時間制でない料金体制

費用削減のプレッシャーから予算を立て予算通りに業務をこなしていける知財部が求められる中、アメリカの特許事務所も時間制ではない料金体制(Alternative fee arrangement)を積極的に取り入れているところがあります。今回は、Sterne Kessler Goldstein & Foxという事務所の担当者がインタビューを受けている記事を見つけたので参考になりそうな部分をまとめました。

時間制でない料金体制が求められる理由

理由は、予測可能性、コスト削減、リスクの共有(そして適切な場合には会社の文化的適合性)という3つの要因に集約されます。近年、企業の法務部門では、内部の財務監督が厳しくなってきていて、企業の財務部門は、より洗練された詳細な予算と年間を通じてそれらの予算に対する報告を求めてきます。そのため、法務などの部門でも、予算を準備し、その予算対実際の支出を報告する必要があるので、その影響が提携先の法律事務所にまで来ています。このように、より正確な予算の作成と予算に沿った業務が求められるようになったので、法律事務所でも企業の法務部門でもリーガルオペレーションの専門的なポジションが作られるまでに至っています。

また、法務だけに限られず、知財もコストセンターとして位置づけられている企業がほとんどなので、予算に対するプレッシャーは大きく、よって時間制でない料金体制による予算の管理が浸透していっている傾向にあります。

一般的な時間制でない料金体制

特許出願で言うと、もっとも多いのが定額か費用に上限を設けた料金体制です。

定額の場合、法律事務所とクライアントが出願の手続きに関わる作業を出願やOA対応など細分化してそれぞれの作業に金額を定めます。例えば、OA対応費用が$3500の定額だったとします。この場合、どれくらい時間をかけようが、事務所が請求できるのは$3500です。事務所が効率よく仕事をこなせれば、費用以下またはその範囲以内で業務ができますが、場合によっては、$3500を大きく超えることもあるでしょう。

このようなことになるので、定額(または上限を設けること)には、どれだけ事務所がリスクを取れるかに関わってきます。また、リスクを取るためにはある程度のボリュームの案件を送らないといけません。そうでないと事務所側も多くのOA対応から平均値が取れないので、最初から定額という条件すら考慮しないかもしれません。また、定額なので、案件に関わらず料金は一定で、その期間も少なくとも1年、もしくは数年に及ぶこともあります。

また、場合によっては、クライアント側から定額という提案があっても、実は費用に上限を設けたいというようなこともあります。この場合、案件ごとに時間でチャージできますが、ある金額に達した場合、それ以上はクライアントに請求できないということになります。その場合、リスクシェアーという観点では、事務所がすべてのリスクを負うことになります。

費用の交渉

事務所では、多くの請求データから他のクライアントのために何をしたか、誰が仕事をしたか、どれくらいの時間がかかったか、レビューにどれくらいの時間がかかったかなど、多くの分析を行っているとのこと。しかし、過去のデータだけではなく、今後どれだけ効率化できるかということを考慮することも大切だということです。

またクライアントの中には、特定のタスクにどれくらいのコストがかかるのかという過去のデータをたくさん持っているところもあるので、交渉はお互いのデータセットの位置から始まります。また、作業内容にもずれがある場合があるので、想定している業務内容に関しても十分な確認が必要です。

さらに、交渉する場合、事務所にいた経験のある社内弁護士と交渉することがあり、そのような場合、いくらが適切かというのをその人が勤務していたときの経験から言われることがあるとのこと。しかし、時代は変わり雇用体系やコスト体制も変わってきているのでその部分をちゃんと説明することが大切とのこと。また、作業する担当者が技術者やPatent Agentなのか、または、パートナーレベルの特許弁護士なのかを確認することも重要。

また、実際に運用して6ヶ月後に状況を分析して、最初に決めた体型でお互いにWin-winの関係になっているかを確認。その時に、料金の再設定はもちろんのこと、例えば、一部をアウトソーシングするなど、業務やコスト体制の見直しをすることもおすすめします。

契約に際の重要ポイント

重要になってくるポイントは様々ですが、業界によっても契約は大きく異なります。例えば、電気やソフトウェア関連の特許の場合、技術が進歩するスピードが早いので、スピード感のある対応が求められます。その一方で、バイオ関連の発明スピードは電気やソフトウェア関連に比べて遅いですが、1つや2つの特許が満了するまでの20年の間で莫大な利益をもたらすことも珍しくありません。このように、業界によっても1つ1つの特許の価値、求められている作業の違いなどがあるので、業界や企業に適したモデルを採用することが大切。

また、ある程度の案件依頼が見込めない場合は、時間制でない料金体制を取るところは少ないです。例えば、年間数件レベルの場合、時間制の料金体制しか対応しない事務所がほとんどです。

解説

アメリカで弁護士を雇うと時間でチャージされるので、案件の費用を事前に予算化する作業が困難です。また、案件が複雑化してしまったりすると、最初に予定していた費用を大きく上回ることも珍しくないと思います。このような問題を解決するための時間制でない料金体制ですが、徐々に適用する事務所も増えてきました。

でも、ここでちゃんと指摘したいのが、定額にできたからといって何でも弁護士に聞ける、相談できるということではなく、お互いに合意した範囲の案件について仕事を依頼するということです。当然、合意した範囲以外のことに対して頻繁に対応しなければいけなかったり、作業が契約時点での理解と大きく乖離した場合、再交渉をしてお互いにWin-winになるようにした方が無難です。「定額」だから使い倒すという、何でもとりあえず聞いてみる、ということは長期的な関係に悪影響をおよぼすので、定額の費用モデルに移行する際は、社内での担当者への教育も大切だと思います。

「定額」にしたからといって、費用を抑えることは難しいかもしれませんが、予算管理はしやすくなります。「定額」プランを活用することによって、アメリカの弁護士費用にある程度の目安が立てられれば、当初に予定していた費用を大きく上回るという事態を回避できます。この予算管理という面は日本企業にとって重要な部分だと思うので、この記事を参考に既存の提携事務所に時間制でない料金体制を打診してみるのもいいのではないでしょうか?

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Clarivate Analytics  (元記事を見る

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