Means-plus-functionクレーム要素は、当事者間審査(IPR)において無効と判断される追加のリスクを含んでいます。これは、Means-plus-functionが、35 U.S.C. § 112(f)(またはその前身である第6項)に基づき作成されたクレーム要素であり、特定の機能を実行するための手段として組み合わせの要素を記載しているからです。
地裁とPTABとではMeans-plus-functionクレームの取り扱いに差がある
通常、このような要素は、クレームで言及された機能に対応する特許明細書に開示された構造をカバーするように解釈されます。しかし、明細書に対応する構造がないと判断されると、クレームの有効性に関して大きな問題を引き起こす可能性があります。
特許訴訟が行われる連邦地裁で、上記の状況になった場合、不定性(indefiniteness)の根拠となります。しかし、IPRにおけるPTABの審査委員会は一貫して、クレームが明確でないことを理由に特許不許可(unpatentable for indefiniteness)とすることを拒否しており、審査は先行技術の特許不許可の問題(prior-art unpatentability issues)に限定されています。そのため、審査会と連邦巡回控訴裁では、Means-plus-function要素を記載する潜在的に不定義なクレームについて、IPRで何をすべきかについて苦慮してきた経緯があります。しかし、最近、この問題に新たな一石を投じた事件がありました。
IPRにおけるMeans-plus-functionクレームへの対応の枠組みをCAFCが提示
判例: Sisvel Int’l S.A. v. Sierra Wireless, Inc., 22-1493 (October 6, 2023)
本件は、means-plus-functionクレーム要素を含む特許のIPRに関する案件です。
Sierra Wireless社は、無線システムでデータを送信する際のチャネルコード化方法に関する特許のIPRをPTABの審査会に申し立てました。審査委員会は、「検出するための手段」という限定をmean-plus-functionの限定と解釈しました。しかし、明細書にはクレームされた手段に対応する構造が開示されていないため、この限定が付されたクレームの範囲を決定することはできないと結論づけました。そのため、審査会は、この限定を付したクレームが先行技術に対して特許可能であるかどうかを評価することを拒否しました。
しかし、CAFCは、「検出するための手段」の限定に関する審査会の判決を破棄し、差し戻しました。CAFCは、先の判例に基づき、コンピュータ技術におけるmean-plus-function 要素を有するクレームに対する2種類の不明確性の争いを区別しました。第1のタイプは、クレームされた手段に対応するアルゴリズムが明細書に全く開示されていない場合です。このようなシナリオでは、当業者の知識は、明細書が適切な対応構造を開示しているか否かの判断には一般的に関係しません。第2のタイプでは、明細書にはアルゴリズムが開示されていますが、当事者間でその適切性が争われている場合です。
CAFCは、本件が第2のタイプに該当すると判断しました。なぜなら、当事者は、明細書に記載されたソフトウェアプロトコルへの言及が、アルゴリズムを開示するのに十分であるか否かを争っていたからです。
しかし、審査会は、本件を第1のタイプの異議申立であると誤って扱ったと、CAFCは指摘しました。既知のプロトコルへの言及はアルゴリズムではないと結論づけたため、明細書の開示の適切性に関する専門家の証言を考慮することを拒否しました。CAFCは、これは誤りであるとし「クレームされた機能を実行するための構造が明細書に開示されている場合、明細書が十分な構造を開示しているかどうかは、当業者の知識に照らして検討されなければならない。」としました。
CAFCは、再審において、明細書の開示の適切性に関する専門家証言を分析するよう審査会に指示しました。また、仮に審査会が明細書に十分に開示されたアルゴリズムが欠けていると判断した場合、そのことが先行技術に対する異議申し立てを解決することを不可能にするかどうかを判断すべきであると説明しました。そのような不可能性がない限り、審査会は、潜在的な不明確性にもかかわらず、本案に基づいて先行技術の争点を解決しなければならないとしました。