職務発明でトラブルにならないための雇用契約と知的財産条項

従業員が画期的な発明をしたからと言って、その発明が雇用主に帰属するかというと、そう簡単に結論が出せないのが、アメリカにおける発明の取り扱いの難しいところです。職務での発明の内容や、雇用形態、「雇用中」の発明なのか、社内のリソースを使ったものなのか、雇用時の知財に関わる条項などによって、結論が大きく変わってきます。そこで、今回はアメリカにおける職場での発明の権利者に関わる問題を深堀りし、トラブルを回避できる雇用契約と知的財産条項を考察していきます。

職場での発明:従業員の発明は誰のものか?

例えば、従業員が会社のリソースを使って、製品ラインに革命をもたらす可能性のあるソフトウェアアルゴリズムを開発したとしましょう。それは素晴らしいニュースです。しかし、喜ぶ前に、重要な問題を検討する必要があります。それは、「この発明は誰のものなのか?」という問題です。

知的財産を所有するのは誰なのか、会社なのか、それとも従業員なのか。そのため、知的財産権が争われるような事態を避けるために、企業は積極的な対策を講じる必要があります。正しく対処すれば、企業の知的資産を保護しながらイノベーションの文化を育むことができ、誤れば、貴重な知的財産を失ったり、法的紛争に直面したりするリスクがあります。

職務発明の基礎知識

従業員によって発明された特許可能な発明は、米国法における特許可能性(patentability)の基準を満たす必要があります。詳しく言うと、発明は、新規性、非自明性、および有用性を満たす発明でなければいけません。この区別が重要なのは、従業員による創作物の全てが、たとえ業務に関連するものであっても、必ずしも特許になるとは限らないからです。

特許可能な職務発明の範囲は複雑です。

特許出願の有無に関わらず、従業員が開発した発明で特許になり得るものは全て含まれます。これには、従業員の通常の職務の一環として開発された発明や、会社の重要なリソースを使用して開発された発明も含まれます。

特許可能な発明に関する既定の法的スタンス

米国では、特許可能な職務発明に関する既定の法的見解は、一般的な「雇用のためになされた職務」(“work made for hire”)の原則ほど単純ではありません。ここで重要な原則は、特許は発明者に与えられるということです。これに反する合意がない限り、雇用中に何かを発明した従業員は通常、特許権を保持しますBanks v. Unisys Corp., 228 F.3d 1357 (Fed. Cir. 2000)において、裁判所は、「一般的なルールとして、個人が発明者である主題に対する特許権は、たとえそれが職務中に考案されたものであっても、あるいは職務中に実施に移されたものであっても、個人が所有する」と説明しています。

これは、著作権のような他の種類の知的財産とは異なる点です。著作権では、「雇用のために作成された著作物」の原則に基づき、雇用主が既定の権利を有するのが一般的です。しかし、特許に関しては、原則特許は発明者に与えられという考えがあるので、後で詳しく話しますが、例えば、従業員が発明した特許権を会社に譲渡する契約書に署名することを義務付けるなどの対策が必要になってきます。

「発明するための雇用」の原則

特許所有権に影響を与え得るもう一つの重要な概念は、「発明するための雇用」の原則( “Hired to Invent” Doctrine)です。これは、従業員が発明能力または特定の問題を解決するために特別に雇用された場合に適用されます。このような場合、従業員が特定の雇用目的に関連して創作した発明は、通常、雇用者の財産とみなされます。

この原則は、技術や製薬のような技術革新が主な焦点となる産業において特に関連性があります。例えば、ある会社が新しい医薬化合物を開発するために化学者を雇った場合、この業務に関連する発明は一般的に会社の所有となります。その根拠は、発明は雇用の結果として期待されたものであり、従業員の発明的業務は、雇用の性質上、事実上、雇用者に予め割り当てられていたというものです。

ショップライトの原則

ショップライトの原則(Shop Right Doctrine)は、従業員の発明に関してユニークなバランスを提供します。この原則は、従業員が会社のリソースを使用して開発した発明を使用する非独占的かつロイヤリティフリーの権利を雇用主に付与するものです。一般的に所有権が雇用主にある「発明するための雇用」原則とは異なり、「ショップライトの原則」は従業員に所有権を保持させつつ、雇用主が無償で発明を使用することを認めます。これは、従業員が会社の時間内に、または会社のリソースを使って発明を行ったものの、特定の権利譲渡がない場合に極めて重要な概念です。

雇用中と雇用外での発明の区別

上述の議論が示唆するように、雇用中になされた発明と雇用外でなされた発明との境界線は、特許可能な発明の所有権を評価する際に重要な考慮事項です。ここで重要なのは、発明がいつ、どこでなされたかだけでなく、その発明が従業員の職責の範囲内かどうか、会社の資源が使用されたかどうかです。

会社のリソースを使用せず、従業員自身の時間に創作された発明で、会社の業務に関連しないものは、従業員の財産とみなされる可能性が高くなります。しかし、その発明がその従業員が会社で働く分野のものであったり、会社のリソースを使用して創作されたものであったりする場合は、特にそのような状況をカバーする契約が締結されていれば、その発明は雇用者のものとみなされる可能性が高くなります。

雇用契約と知的財産条項

知的財産、特に特許可能な従業員の発明を保護する場合、よく練られた雇用契約が最も重要です。雇用契約は、雇用者と被雇用者双方の期待や権利が構築される基礎となるものです。明確で包括的な雇用契約は、雇用期間中に創出された発明が誰のものであるかを両当事者が理解することを保証します。

雇用契約には多くの場合、従業員による発明や創作物の取り扱いを概説する特定の知的財産条項が含まれています。一般的な条項は以下の通りです:

譲渡条項: この条項は、従業員が発明に対する権利を雇用主に譲渡することを要求するものです。一般的には、従業員の在職中になされた発明が対象となりますが、特に従業員の業務に関連する場合には、従業員が退職した後の期間になされた発明も対象となる可能性があります。

開示条項: 従業員に対し、在職中に開発された発明を開示するよう求める条項です。このような条項は、雇用主が潜在的な知的財産資産を特定し、その取り扱い方法を決定するのに役立ちます。

発明保持およびライセンス条項: 場合によっては、従業員が特定の発明の所有権を保持する一方で、その使用ライセンスを雇用主に付与することを認める契約もあります。このような取り決めは、会社の事業とは直接関係ないものの、会社のリソースを使用して開発された発明に特に関連する可能性があります。

競業避止義務と守秘義務条項 (Non-Compete and Confidentiality Clauses): 知的財産の所有権とは直接関係ありませんが、これらの条項は、企業の広範な知的利益を保護する上で重要な役割を果たします。これらの条項は、従業員が企業秘密や機密情報を将来の事業、特に競合事業で使用することを防止します。

条項を作成する際のポイント

特に効果的な知的財産譲渡条項の作成には、従業員にとって公正かつ明確でありながら会社の利益を保護するという、慎重なバランス感覚が求められます。

以下にいくつかのガイドラインを示します:

具体性: 対象となる発明の種類をできる限り具体的に記載しましょう。曖昧な表現は、紛争や混乱を招きかねません。

州法の遵守: 州によっては、従業員の発明や知的財産契約に関する特定の法律を定めている場合があります。例えば、カリフォルニア州では、ある種の知的財産譲渡条項の強制力に制限があります。また、競業避止契約を禁止する州も増えています。

合理性と執行可能性: 条項が合理的であること。過度に広範または制限的な条項は、強制力を持たない可能性があります。

範囲と期間の明確性: 対象となる発明の範囲と譲渡が適用される期間を明確に定義します。これは、雇用後の発明権に関する曖昧さを回避するのに役立ちます。

職務発明をめぐる問題の処理

職務発明をめぐる問題は珍しくありません。

このような問題は通常、雇用契約書や企業方針のグレーゾーン、またはこれらの重要な文書の解釈の違いから生じます。知的財産権を効率的かつ公正に管理しようとする組織にとって、このような問題につながる一般的なシナリオと、その効果的な解決方法を理解することが重要です。

問題はいくつかの典型的なシナリオで発生することが多いです:

所有権をめぐる意見の相違: 最も頻繁に生じる争点の1つは、発明の所有権です。従業員は、自分の発明は雇用義務の範囲外で独自に開発されたものであり、したがって自分のものであると考えるかもしれません。逆に雇用主は、発明は従業員の職務に関連するものであるか、会社のリソースを使用して開発されたものであるため、当然会社に帰属すると主張するかもしれません。

会社リソースの使用: もう一つの一般的な争点は、会社資源の使用に関するものです。従業員が発明を開発する際に、会社の時間、材料、または情報をどの程度使用したかは、所有権に大きな影響を与える可能性があります。これを判断するには、発明が作成された状況を詳細に調査する必要があります。

雇用後の発明: 従業員が退職した直後に開発された発明についても問題が生じます。その発明が従業員の会社での業務と密接に関連している場合、雇用主はその発明に対する権利を主張する可能性があり、雇用契約の内容や発明の性質に左右される紛争に発展します。

このようなシナリオでは、慎重な文書化と記録管理が重要です。雇用契約書、方針確認書(policy acknowledgments)、発明の開示、および関連するすべてのコミュニケーションを含む包括的な記録は、多くの場合、関係者の意図と合意を明確にするために必要であり、トラブルを解決する上で決定的な役割を果たします。また、問題が訴訟に発展した場合には、交渉における事実の根拠となり、法的手続きに不可欠なものとなります。

まとめ

従業員の発明に関する知的財産権の複雑さを理解することは、ビジネスリーダーや社内弁護士にとって重要な課題です。そのため、積極的に経験豊富な知的財産弁護士に相談することをおすすめします。今回示したように、明確な方針を定め、詳細な雇用契約を作成し、従業員の権利と責任について教育することで、企業は知的財産権をめぐる紛争のリスクを軽減することができます。

しかし、このような法的配慮の中心にあるのは、従業員の創造性が奨励され、評価されるようなイノベーション文化を育むと同時に、企業の知的資産を保護するという目標であることを忘れてはなりません。

参考記事:Innovations at Work: Who Really Owns Employee-Created Inventions? - Brooks Kushman

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