CAFCがPTABからの上訴を扱う場合、Rule 36というPTABの判決を支持する1行の判決を行うことができます。しかし、このRule 36判決が出る割合が特許権者が上訴した場合と特許にチャレンジした相手の場合で3.7倍もの「格差」があることが一部で問題視されています。
Rule 36判決
Federal Circuit Rule 36 (“Rule 36”)というもので、判例として価値がないもの(a case would have no precedential value)に対して、簡易的に理由を述べずにPTABなどから上訴された判決を支持することができるものです。
格差問題
このRule 36ですが、特許権者がPTABの判決をCAFCに上訴した場合、67%の割合で、この1行のRule 36が用いられます。この場合、特許権者が上訴したということなので、PTABでは特許権者に不利になる結果、つまり、少なくとも一部の特許クレームが無効になった場合というように理解していいでしょう。このような場合、統計的に約3件に2件の確率で、CAFCはPTABの判決を理由も明確にしないまま指示をする判決を下すことになります。
このRule 36の適用ですが、PTABの判決を上訴する側が逆、つまり、特許にチャレンジした相手がCAFCに上訴した場合、18%の割合でしかRule 36が用いられません。この場合、チャレンジャーが上訴したということになるので、特許クレームが生き残った場合と理解していいでしょう。このような場合、約6件に1件の割合で、Rule 36が適用されることになります。
両方の場合を比較すると、約3.7倍の確率で、特許権者がPTABの判決をCAFCに上訴した場合にRule 36が適用されるということになります。
この上訴する立場によってRule 36の適用に大きな違いがあることを問題視する声が上がっています。
憲法違反?
今回の問題は、上訴したのにも関わらず、ある特定の上訴人が上訴した場合は、理由が述べられた判決が下されることが多い(Rule 36が適用されづらい)一方、別の上訴人が上訴した場合、理由が明確に示されないまま上訴された判決が支持されてしまうことにあります。
この問題を重く見てか、最近では、Chestnut Hill Sound Inc. v. Apple Inc., 774 F. App’x 676 (Fed. Cir. 2019)において、特許権者のChestnut が最高裁にこの問題について申し立て(Petition for Writ of Certiorari)を行いました。
この申し立ての中で、Chestnut は2つの主張をしています。1つ目は、憲法で認められている権利の1つであるthe Due Process and Equal Protection Clausesは、特定のクラスの上訴人に理由を含めた判決を下すが、他の上訴人にはそのようなことをしないことを許すのか?その場合、統計的にどのような割合までが許容範囲なのかという問題です。
2つ目は、理由を伴う判決が下されない場合、市民が裁判所や法律にアクセスする権利を阻害するようなことになった場合、市民は理由を伴う判決を受ける権利があるのか?という問題です。
最高裁への申し立てということもあり、上記の問題定義には、憲法違反や抽象的な市民の権利の侵害が問題視されています。
まとめ
今回の「格差」問題に関しては何度も最高裁への申し立てがありましたが、受けいられたことがありませんでした。今回のような抽象的な主張は、実務にはあまり関連しませんが、統計的に見て、理由を述べないRule 36判決が出る割合が特許権者が上訴した場合と特許にチャレンジした相手の場合で3.7倍もの「格差」があるという事実には興味深いものがあります。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Austin Ball and Carl A. Kukkonen III. Jones Day (元記事を見る)