著作物の作成、使用、配布に携わる企業にとって、著作権侵害の要件や重要な事実証拠、救済など理解することが不可欠です。特に、インターネットを媒体にしたコンテンツはグローバルにアクセス可能なため、運営は日本であってもアメリカの著作権問題が発生することもあります。アメリカにおける著作権侵害の法的結果は、高額な金銭賠償や差止命令による救済を伴う厳しいものになる場合もあり、事業運営に大きな支障をきたす可能性があります。しかし、アメリカにおける著作権侵害と救済の仕組みについてまとめてあるリソースがあまりなかったので、今回は、企業が法的リスクを最小限に抑えながら、知的財産権の複雑な状況を乗り切るために便利な米国の著作権侵害制度の概要をまとめてみました。
侵害行為
著作権侵害を構成するものとは?
著作権侵害は、当事者が著作権者の排他的権利のいずれかを侵害した場合に発生します。有効な著作権を所有し、適用される許諾がないと仮定した場合、侵害行為には、以下の2つの要件が必要となります:
- 侵害者とされる者が、事実上、著作権者の排他的権利(複製、公の実演など)を侵害する方法で著作権者の著作物を複製すること、および
- 侵害者とされる者が、責任を生じさせるに足る著作権者のオリジナルの表現を流用すること。
特定の事件におけるこれらの要件の適用は、被告である侵害者の活動の性質によって大きく異なる可能性があります。著作権侵害問題のほとんどが、被告が原告の著作物を文字どおり行っていなかったり、、あるいはその全体を複製していない場合です。そのような場合、例えば、被告が原告の著作物を知っていたかどうか、複製の事実を仮定したとしても、被告が原告の著作物を「実質的に類似する」( ‘substantially similar’)と考えるのに十分な量を複製したかどうかなど、事実関係に実質的な疑問が生じる可能性があります。
無許諾のオンラインサービスの合法性に関わる訴訟では、通常、原告の著作物がそのまま使用されたことは争われません。代わりに問題となるのは、そのサービスが著作権者の排他的権利を侵害するタイプのものであるかどうか、また、サービス提供者がその行為に対して法的責任を負うかどうかです。
付随責任と寄与責任
間接的な著作権侵害に対して二次的責任は存在するか?どのような行為がそのような責任を負うのか?
間接的な著作権侵害に対する二次的責任(Secondary liability for indirect copyright infringement)は、法令で明確に規定されているわけではありませんが、判例によって確立されています。
二次的責任は、以下のような理論に基づいて認定されます:
- 被告が侵害行為を監督する能力を有し、侵害行為から金銭的利益を得ている場合の「代理責任」(vicarious liability)、
- 被告が侵害行為について知識または知る理由を有し、侵害行為に寄与し、許可し、または誘発した場合の「寄与侵害」(contributory infringement)、および
- 最高裁のGrokster判決で議論されているように、被告が明確な表現または侵害行為を助長するために取られた他の積極的な措置によって示されるように、侵害行為を促進する目的で行動した場合の「誘発」の理論(inducement)
利用可能な救済手段
著作権侵害者に対して利用可能な救済手段にはどのようなものがあるか?
著作権侵害に対する救済措置には、以下のようなものがあります:
- 侵害者が得た利益および著作権者が被った損失の著作権者への支払い、または状況によっては、実際の利益および損失に代わる「法定損害賠償」(‘statutory damages’ )、
- 侵害者の侵害行為の継続を差し止める裁判所命令、
- 侵害品の没収および破棄、
- 弁護士費用など
制限期間
救済を求めるための期限はあるのか?
著作権侵害の民事訴訟の時効は3年(刑事訴訟の場合は5年)です。これは、請求が発生した時点から測定されます。ほとんどの裁判所では、原告が侵害の事実を知った時点、または知る十分な理由があった時点で請求が発生したとみなされます。しかし、裁判所によっては、侵害が発生した時点で請求が発生したとみなす場合もあります。
訴訟の時点で、侵害が請求権の発生から3年以上継続している場合、著作権者は少なくとも過去3年以内に発生した侵害に対する救済を追求することができる。しかし、著作権請求の本質が著作権の所有権に関する紛争である場合、裁判所は、請求の発生から3年以上経過している場合には、継続的な過ちの主張を否定( rejected the assertion of an ongoing wrong)し、請求を棄却しています。
金銭的損害賠償
著作権侵害に対して金銭的損害賠償は可能か?
著作権侵害に対して金銭的損害賠償は可能です。著作権侵害の責任を認められた当事者は、著作権者の実際の損害と侵害者の追加利益、または著作権法が定める所定の範囲内の法定損害賠償のいずれかを請求することができます。ただし、法定損害賠償が認められるのは、侵害された著作物の登録が一定の期間内に取得された場合に限られます。
弁護士報酬と費用
著作権侵害訴訟において、弁護士報酬と費用を請求することはできるのか?
著作権侵害訴訟では、費用と弁護士報酬の両方を請求することができます。作品が一定の期間内に米国著作権局に登録された場合、裁判所の裁量で勝訴当事者に与えられることがあります。
刑事執行
著作権の刑事罰規定はあるのか?それはどのようなものか?
著作権法には刑事規定がある。故意に著作権を侵害した場合は刑事罰の対象となります:
- 商業的利益または私的な金銭的利益のために著作権を故意に侵害した場合、
- 180日の間に、電子的手段を含め、小売価格の合計が1,000米ドルを超える1つまたは複数の著作物の複製物またはレコードを複製または頒布した場合、または、
- 公衆がアクセス可能なコンピュータネットワークで利用可能にすることにより、商業的頒布のために準備中の著作物を頒布した場合であって、その著作物が商業的頒布を意図したものであることを知っていたか、知るべきであった場合
合衆国法典第18編(18 USC Section 2319C)は、さらなる侵害関連の犯罪を規定しています。それは、故意に、商業的利益または私的な金銭的利益を目的として、著作権で保護された著作物の侵害的な公開演奏を行うことを主目的とするデジタル送信サービスを公衆に提供することです。
著作権法は、その他様々な著作権関連の刑事犯罪を規定しています:
- 不正な著作権表示を物品に付すこと、またはそのような不正な表示が付された物品を公的に頒布または公的に頒布するために輸入すること、
- 不正な意図をもって著作物のコピーに表示されている著作権表示を削除または変更すること、
- 著作権登録の申請書または申請書に関連して提出された書面において、重要な事実について故意に虚偽の表示をすること、そして、
- 商業的利益または私的な金銭的利益を目的として、故意に、技術的保護手段の回避に関する法律の規定または著作権管理情報の完全性の保護に関する法律の規定に違反すること。
オンライン侵害
オンライン上の著作権侵害について、特定の責任、救済、抗弁はあるのか?
著作権法第 512 条は、オンライン・サービス・プロバイダーが一定の要件を満たした場合に、金銭的損害賠償を免除し、直接および二次的な責任を負う特定の行為に対する差止命令による救済を制限することにより、オンライン・サービス・プロバイダーに対して条件付きセーフハーバーを提供しています。特に、一過性のデジタルネットワーク通信、システムキャッシング、ユーザーの指示による情報の保存、情報ロケーションツールの提供については、セーフハーバーごとの詳細な要件と一般的に適用される一定の要件に従って、セーフハーバーが規定されています。
防止措置
著作権侵害はどのようにして防止されるのか(例えば、税関の取締り措置や技術的に注目される開発を含む)?
米国の著作権者は、著作権侵害を防止するために、以下のような様々な戦略を採用することができます:
- 著作権法上の著作権表示や、場合によってはその他の侵害に対する警告を作品に適用し、著作権局に作品を登録することによって、侵害を阻止する;
- 侵害を挫くための技術的保護手段を採用する;
- 米国税関・国境警備局に作品を記録し、侵害コピーを米国市場から排除する;
- 侵害を特定するために市場を取り締まること(オンライン上の侵害を特定するために専門業者を雇うことも含む);
- オンラインサービスから侵害物を削除するために法定または非公式の通知および削除手続を行使する;
- 侵害者に侵害行為の停止を要求する「停止命令」書簡(cease-and-desist’ letters)を送付する;
- 民事訴訟を提起する;および
- 適切な状況においては、刑事執行の可能性について法執行当局と協力する
また、著作権者を代表する業界団体も、侵害を規制するために、以下のようなさまざまな措置を集団的に講じています:
- 著作権の遵守や著作物の合法的な入手先に関する教育や情報提供を行うプログラムの支援、
- 電話による「タレコミ」窓口の運営、
- 侵害行為の調査、
- 集団的な強制措置
- 米国政府の通商担当官と協力して国外の重大な侵害問題の解決など