今回のアメリカ最高裁の判決により、契約書の仲裁に関わる規約はより重要性を増していくことが考えられます。アメリカにおける訴訟は高額なので、契約の際に仲裁で係争を解決する条文を含むことがほとんどだと思いますが、その文言に注意しないと意図しない訴訟に巻き込まれてしまうことがあります。
係争を解決する場を決めるのは仲裁人
今回の判決でアメリカ最高裁は、係争を解決する場を決めるべき組織は仲裁人だという判決を下しました。
通常、契約に仲裁(arbitration)に関わる規約があり、何か当事者間に問題が生じた場合、仲裁で係争の解決しますが、そもそもその係争内容が仲裁で解決されるべき問題なのか、裁判所で争われるべき問題なのか、当事者間で意見が異なる場合があります。
今回のSchein事件でも、その係争を解決する場に対して当事者同士異なる主張があり、どこに係争を解決する場を決める権利があるのかが争われていました。
最高裁は、全会一致で、契約書において仲裁の可能性(arbitrability )についての裁量権が仲裁人に委ねられていることがはっきりと明白に(“clearly and unmistakably” )示されていれば、係争を解決する場を決めるのは、裁判所ではなく、仲裁人であるべきとしました。
この判決で、係争内容が仲裁に関わるものだという主張が「まったく根拠のないもの」(wholly groundless)であるという主張があっても、まずは仲裁人が係争を解決する場を決めるべきとしました。
高裁で判決が分かれた「まったく根拠のないもの」(wholly groundless)の例外
今回、この案件が最高裁にまで行った原因の1つとして、「まったく根拠のないもの」(wholly groundless)という例外があります。この例外は今回の判決で無効になりましたが、それ以前は高裁レベルでこの例外に対する扱いが異なり混乱が生じていました。
そもそも、契約書において係争を解決する場を決める権利が仲裁人に委ねられている場合、 Federal Arbitration Act(連邦仲裁法)によって、裁判所は契約書に書かれている内容を尊重するように求められています。
しかし、1950年代ごろから、いくつかの裁判所で「まったく根拠のないもの」(wholly groundless)仲裁の主張に関しては、仲裁を強制する必要はないという例外が出てくるようになりました。時が経つにつれ、むりやり仲裁にもちこむようなケースも出てきたため、係争の内容によっては、契約書において係争を解決する場を決める権利が仲裁人に委ねられている場合でも、その判断に裁判所が介入するようになってきました。
これにより異なる高裁でこの「まったく根拠のないもの」(wholly groundless)を認めるたり、認めなかったりという事態が発生したため、今回、Schein事件で最高裁が判決を下す経緯になりました。
最高裁は例外を認めず
このようにいくつかの高裁で採用されていた「まったく根拠のないもの」(wholly groundless)ですが、今回、Schein事件で最高裁はこの例外を認めませんでした。
最高裁は、Federal Arbitration Act(連邦仲裁法)において、仲裁は契約に関わる問題であるとし、当事者同士は契約の際に、係争を仲裁で解決することだけでなく、係争を仲裁で取り扱うのか、それとも、裁判所で争うものなのかの判断も仲裁人に委ねることができるとしました。
また、AT&T Technologies Inc. v. Communications Workers, 475 U.S. 643, 649–650 (1986)などの判例を用いて、契約書で仲裁人に委ねられた事柄について、裁判所は判決を下す権利がないことを示しました。このような判例から、係争を解決する場を決める権利が仲裁人に委ねられている場合、「まったく根拠のないもの」(wholly groundless)仲裁の主張であっても、裁判所が介入すべきではないとしました。
このような理由から、最高裁は例外を認めず、最高裁は結果的に仲裁を擁護ような判決を下しました。
判決に含まれなかった内容が実は重要?
今回の判決は仲裁を擁護するような内容ですが、そもそもどのような場合に係争を解決する場を決める権利が仲裁人に委ねられているかについては語られていません。
つまり、契約において、当事者同士がはっきりと明白に(“clearly and unmistakably” )仲裁の可能性(arbitrability )についての裁量権が仲裁人に委ねる文言はどのようなものかについては言及されていません。
この契約書の文言に関わる問題は最高裁にも提示されましたが、結局、今回の最高裁の判決では何も語られませんでした。なので、実際にどのような文言が契約書に書かれていれば、仲裁の可能性についての裁量権が仲裁人に委ねられていると判断されるのかは明確ではありません。
この問題は今後近い将来また最高裁で争われる可能性があります。
個人的な見解
アメリカの法律が適用される契約書の内容を理解してからサインすることがより大切になりました。今回の判決は仲裁を擁護する内容ですが、そもそもどのような文言が契約書にあればいいのかが明確に示されていないので、契約書を結ぶ時に、仲裁を望むのであれば、仲裁のルールに関して詳しい記載をするべきでしょう。
特に今回問題になった仲裁の可能性(arbitrability )、つまり、係争を解決する場を決める権利が、仲裁人にあるということを明確に示す文言を加えておくことをおすすめします。
最高裁ではどのような文言が適当かについては言及していませんが、仲裁の可能性についての裁量権が仲裁人に委ねられていることがはっきりと明白に(“clearly and unmistakably” )示されている必要があります。
まとめ作成者:野口剛史
参考記事: ALSTON & BIRD LLP(元記事を見る)