AI(人工知能)は、新しいコンテンツを創造したり、人間のスタイルを再現したりすることができるため、発明家が特許性のある技術を創造するためのツールとして、テクノロジーの世界において急速に大きな力を持つようになっています。しかし、それと同時に、AIが進化するにつれ、新たな法的問題、特に知的財産の問題が生じています。所有権や著作権の問題から、保護された知的財産をジェネレーティブAIシステムで使用することまで、ジェネレーティブAIの急速な発展に伴い、法的環境も進化を遂げる必要があるでしょう。
ジェネレーティブAIとは?
ジェネレーティブAIとは、入力された学習データのセットに基づいて新しいコンテンツを作成することができる人工知能の一種です。このコンテンツは、画像、テキスト、音声の形をとることができ、特定の人物やグループのスタイルを模倣するように設計することも可能です。ジェネレーティブAIでは、2つのニューラルネットワーク、つまり、一方がコンテンツを生成し、もう一方が入力された学習データにどれだけ近いかを評価するという方法で、教育する方法が一般的です。AIモデルが訓練されると、生成ネットワークはますます高度化し、多様な出力を生成するようになります。
ジェネレーティブAIシステムの例としては、シリコンバレーのスタートアップ企業OpenAIのプロジェクトであるDall‧E(AI画像生成システム)やChatGPT(AIテキスト生成システム)などがあります。また、ジェネレーティブAIプロジェクトは、今後も資本を集め続け、この分野(と法的問題)は成長する一方です。
AIシステムには特許発明者としての権利はない
2022年、米連邦巡回控訴裁はThaler v. Vidalで、AIには特許の発明者としての権利はないと判示しました。連邦巡回控訴裁は、米国特許法における「発明者」という用語は、人間の発明者を必要とすると解釈されることがその理由です。
2020年5月、USPTOは、コンピュータ科学者Stephen Thalerが提出した特許米国特許出願第16/524,350号を、「各発明者を法的名称で特定できていない」として拒絶。Thalerは、AIシステムであるDevice for the Autonomous Bootstrapping of Unified Science (DABUS)を唯一の発明者としました。Thalerは、自分はクレームされた発明の着想に貢献していないと主張し、AIシステムを唯一の発明者として特定できるようにするため、不完全な出願の通知を取り消すようUSPTO長官に請願しました。USPTOは最終的に、「機械は発明者として適格ではない」という理由で、この請願を却下。USPTOは、特許法が発明者を自然人と定めていることに着目し、特許法の平易な読み方を採用した。その後、バージニア州の連邦地裁でUSPTOに有利な略式判決が下されると、CAFCはこの問題を取り上げることになりました。
Thalerにおいて、CAFCは、特許法の平易な意味の下では、「個人」と「発明者」は明確に自然人であると判断しました。特許法は「個人」という言葉を定義していませんが、連邦巡回控訴裁は、Mohamad v. Palestinian Auth.の最高裁判決を参照し、「名詞として、『個人』とは通常、人間、人を意味する」と説明しました。さらに同裁判所は、議会が “individual “という用語の異なる読み方を意図した形跡はないと説明。この判決から、AIは特許法で要求される「自然人」ではないため、AIは特許法上の発明者となることができないということが(今のところの)法律上の明確になっています。
AIを活用した発明には人間の「発明者」としての貢献が重要になってくる
特許法では、「発明者」を「個人、または共同発明の場合は、その発明の主題を発明または発見した個人たち」(”the individual or, if a joint invention, the individuals collectively who invented or discovered the subject matter of the invention”)と定義していますが、同様に「共同発明者」(”joint inventor” または “coinventor” )を「共同発明の主題を発明または発見した個人のうち、いずれか1名」(any 1 of the individuals who invented or discovered the subject matter of a joint invention) と定義しています。 したがって、Thaler判決および特許法に基づいて、発明者が法律で認められるためには、1)自然人であること、2)発明の主題を発明または発見していることが必要になってきます。
AIは人間ではないので発明者にはなれませんが、AIが発明の主題の発明または発見を支援することはできるのでしょうか?Thalerは、この事件が「人間がAIの援助を受けて行った発明が特許保護の対象となるかどうかという問題」を提示していないとはっきり説明しているので、Thaler事件の考察だけでは、AIによる発明の補助の問題をはっきりさせることはできません。
しかし、いままでの判例を総合的に考えると、AIは人間の発明者を支援することはできても、その後の特許に発明者として記載されることはできないという理解がスッキリいくとおもいます。しかし、この場合でも、少なくとも1人の人間が法律上の共同発明者のレベルにまで達していることが必要です。
発明者とは、特許出願に記載され請求された発明の着想に貢献した人を指します。「着想」(Conception)とは、「発明者の心の中に、完全かつ実用的な発明の明確かつ永続的なアイデアが形成されること」(”formation in the mind of the inventor, of a definite and permanent idea of the complete and operative invention”)です。また、「アイデアは、大規模な研究や実験なしに、発明を実施に移すために通常の技術のみが必要となる場合、十分に明確かつ永続的である」(”An idea is sufficiently definite and permanent when only ordinary skill would be necessary to reduce the invention to practice, without extensive research or experimentation”)必要があります。一般的に、共同発明者は、発明の着想または実施への移行のために何らかの重要な方法で貢献しなければならず、これは発明の全体像に対して測定すると重要性がないとはいえない程度の貢献であると考えられます。また、共同発明者は、実際の発明者に対して、単に周知の概念及び/又は技術の現状を説明した以上のことをしなければなりません。
このことは、AIを利用した発明の場合、共同発明家制度に問題をもたらす可能性が高いです。Thaler事件を参考にすると、特許法の下で特許が付与されるためには、人間の発明者が法的に重要な方法で発明に貢献する(すなわち、法律上の共同発明者のレベルに達する)必要があります。ジェネレーティブAIを使用する人間の発明者は、2つの段階で発明の着想に貢献することになります。その2つの段階とは、1)学習データを生成AIシステムに入力する段階と、2)その後の出力を処理する段階です。
人間の発明家が入力段階で貢献するためには、周知の概念や技術の現状を説明する以上のことをしなければなりません。そして、アウトプット段階での貢献は、最終的な発明を考案し、実施に移すためにアウトプットを使用したことを示す必要があります。いずれの段階においても、発明者が発明を着想したことを示す証拠があれば、それを文書化する必要があります。