アマゾンはなぜ悪徳業者による虚偽の著作権主張を提訴したのか?そこから学ぶブランドが取るべき行動とは?

アメリカのアマゾンでモノを売る場合、商標を取り、ブランド・レジストリに登録することは今では当たり前のようになっています。しかし、このように制度が普及すると、それを悪用する業者も出てくるのが常です。今回はそのような悪徳業者をアマゾンが地裁で訴えたという珍しいことがありましたが、その効果は限定的で、ブランド自身が自分たちの知財に対して真剣に取り組み、権利化から権利行使まで、より戦略的で緻密な取り組みが求められることが浮き彫りになりました。

ーーー

2023年3月30日、アマゾンはシアトルの連邦地裁に、自社のプラットフォーム上の悪質業者がブランド・レジストリ(Brand Registry)のアカウントを悪用し、第三者の販売者を標的に不適切な著作権侵害の訴えを起こしたとして、ほぼ同じ内容の3件の訴訟を起こしました。

真実でない主張、偽造された商標、偽りの著作権侵害

アマゾンは、団体や個人のグループが共謀して「Dhuog」、「Sidesk」、「Vivcic」という販売者名を登録し、自分たちが同じ名前の商標の正当な所有者であるとアマゾンに主張してきたと訴訟で主張しています。さらに彼らは、米国特許商標庁(USPTO)の商標登録番号/マークを偽造し、出願中または権利化された商標権を持っているかのように装う書類をアマゾンに提供したとされています。

そして、これらの悪質業者は、アマゾンで見つけた既存の商品リストの画像を、自分たちの偽のダミーウェブサイトにコピーし、Amazonのブランドレジストリツールを使って、同じリストが著作権を侵害しているとして報告し、侵害の「証拠」として、コピーした画像(わずか数日前に自分たちが作成したウェブサイトに存在する)のURLを提出しました。

その後、彼らは何百件ものブランドレジストリへの苦情を提出し続けました。

マーケットプレイスにおける制裁だけにとどまらず訴訟へ

アマゾンは、Dhuogのアカウントだけでも229件の申し立てがあったことを重く受け、「その時点で正当な権利であると考えられるものを迅速に保護するため」に、16件の商品リストまたはリストコンテンツ(のすべてやその一部)を削除したと述べています。

また、不正行為が発覚したことにより、アマゾンは悪質業者に対して3件の訴訟を起こしました。アマゾンはそれぞれのケースで、経済的損害と、不正行為の調査と対処に関連する費用を被ったと主張しています。

この訴訟の効果は?

残念ながらこの訴訟が悪質業者の取り締まりに有効化はまだ未知数です。この記事を掲載した時点で、裁判所の記録にはアマゾンが個人または団体に送達を行った形跡はなく、裁判所が2023年3月31日に各事件で発行した召喚状は、単に「Dhuog」、「Sidesk」、「Vivcic」という偽名に宛てられているだけで、それ以外の名前や送達先の住所は指定されていません。

アマゾンの提出した書面によると、このスキームに関与した悪質業者は、彼らが誰であるかを隠蔽するために多大な労力を費やしていると説明しています。そのため、訴訟を用いた取り締まりが難しくなっています。

このアマゾンの訴訟からブランドが学べること

知的財産の保護と監視を徹底しましょう。

ブランドは、国内外を問わず、知的財産の登録と監視に細心の注意を払わなければなりません。少なくとも国際的な登録に関しては、ブランドは拡大や将来の成長を考えている主要な市場で知的財産を登録し、監視するべきです。悪質な業者は、Amazonやその他のプラットフォームのプロセスやツールを常にテストし、その脆弱性を利用しています。知的財産を無防備なままにしておくと、特に中国や日本のような先願主義の管轄区域では、ビジネス上の損失につながりかねません。

また知財保護をマーケットプレイス運営者に頼らないようにしましょう。

マーケットプレイスはブランドの知的財産を保護するためのツールを提供していますが、そのような脆弱性を特定し、対処するためには、他の誰にも頼ることなく、主要なマーケットプレイスにおけるブランドのプレゼンスを常に監視することが重要です。

知的財産報告ツールを正しく使うようにしましょう。

最後に、実質的な根拠なくプラットフォーム上にあらゆるタイプの知的財産侵害報告を提出したり、ブランドへの脅威の程度を誇張したりすると、トラブルにつながる可能性があることを理解してください。そのため、安易にマーケットプレイスにおけるこのような問題を「クリーン」にしてくれるような謳い文句で大々的に広告している第三者サービスの利用には十分注意してください。

参考記事:When Amazon Sues for False Copyright Claims – Vorys eControl’s Take Three Months Out and What Brands Should Be Doing in Response

ニュースレター、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

特許出願
野口 剛史

メタバース特許を取得する上でのポイント

メタバース特許といっても基本「ソフトウェア特許」の一部なので、特許庁における審査のポイントは他のソフトウェア特許の審査とあまりかわりません。つまり、ソフトウェア特許の権利化に慣れているのであれば、メタバース特許の権利化でも応用できる点はたくさんあります。今回はそのことを考慮した上で、メタバース特許を取得する上で大切なポイントを紹介します。

Read More »
twitter-social-media
商標
野口 剛史

ハッシュタグがもたらす商標の落とし穴

ソーシャルメディアやハッシュタグを使ってマーケティングを行ったり、社会的、または、政治的なムーブメントに同調して顧客との親密性を確立するのも現代における有効なマーティンテクニックです。しかし、そこからは有益な商標は得られにくいので、会社としてはそのようなマーケティングとは別に、しっかりとした商標を持ち、ブランドを高めていく活動も必要になってきます。

Read More »
訴訟
野口 剛史

時間軸で気をつけたい秘匿特権の落とし穴

特許訴訟における権利行使やその弁護のために信頼できる弁護士事務所を選ぶのは大切ですが、正式に雇う前にやり取りされた情報は、たとえその事務所を代理人として選んだ場合でも、秘匿特権の保護を受けない可能性があります。なので、戦略など訴訟に関わる重要な情報のやり取りは正式に代理人を任命してから行いましょう。

Read More »