アメリカの場合、クレーム要素が明確に明細書に記載されている必要はないので、予期していない補正が必要な場合により柔軟に対応できます。そのため、開示に厳密な基準を用いている他の特許庁に比べ権利化できるチャンスが高いです。
2020年4月29日、特許審判不服審査会(以下「審査会」という)は、Ex parte Martinにおいて、特に、明細書中の記述的サポートを欠いていることを理由とする否定的限定を拒絶した審査官の拒絶を覆す決定を下しました。
Martinの独立クレームは以下の通りです:
1. A method of improving the growth of a plant comprising applying a plant growth effective amount of a plant growth composition comprising a hydrated aluminum-magnesium silicate and at least one dispersant selected from the group consisting of a sucrose ester, a lignosulfonate, an alkylpolyglycoside, a naphthalenesulfonic acid formaldehyde condensate and a phosphate ester to plant propagation material in the absence of insect pest pressure, wherein the plant growth composition excludes an insecticidally active component.
Appeal No. 2019-004372, at 2 (P.T.A.B. Apr. 29, 2020) (non-precedential).
審査官は、明細書が、害虫の圧力がない場合に成長組成物を適用することを開示しているだけであり、成長組成物が殺虫活性成分を除外することを明示的に開示していなかったため、明細書の要件を満たしていないとして、請求項1を却下しました。
審査官は、明細書に殺虫成分を含まない組成物と、特定の殺虫成分を追加で含む代替製剤との比較が記載されていることを認めましたが、審査官はこの比較がすべての殺虫剤を除外するには不十分であると判断しました。
審査会は、いくつかの理由から審査官の所見に異議を唱えました。第一に、審査会は、「本発明者らが殺虫剤を除外した成長用組成物を所有していることが明細書を読んだときに、その技術に熟練した者が認識できる限り、クレームの正確な文言は明細書に記載されている必要はない」と指摘しました。
第二に、審査会は、「発明の概要」には、害虫の圧力がない場合に適用される成長組成物が記載されており、熟練した技術者は、このような条件下では殺虫剤は必要ないことを理解していたであろうと指摘しました。したがって、審査会は、「発明の概要」に記載されている植物組成物には殺虫剤は含まれていないと判断しました。
最後に、審査会は、実施例の比較から、殺虫剤を含まない生育組成物は、殺虫剤を含む市販の生育組成物と同様に植物の生育を促進するのに優れていることが示されたと判断しました。発明の概要」と合わせて、審査会は、熟練した技術者であれば、本発明者らが殺虫活性成分を含まない方法の概念を持っていることを認識していたであろうと判断しました。
要点
「~を含まない」という否定的な制限を含む出願には、一般的に3つの種類があります。(1) 最も簡単な制限を明示的に否認する出願、(2) 制限を代替案として積極的に記述し、その包含または除外を支持する出願(In re Johnson, 58 F.2d 1008, 1019 (C.C.C.P.A. 1977)参照)、(3) 制限を含むか、またはEx parte Martinの場合には、制限を除外する理由を暗示する出願です。
出願が第3のカテゴリーに該当し、否定的な制限が望まれる場合、熟練した職人が明細書全体をどのように見ていたかを検討することが重要です。
解説
「~を含まない」という否定的な制限を含む出願は「~を含む」という制限のみの通常のクレームよりもクレームの書き方や明細書での開示が難しいので、なるべく避けるべきです。しかし、今回のMartinのケースのようにクレーム要素として必須であれば、なるべくその否定的な制限を明示する開示が好ましいです。(上記要点の1番目の書き方)。
しかし、出願後の審査過程において、否定的な制限を含む補正を加えなければいけない場合があるでしょう。そのような場合、否定的な制限に関する開示が明確になっていない場合があるので、その時は今回のEx parte Martinのような判例を参考にし、(関連する開示内容を指摘しながら)熟練した技術者であれば明細書全体から記述した否定的な制限を導き出せるというような主張も認められる可能性があります。
しかし、制限が明細書で開示されているかという判断は特許庁で大きくことなる可能性があります。PTABが「その技術に熟練した者が認識できる限り、クレームの正確な文言は明細書に記載されている必要はない」と指摘しているように、USPTOはクレームされている特定の限定に対するサポートに関する制限が緩いです。
その一方で、EPOは限定に対するサポートはより厳密に見ていて、クレーム補正に関する明確なサポートが明細書に記載されていないと補正がNew matterとして扱われてしまい、補正が認められない可能性もあります。
このように特許庁ごとにクレーム制限とそれをサポートする明細書における開示内容に関しては大きな差がありますが、アメリカは正確な文言が明細書に記載されている必要はないので、他の特許庁に比べ、予期していない補正が求められる場合でも権利化に持っていける確率は高いということが言えると思います。
TLCにおける議論
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まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Beau B. Burton. Element IP(元記事を見る)