匿名の著作権侵害者の正体を暴くのは大変?DMCA、憲法修正第1条、フェアユースが複雑に関わる手続き

インターネットサービスプロバイダ(ISP)は、必ず匿名の著作権侵害者の身元を明らかにするよう強制されなければいけないのでしょうか?アメリカにおいてそれは必ずしも「イエス」ではなく、カリフォルニア州北部地区は、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)召喚状(subpoenas)、憲法修正第1条の懸念、およびフェアユースに触れた意見で、この特定の例では、匿名の投稿者の情報を明らかにしようとするTwitterの召喚状を破棄する申し立てを認めました。

判例:In re DMCA § 512(h) Subpoena to Twitter, Inc., No. 20-80214 (N.D. Cal. June 21, 2022)

今回の訴訟において問題の中心となっている匿名の人物は、@CallMeMoneyBagsという匿名のTwitterユーザーで、富裕層、特に技術、金融、政治に携わる人々に対する批判を投稿しています。今回の訴訟に至った経緯にはこのような投稿内容も影響したのかもしれません。

2020年10月、@CallMeMoneyBagsはプライベート・エクイティの億万長者であるブライアン・シェス氏について6回ツイートしています。ツイートには、シェスの富とライフスタイルに関する批判と、ある種の卑猥な疑惑が含まれており、ツイートには不倫に関連するある種の画像も含まれていました。

問題ツイートによる情報開示申請が行われる

CallMeMoneyBagsがシェスに関する一連のツイートを投稿した直後、Bayside Advisory LLCという会社(シェスやその関係者と関係があるかどうかは不明)がTwitterに連絡し、前述の画像の著作権を所有していると主張しています。さらに、BaysideはTwitterに対して、これらの写真の削除を要求しました。Baysideの要求に対し、Twitterは問題の画像を削除しましたが、ツイートのテキストはそのまま残しました。

2020年11月、Baysideは、ソーシャルメディアサイトのTwitterに対し、@CallMeMoneyBagsに関する個人情報の開示を強制するDMCA512(h)条召喚状をカリフォルニア州北部地区の書記官が発行するよう要請しました。DMCA第512条(h) (17 U.S.C. § 512(h)) は、「著作権所有者または所有者の代理として行動することを認められた者は、あらゆる米国地方裁判所の書記官に対し、侵害疑惑者の識別のためにサービスプロバイダーへの召喚状を発行するよう要請できる」と定めています。発行された召喚状を受け取ると、「サービスプロバイダは、法律の他の規定にかかわらず」、著作権所有者に必要な情報を迅速に開示しなければならないと書かれています。

情報開示には連邦手続法が関わる

また、第 512 条(h)は、召喚状の発行と交付の手続は、召喚状の発行、送達、および執行を統制する連邦民事訴訟規則の規定に準拠するものと規定しています。17 U.S.C. § 512(h)(6)。この規定は、裁判所が「特権またはその他の保護された事項の開示を要求する」召喚状を「取り消しまたは修正」しなければならない連邦規則(Federal Rule of Civil Procedure )45も含んでいます。Fed. R. Civ. P. 45(d)(3)(A)(iii)。そのため、DMCA召喚状の受領者は、召喚状が憲法修正第1条によって保護された内容の開示を要求するという理由で、召喚状の破棄を求めることができます。したがって、このような問題でよくあるように、本件の召喚状請求は、DMCAに基づき著作権侵害者とされる者を特定する情報を得るために出されたものの、裁判所は、匿名のオンラインスピーチに関する修正第一条の権利(First Amendment rights)の問題として、著作権者がオンラインプロバイダーに召喚状を遵守させるために必要な立証ができるかどうかが焦点になりました。

Baysideの要求に対し、ツイッター社は、匿名の投稿者についてそのような情報を公開することは、憲法修正第1条の権利の侵害にあたると主張し、召喚状を破棄する主張を提出しました。この事件を最初に担当した下級判事(magistrate judge)は、@CallMeMoneyBagsに対して、Twitterの破棄の申し立てを支持する証拠を提出するか、匿名で出頭する機会を提供する命令を出しました。さらに裁判所は、Twitterに対し、@CallMeMoneyBagsのTwitterアカウントに関連付けられた電子メールアドレスに同命令のコピーを送達するよう命じました。しかし、CallMeMoneyBagsがこの命令に応じなかったため、2021年11月に判事はBaysideの強制執行の申し立てを認めました。しかし、この判決を検討した連邦地裁の判事(District Judge)は異なる結論に達しました。

2段階の分析が必要

カリフォルニア州連邦地裁は2022年6月、Twitterの強制執行の申し立てを認める判決の中で、匿名発言者の匿名性の解除を強制するかどうかを決定する際、裁判所は2段階の分析を行わなければならないと指摘しました。第1段階は、匿名性の解除の強制を求める側が、その基礎となる主張(この場合は著作権侵害の主張)を一応の立証すること(prima facie copyright infringement case)を求めるものです。第2段階は、開示を求める側の潜在的な損害と、発言者の匿名性に関する利益とを比較検討するものです。裁判所が指摘するように、@CallMeMoneyBagsが訴訟への出廷を拒否したとしても、第9巡回区の判例は、プラットフォームとそのユーザーの密接な関係や、ユーザーが匿名性の権利を主張する際に直面する「真の障害」(“genuine obstacles” )に基づいて、インターネットプラットフォームがユーザーの修正第1条の権利を主張することを認めています。

裁判所は、Baysideが著作権侵害の一応の立証に成功したか否かの分析において、@CallMeMoneyBags の当該6件のツイートと保護された画像の使用がフェアユースに当たるか否かを検討しました。フェアユースは積極的な抗弁(affirmative defense)であるにもかかわらず、同裁判所は、著作権侵害の一応の立証にはフェアユースがないことの証明が必要であるかのように分析しています。(通常であれば被告がフェアユースがあることを示す責任を負うことになる)。

4つのフェアユースの要素をすべて分析した結果、裁判所は、@CallMeMoneyBagsによる画像の使用は事実上フェアユースであり、そのためBaysideは一応の立証(prima facie )に失敗した、と判断しています。裁判所は、フェアユースの要素を考慮した結果、@CallMeMoneyBagsがシェスに関するコメントの文脈で画像を使用したことにより、写真に新しい意味(すなわち、「ワンパーセンタ-のライフスタイルや道徳観念に対する著者の明らかな嫌悪感の表現」)が生じ、したがって「(著作権法が定める)フェアユースの例、特に『批判』『コメント』に正対する」変形的使用であったと判断しました。第4の要素については、その使用が「著作物の潜在的な市場や価値にどのような影響を与えるか」を問うものであるが、Baysideは「商業利用のために写真をライセンスする」「コミュニケーションと戦略のアドバイザリー会社」であると主張していました。裁判所は、Baysideの「ビジネスモデルに関する曖昧な説明」、Baysideのビジネス形成とこの強制執行の申し立てを取り巻く「疑わしい状況」、これらのライセンスの潜在的な市場とは何か、ましてやその市場が@CallMeMoneyBagsのようなツイートによってどのように影響され得るかを説明していないことから、この要因はBaysideにとって有利には働かないと結論付けました。

さらに裁判所は、第1段階でのフェアユースの認定にもかかわらず(本来不必要な)バランステストの第2段階目の分析を行い、再び@CallMeMoneyBagsとTwitterに有利な判定を下しました。裁判所は、@CallMeMoneyBagsの言論の性質は風刺的で批判的なコメントであり、Twitterユーザーの仮面を剥がすとシェス氏またはその仲間から(経済的またはその他の)報復を受ける可能性があることから、修正第1条の利益に大きく関わると述べています。これは、裁判所が述べたように、Baysideとシェス氏の関係が不明確であることによってBaysideには不利になっています。この問題について、裁判所は、Baysideはシェス氏に関するツイートがTwitterに投稿された月まで設立されておらず、これまで著作権登録をしておらず、Baysideの主要人物、スタッフ、物理的所在地、設立に関する公開情報は見つからなかったとコメントしています。そのため、裁判所は、バランステストにより、@CallMeMoneyBagsの匿名性に関する利益に有利に働くと判断しました。

この訴訟ではまだいくつかの疑問が残されていますが、今回の分析における判断がすべてTwitterと@CallMeMoneyBagsに有利に働いたことで、裁判所は1つの疑問に明確に回答しています。それは、Baysideは、このケースで匿名の著作権侵害者の匿名性を強制的に解除することができるか?裁判所はその問に「ノー」と答え、Twitter社の抹消の申し立てを認め、Baysideの強制執行の申し立てを却下しました。

匿名の著作権侵害者の正体を暴く手続きは複雑

この結果は、すべての関係者に小さな勝利をもたらしました。Twitterはユーザーの憲法修正第1条の権利を保護し、Baysideは一連の法的措置により、Twitterに問題の画像を削除させ(投稿のテキストは削除されませんでしたが)、自らの匿名性を少し維持することができたのです。

CallMeMoneyBagsの匿名性が保たれる一方で、DMCA召喚手続により、著作権者が匿名の侵害者の正体を暴くことができる可能性があることを認識することが重要です。このプロセスは、著作権者が訴訟の枠外で直接召喚を要求できる点で、特に強力であり、サービスプロバイダはその要求に速やかに応じることが要求されます。しかし、この事例が示すように、DMCA召喚手続きの権限は、無制限に行使できるわけではありません。裁判所は、著作権主張の是非を検討し、被告の憲法修正第1条の匿名性を保つ権利と、裁判手続きを利用して正当な著作権侵害の主張を行う原告の権利を比較検討します(同様のバランステストは、オンライン中傷に関する事例など、匿名の被告が関わる他の事例でも召喚令状が出された場合に使用されます)。

さらに、本件の裁判所の見解は、フェアユースやその他の法的保護を回避するための努力は精査されるということも指摘しています。このように、@CallMeMoneyBagsの事例は、匿名の侵害者の正体を暴くためのDMCA召喚手続は強力ですが、無制限ではないことを明確にしている判例と言えるでしょう。 

参考文献:Unmasking Anonymous Copyright Infringers: Where the DMCA, First Amendment, and Fair Use Meet

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