備した」ことを示し、サイトを明示的に米国に向けたものであったことを示しています。

最後に、第9巡回控訴裁は、ThisAV.comが米国で予見可能な損害をもたらしたと結論づけました。同サイトの閲覧者のうち、米国の顧客からの閲覧は4.6%に過ぎないですが、それでもこのわずかな割合が130万件以上の閲覧に相当します。さらに、被告はThisAV.comを米国のユーザーに「意図的に向けた」ことから、裁判所は、これらの閲覧は予見可能であると判断しました。したがって、同裁判所は、対人管轄権の欠如を理由とする連邦地裁の棄却を破棄し、規則 4(k) に基づくさらなる分析のために差し戻しました。 

参考記事:Foreign Video-Hosting Website Can’t Escape Long Arm of the Law

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