特許明細の作成の際、特許の限定を導入するために、クレーム作成時に不定冠詞(すなわち、「a」や「an」)は定期的に使用されています。しかし、Apple Inc. v. Corephotonics, Ltd.事件において、米連邦巡回控訴裁判所(以下、CAFC)は、このような冠詞の使用、特に無効性分析において後にクレームを拡大するために使用される可能性がある場合、実務者にこのような冠詞の使用についてよく考えるよう求める判決を下しました。
この判例は、アップルが、コアフォトニクス社(Corephotonics, Ltd.)が所有する特許を支持した特許審判部(PTAB)の2つの最終審決を不服として控訴したものです。。この特許は、「ポートレート」モードでの写真作成に関するもので、「ワイドカメラの視点(POV)を持つ融合画像」を必要とする限定を開示していました。PTABにおいて、当事者は、この限定が、融合画像が遠近POV(perspective POV)を保持することを必要とするのか、位置POV(position POV)を保持することを必要とするのか、あるいは両方を必要とするのかについて争っていました。審議の結果、PTABはコアフォトニクスに同意し、両方が必要であると判断しました。この審決を不服とし、アップルはCAFCに控訴します。
クレームに書かれていたのが「the」視点ではなく「a」視点だったことによる解釈
控訴審でCAFCは、PTABのクレーム解釈を法律問題として見直しました。クレームの文言から始め、裁判所は、クレームが「the」視点(つまり前述された視点)ではなく「a」視点(つまり前述されていない視点)に言及していることは「有益」であると判断しました。
次に、明細書を検討し、「異なるタイプの視点」が開示されていることを発見し、クレームの文言は 「a」視点しか開示していないため、裁判所はこれを「開示されたタイプの視点の1つだけ」を意味するものと解釈しました。この解釈に基づき、裁判所は、クレーム用語は、融合画像が遠近POVまたは位置POVを保持することを要求するものの、両方を要求するものではないとしました。
この解釈の元、CAFCは、PTABの最終決定を取り消し、差し戻しました。
本判決は、クレーム解釈における不定冠詞の重みを強調しています。特許実務者は、新たなクレームの限定を導入するために不定冠詞を定期的に使用しますが、特に後のクレームにおいて限定の先行根拠を提供する必要がある場合には、訴訟中に不定冠詞がより広範な解釈を支持する可能性があることに留意すべきです。このような意図がない限り、実務者はクレーム内容を正確に把握するために明確な構造を使用すべきでしょう。
参考記事:Claim Construction: The Difference Between Using “The” and “A” | IP Intelligence