「ピクチャークレーム=質の低い特許」と考えられることがありますが、戦略的にピクチャークレームを含む特許を取得することは多くのメリットがあります。特に、ライフサイエンスや製薬業界、スタートアップなどは「あえて」ピクチャークレームを取りに行くことで、結果として価値の高い特許を取得することができることがあります。
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「ピクチャー」クレームとは、特定の製品の重要な利点や特徴を追跡するために正確に調整された特許クレームです。特許出願を起案する際には、発明の様々な実施形態を記載し、それらの実施形態に合わせたピクチャークレームと、実施形態のグループを包含するブロードクレームの両方を含めるべきです。しかし、出願を審査する際には、製品に合わせたクレームを追求するために、あえてより広範なクレームを「とりあえず置いておく」ことを選択することもできます。
直感に反するかもしれませんが、ライフサイエンスや製薬業界のクライアントには、少なくとも初期の特許出願においては、より広範なクレームよりもピクチャークレームを優先するよう助言することがあります。一見クライアントの利益を損ねるようなアドバイスですが、幅広いクレームよりもピクチャークレームを優先する理由は多岐に及びます。
- ベンチャーキャピタルからの資金調達: ベンチャーキャピタルファンドやその他のアーリーステージの投資家は、広範な特許の優位性を好みますが、洗練された投資家は、どんなに狭いクレームであっても、企業の各主要製品をカバーする少なくとも1つの特許が発行されていることの価値を認める傾向にあります。
- 株式公開: 企業の登録届出書(S-1)には、通常、各製品の特許保護について記載されています。ある製品について発行された特許請求の範囲があれば、S-1には、発行された特許がその製品をカバーしていると記載することができます。多くのS-1が製品のカバー範囲に重点を置いているため、発行済みピクチャークレームがあることは、広範なクレームがあることよりも重要であることが多いです。
- ピクチャーフェンス(Picket Fence): 各ピクチャークレームは単独で独立する必要はありません。並列のピクチャークレームを取得することで、特許戦略家はフェンス(壁)を構築することができます。各ピケット(ピクチャークレーム)の保護範囲は限られていますが、複数あることで全体としては広くブロックする壁を作ることができます。
- 規制製品(Regulated Products)に対する権利行使: ジェネリック医薬品やバイオシミラーの競合他社は、基準製品(reference product)をコピーしなければいけません。この要件により、デザインアラウンド(特許回避)は非規制分野よりも困難となります。基準製品(reference product)をカバーするよく練られたピクチャークレームは、競争を効果的に排除することができます。
- 特許性: 特許出願におけるピクチャークレームは、特許性があると判断される可能性が高いです。新規性や自明性を欠くとしてクレームを拒絶するためには、特許審査官は一般的にクレームの各要素を先行技術に見出さなければいけません。しかし、ピクチャークレームは製品の特徴を詳細にとらえているので、一般的に要素が多く、拒絶するのが難しいです。新規性・進歩性とは別に、特許審査官は、適切な記述や実施可能性の欠如を理由に、広範なクレームを拒絶することができます。しかし、特許出願で実験的にテストされた製品を対象とするピクチャークレームは、このような拒絶は出されることは稀です。
- 有効性: 関連して、発行済み特許のピクチャークレームは、争われた場合に無効と判断される可能性が低く、挑戦者が無効を試みるにはコストがかかります。米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の過去10年の判例に見られるように、広範なクレームは、適切な明細書(written description)および/または実施可能要件(enablement)の欠如を理由とする無効の争いに弱い傾向があります。
- スピード: ピクチャークレームは迅速に付与される傾向があります。優先審査請求(request for prioritized examination)により、約18ヶ月以内に発行特許を取得できることもできます。より広範なクレームを求める場合、拒絶と応答が繰り返されるたびに、特許付与が4~6ヶ月遅れることがあります。
- 出願履歴: 審査官の理由付けと出願人の応答の両方がファイル履歴となり、特許権者が無効や非侵害を主張する際に不利に働く可能性があるため、短くきれいなファイル履歴は特許の強さを評価する上で重要な要件の1つになっています。
- 費用: 拒絶査定と応答には1回あたり数千ドルの費用がかかります。実際、1回の困難なオフィスアクションへの対応には、特許出願全体のドラフト作成以上の費用がかかるかもしれません。より少ない拒絶でピクチャークレームが認められれば、特許費用はより少なくて済みます。
- 継続実務: 継続出願を賢く活用することで、親出願でピクチャークレームによる保護を取得し、その後、継続出願した子出願でより広いクレームを得るようにすることもできます。このような継続出願は連続して繰り返すことができます。ピクチャークレームの早期追求は、後に広範なクレームを有する継続出願を提出することを妨げるものではありません。
このように、ピクチャークレームの早期追求は、ライフサイエンス及び製薬会社にとって効果的な戦略となり得ます。しかし、いつでもこのような戦略を取ればいいのではありません。発明の内容、マーケット、競合、規制など様々な情報を総合的に考慮して、ケースバイケースで特許戦略を行う必要があります。
また、継続出願の誤用は近年政治的な批判を浴びており、出願人が「不合理、理不尽、かつ不利益な」遅延を行った場合、審査遅延の法理により継続出願が制限されることがある(Hyatt v. Hirshfeld, 998 F.3d 1347, 1369 (Fed. Cir. 2021))ので、注意する必要があります。
参考記事:Picture Claims as an Effective Patent Strategy: Top 10 Reasons to Precisely Tailor Your Patent Claim