米国のAmazonがAmazonマーケットプレイスにおける第三者の特許侵害を効率よく特定し解決するパイロットプログラムを開始しました。Amazon Utility Patent Neutral Evaluation Procedureというプログラムです。
今回のパイロットプログラムは、任意性で秘匿で、アメリカの特許権者にとって、Amazonで第三者が売っている侵害が疑われる商品に対する素早い特許侵害の評価ができるようになることが期待されています。
プログラム概要
このプログラムは自社の製品の機能に似ているが、自社のロゴやマークが記載されていないものや見た目が自社製品と全く同じでないような製品に最も有効です。そうでなくても、この評価手続きは既存の知財侵害を取り締まるツールに加えられる新たな取締手段になりそうです。
この評価でカギになるのは、問題視されている製品に対応する(read on)アメリカの一般的なUtility特許を所有していることです。この評価を使えるのは権利が抹消していないアメリカの一般的なUtility特許だけで、商標、トレードドレス、デザイン特許、アメリカ以外の特許などは考慮されません。
また、考慮される特許でも、製品に関する特許で、明確にクレームの範囲がわかるものがこの手続きには重宝します。この手続きでは主張できる機会が限られているので、侵害がわかりやすい特許、シンプルな主張、評価する担当者にわかりやすいものが好まれます。
手続き
評価をお願いするには、まず、特許権者はAmazon Utility Patent Neutral Evaluation Agreement (“agreement”) を提出し、特許と関わる1つのクレームを特定し、侵害が疑われる商品を特定します。また、物理的に同じであれば、侵害が疑われる複数の製品のAmazon Standard Identification Numbers (ASINs)を含めることが出来ます。
次に、Amazonはこの契約を侵害が疑われる製品の販売者に送り、評価に携わるか、侵害が疑われる製品をAmazonマーケットプレイスから取り下げるかのオプションを与えます。このとき、販売者に与えられる時間はとても限られています。
販売者が評価に携わるとなった場合、Amazonが中立な特許評価を行う担当者(evaluator)をアメリカ特許の紛争の経験を持った弁護士の中から技術などを考慮し選びます。
評価では、担当者が侵害の疑われる製品の侵害分析を行います。また、担当者が決まった際、担当者から$4000の手数料が特許権者と販売者の両方に請求されます。この費用は主に、評価のために使われます。
もし特許権者が費用を2週間の間に払わなければ、評価は行われず、販売者が払った費用は販売者に返されます。もし販売者が費用を払わなかった場合、担当者はAmazonにそのことを報告し、問題となっている商品のリストをAmazonから取り下げます。
最後にAmazonは勝者に$4000の手数料を返金します。
特許権者も販売者も評価担当者に主張とその主張をサポートする証拠を提示することができます。特許権者は20ページの猶予があり、販売者は15ページです。
手続きのスピードは速く、担当者が決まった時から特許権者はOpening briefを提出するまで21日の猶予しかなく、それが提出されたら販売者は14日の間に返答をする必要があります。その後、その返答に対して、特許権者がreply briefを提出するまで7日間の猶予が与えられます。
また、販売者が返答できる内容には制限があります(the accused products do not infringe; the asserted patent has been declared invalid or unenforceable by a court of competent jurisdiction, the U.S. Patent and Trademark Office, or the International Trade Commission; and that the accused products (or physically identical products) were on sale one year or more before the asserted patent’s earliest effective filing date)。またDiscoveryもありません。また、口頭弁論もありません。
その後、14日以内に担当者が侵害に対する判断を行います。そこで、侵害が疑われている商品が特許クレームを侵害していると思われるという判断を下した場合、担当者は判決を発行し、Amazonはその対象商品をAmazonマーケットプレイスから約10日ほどで取り除きます。
もし担当者が侵害はしていないだろうと判断した場合、Amazonは侵害が疑われる製品を取り除くことはありません。
この評価担当者の決断を上訴する手段はありません。
また、Patent Owner’s replyまでだったら、和解することもできます。和解が成立すれば、担当者は評価をやめ、最大で$1000の費用を確保できますが、残りの費用は特許権者と販売者に戻されます。
Amazonに製品を再度リストする場合、対象になった製品は特許を侵害していない、または、権利行使された特許は無効、または、権利行使不能だという内容の訴訟における判決文を得る必要があります。
そのような判決文をAmazonに提出することで、再度、Amazonに製品を載せることができます。
同じように、もし評価の担当者が侵害はないだろうと判断しても、特許権者が侵害を証明するような判決を得られれば、そのような判決文をAmazonに提出することができ、Amazonは侵害が疑われる製品を取り除きます。
まとめ
このようなAmazonにおける評価手続きは素早く効率のよい模倣品対策としてデザインされています。また、多くの販売者は評価には参加しないと思われるので、そのようなことであれば、効率よく模倣品をAmazonマーケットプレイスから取り除くことができます。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Carey C. Jordan. Vorys Sater Seymour and Pease LLP (元記事を見る)