ライセンシングとAI:AIモデルのライセンシングの課題

人工知能(AI)モデルは、産業や職場を変革しています。AIモデルをゼロから作成する企業はほとんどありませんが、ほとんどの企業は他社からAIモデルのライセンスを受けることになるでしょう。こうしたライセンスの交渉には、AIライセンスのリスクと価値をよく理解することが必要です。

AIモデルのライセンスは、他のソフトウェア契約との共通点も多いですが、交渉においてAI特有の問題に注意深く目を向けることが必要です。AIモデルは独創的であり、トレーニングデータの必要性が非常に高く、ベンダーはしばしばモデルの能力を過剰に宣伝することがあります。そのため、ライセンシーは交渉の際にこれらの課題を考慮する必要があります。以下では、AIモデルのライセンシングの際に考慮したい法的な問題の一部です。

知的財産権

AIモデルの出力には、どのような知的財産権(IP)が存在するでしょうか?

AIモデルは企業秘密や著作権、あるいは発明的な主題を生み出すことができるのでしょうか?もしそうなら、関連する知的財産権は誰が所有するのでしょう?所有者はライセンサーになるのか、それとも、ライセンシーになるのでしょうか(あるいはモデルそのものかもしれない?)。

これらの質問に対する答えは明確に定義されていませんが、米国連邦巡回控訴裁判所は最近、米国特許法が「発明者」を「人間」と定めていることを確認し、米国特許庁がAIが生み出した発明に対する特許出願を却下したことを支持しました。とはいえ、ライセンシーは、少なくともライセンスにおいて、AIモデルのライセンサーに対する権利を定義することができます

ライセンシーは、AIによって生み出されたすべての知的財産権をライセンシーに譲渡するよう求めるべきでしょうか?例えば、ChatGPTのメーカーは、モデルの出力に関するすべての権利をユーザーに割り当てています。ライセンサーが同様の付与を拒否した場合、ライセンシーは少なくとも、終了後も事業をサポートするための十分な権利を保持していることを確認する必要があります。これらの権利の例としては、出力を複製する権利、出力の派生物を作成する権利、出力を配布する権利などが挙げられますが、これらに限定されません。

パフォーマンスと責任

AIシステムは有望であるにもかかわらず、その多くはまだ実験的であり、AIベンダーの謳い文句はいいものの、実際に使ってみると期待していた通りの効果が得られない場合があります。ライセンシーは、ライセンスされたモデルが十分な精度、信頼性、および堅牢性を提供することを保証するために、最低限のパフォーマンス指標を主張する必要があります。

モデルが期待通りに動作しない場合、ビジネス上の影響は深刻であり、訴訟に発展する可能性もあります。ライセンシーは、性能不足のリスクを不当に負担することがないように、保証と補償(warranties and indemnitie)を明確にする必要があります。また、ライセンシーは、理想的にはライセンスに先立ち、継続的に徹底したテストと検証を行うよう主張する必要があります。ライセンシーは、「試用期間」を設けて、自社の業務でシステムがどのように機能するかを確認するとよいでしょう。

データ保護と機密保持

人工知能の開発には、データが不可欠です。そのため、AIベンダーは、ライセンシーのデータを活用して自社の製品やサービスを向上させようとすることがよくあります。しかし、こうしたベンダーの多くは、プライバシーやサイバーセキュリティに関する豊富な経験や高度な知識を持ち合わせていないため、データの保護と機密保持がより一層重要となっています。データ転送はソフトウェアライセンスの標準的な構成要素ですが、AI製品の改良のためにライセンシーのデータを使用することは、通常のソフトウェア契約とは異なるプライバシーとサイバーセキュリティに関するさらなる懸念をもたらします。

ライセンシーは、データの利用が適用されるプライバシー法に合致し、ユーザーに提供されるプライバシー通知と一致していることを確認する必要があります。多くの州でAIや自動意思決定に関する法律が制定されているため、ライセンシーはこの分野の動向を常に把握し、継続的なコンプライアンスを確保する必要があります。

さらに、ライセンシーのデータをライセンサーに転送する場合、ライセンサーの手中にある間は盗難に遭いやすくなる可能性があります。ライセンシーは、ライセンサーがライセンシーのデータを保護するために適切な措置を講じるようにしなければなりません。保護された健康情報(PHI)や決算に使われるカードのデータのように、データの種類によっては、 そのようなデータを共有する契約に特定の保護を含める必要があります。ライセンシーは、ライセンス交渉の際に自社のコンプライアンス要件を考慮し、ライセンスがこれらの用途に合致していることを確認する必要があります。

ライセンシーにとって重要なこと

AIモデルの普及は、法的考察の複雑な風景をもたらします。AIが一般的になるにつれて、企業はこれらの検討事項をしっかりと把握する必要があります。AI規制に関する最新情報を入手し、法律顧問の助言を求めることで、企業は責任を持ってAIテクノロジーの力を活用することができます。

参考記事:Licensing and AI: Understanding the Challenges of Licensing AI Models

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