アメリカの特許審査ではBRI基準の元、クレームの範囲を訴訟時よりも広く解釈しています。これは特許性を担保するための大切な仕組みですが、明細書の記載に逸脱した解釈は不適切です。今回は拡大解釈の問題が取り上げられたケースを紹介します。
2020年7月30日、特許審判不服審査会(以下「審査会」)は、Ex parte Lundbergにおける審査官の自明性拒絶を覆しました。争点となったのは、クレーム用語「highly refined cellulose」の意味でした。
USPTOでの審査
本出願の請求項1は、「[a] mixture consisting essentially of active probiotic agents stabilized by at least 1% by weight of highly refined cellulose fiber material with respect to the probiotic agents」と記載されていました。審査官は、請求項1は2つの文献の組み合わせから自明であると却下。
審査官は、活性プロバイオティクス剤(active probiotic agents)と安定化セルロース繊維材料(stabilized cellulose fiber material)についての第一の参考文献に依拠。審査官は、一次文献がそのセルロースを、請求項1で言及されているような「highly refined cellulose」として特徴付けていないことを認めたものの、審査官は、控訴人の明細書にはこの用語の意味が定義されていないとの立場をとり、その意味を提供するために第二の参照文献に目を向けました。審査官は、第一の参照文献に記載されているセルロースの種類が、第二の参照文献に記載されている「highly refined cellulose」の意味の範囲内に収まると判断し、請求項1を自明であるとして却下しました。
PTABにおける審議
審査会はこれに異議を唱えました。控訴人の明細書には、第一参照文献のセルロースを除外するのに十分な「highly refined cellulose」という用語の記載がされていると判断。特に、審査会は、第一の参考文献のセルロースは、プロバイオティクスのコーティングとして使用される化学的に修飾されたセルロース(セルロースエーテル)であると判断。審査会は、第一の参考文献のこの化学的に修飾されたセルロースを、控訴人の明細書に記載された「highly refined cellulose」と区別しました。したがって、審査会は、このクレームの用語に対する審査官の解釈が不合理に広範であると判断し、審査官の自明性拒絶を覆しました。
最後に、審査会はまた、請求項1の「mixture」という用語の審査官の解釈についても疑問を呈しました。前述したように、第一の参考文献には、化学的に修飾されたセルロースがプロバイオティクスのためのコーティングとして記載されていた。控訴人は、このようなプロバイオティクス上のセルロースコーティングは、クレームされた 「mixture」の意味の範囲内では、セルロースとプロバイオティクスの混合物(mixture)ではないと主張。審査会は、審査官が「成分上のコーティングはどのようにしてコーティングと成分の混合物になるのか」という疑問に対処していなかったことを指摘し、これに同意したようです。この追加の理由により、審査会は審査官の自明性拒絶を覆しました。
要点
特許審査中、USPTOはクレームの用語を最も広範で合理的な解釈に基づいて解釈します。しかし、この解釈は明細書と一致していなければなりません。審査官が明細書と矛盾するような広義の解釈をした場合、審査官の解釈に異議を唱え、必要に応じて審査会に上訴することは良い戦略となります。
解説
今回のEx parte Lundbergは、前回紹介したEx parte Blumとほぼ同じですね。BRI(broadest reasonable interpretation)の問題です。
前回と同様、審査官がクレームに使われている文言を明細書に記載されているこがら以上に拡大解釈をしてしまい、適切な拒絶(自明性の判断)が行われていなかったとPTABは判断しました。
MPEP 2111.01には以下のように書かれています。
Under a broadest reasonable interpretation (BRI), words of the claim must be given their plain meaning, unless such meaning is inconsistent with the specification. The plain meaning of a term means the ordinary and customary meaning given to the term by those of ordinary skill in the art at the time of the invention.
強調された「unless such meaning is inconsistent with the specification」というところが今回のケースで(というか拡大解釈の問題全般で)争点になりました。
争点となった「highly refined cellulose」もそうですが、「mixture」という用語も拡大解釈されており、出願人からの指摘があったものの審査官が十分に対応していなかったことを見ると、今回の上訴(Appeal)は正しい判断だったのだと思います。
Appealのタイミングは難しいですが、今回のように審査官が明細書の開示を超えるような解釈を行い、十分な説明もないまま(インタービューをおこなっても 平行線になるよう)なら、Appealはするべきだと思われます。
このような状態でRCEを継続したり、継続出願をしても別の審査官が対応するようなことはないので、お金と時間のムダです。
今回のケースは、BRIを超えた拡大解釈の参考になるとともに、Appealする見極めを行う事例としても有益だと思われます。
TLCにおける議論
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まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Matthew E. Barnet. Element IP(元記事を見る)