はじめに
知的財産の世界において、キャラクターの著作権保護は複雑で興味深い分野です。ミッキーマウスやスーパーマンといった人間的特徴を持つキャラクターが著作権保護を受けることは広く受け入れられていますが、自動車のような物体がキャラクターとして保護されるかという問題は、より微妙な判断を要します。
2025年5月27日、第9巡回区控訴裁判所(United States Court of Appeals for the Ninth Circuit、以下「第9巡回区」)は、Carroll Shelby Licensing, Inc. v. Halicki 事件において、映画『60セカンズ』シリーズに登場する自動車「Eleanor」のキャラクター著作権保護を否定する重要な判決を下しました。この判決は、2015年の DC Comics v. Towle 判決で確立されたキャラクター著作権保護の基準を厳格に適用し、自動車がキャラクターとして認められるための高いハードルを明確に示しています。
本稿では、この画期的な判決の詳細な分析を通じて、キャラクター著作権保護の境界線がどこに引かれるのか、そして知的財産実務における重要な示唆について深く掘り下げていきます。AI技術の発展により、様々な創作物の著作権保護が問われる現代において、この判決が示す原則は、今後の知的財産戦略に大きな影響を与えることでしょう。
DC Comics v. Towle 判決が確立したキャラクター著作権保護の3要件テスト
キャラクターの著作権保護を理解するためには、まず2015年の DC Comics v. Towle 判決で確立された基準を把握することが不可欠です。この判決は、第9巡回区がキャラクター著作権保護の明確な枠組みを提示した重要な先例となっています。
バットモービルが著作権保護を獲得した理由
Towle 事件では、バットマンの愛車として知られるバットモービルのレプリカを製造・販売していた被告に対し、DCコミックスが著作権侵害を主張しました。第9巡回区は、バットモービルが独立したキャラクターとして著作権保護を受けると判断し、その理由を詳細に説明しました。
バットモービルは、数十年にわたってコミック、テレビ番組、映画に登場し、一貫してバットマンを支援する「忠実な相棒」としての役割を果たしてきました。裁判所は、バットモービルが単なる乗り物ではなく、以下のような独自の個性と自律性を持つ存在として描かれていることを重視しました:
せっかちな軍馬のように手綱を引っ張りながら待機し、超高性能エンジンがエネルギーに震えながら、逃走する悪党を追跡する前に
3要件テスト:物理的・概念的特質、一貫性、独特性
Towle 判決は、キャラクターが著作権保護を受けるための3つの要件を明確に定式化しました。これらの要件は、その後のキャラクター著作権事件において重要な判断基準となっています。
第1要件:物理的および概念的特質(Physical as well as conceptual qualities)
キャラクターは、視覚的に認識可能な物理的特徴と、人間的特徴(anthropomorphic characteristics)、自律性(autonomy)、意志(volition)、感情表現(emotional expression)などの概念的特質の両方を備えている必要があります。単なる文学的記述だけでは不十分で、視覚的表現(visual representation)が必要です。
第2要件:一貫した識別可能性(Sufficiently delineated and consistent traits)
キャラクターは、登場するたびに同一のキャラクターとして認識できるよう「十分に明確に描写」され、「一貫した識別可能なキャラクター特性と属性」を示す必要があります。外見が多少変化しても、核となる特性が持続していることが重要です。
第3要件:独特性(Especially distinctive and unique elements)
キャラクターは「特に独特」であり、「独自の表現要素」を含んでいる必要があります。「標準的な魔術師の衣装を着た魔術師」のような典型的なキャラクターでは不十分で、他と区別される独自性が求められます。
自動車のキャラクター性を判断する新たな基準
Towle 判決は、自動車のような物体であってもキャラクターとして保護される可能性を示しましたが、同時に非常に高い基準を設定しました。バットモービルの場合、その独特なコウモリを模したデザイン、高度な武器システム、そして何よりもバットマンとの相互作用における自律的な行動が評価されました。
この基準は、単に名前が付けられた自動車や、映画に登場する乗り物が自動的にキャラクター保護を受けるわけではないことを明確にしています。むしろ、人間的特質、一貫した個性、そして独特な表現要素の組み合わせが必要であることを示しています。
Carroll Shelby Licensing v. Halicki 事件の概要
Carroll Shelby Licensing v. Halicki 事件は、Towle 判決の基準が実際にどのように適用されるかを示す重要な事例となりました。この事件の背景には、長年にわたる複雑な権利関係と商業的対立があります。
映画『60セカンズ』シリーズと「Eleanor」の登場
事件の中心となったのは、映画『60セカンズ』(Gone in 60 Seconds)シリーズに登場する「Eleanor」と呼ばれるフォード・マスタングです。このシリーズは、1974年のオリジナル版から始まり、1982年の『ザ・ジャンクマン』(The Junkman)、1983年の『デッドライン・オート・セフト』(Deadline Auto Theft)、そして2000年のハリウッド・リメイク版まで、4本の映画で構成されています。
オリジナルの1974年版では、主人公とそのチームが48種類の自動車を盗む任務を負い、各車両には「ドナ」や「カレン」といった女性の偽名が割り当てられました。その中で、黄色い1971年ファストバック・フォード・マスタングに「Eleanor」という名前が付けられ、主人公は映画全体を通じて4台のEleanorを盗み、そのうち1台でクライマックスのカーチェイスを繰り広げました。
興味深いことに、各映画でのEleanorの外観は大きく異なっていました。1974年版では黄色のファストバック、1982年の『ザ・ジャンクマン』では損傷したジャンク車、2000年のリメイク版では灰色のシェルビーGT-500マスタングと、一貫した視覚的アイデンティティを欠いていました。
2009年和解合意とその後の紛争
2000年のリメイク版公開後、キャロル・シェルビー・ライセンシング(Carroll Shelby Licensing)は、カスタムカーショップにGT-500Eフォード・マスタングの製造ライセンスを供与しました。これに対し、映画の著作権を所有するデニス・ハリッキ(Denice Halicki)は、この車両がEleanorのデザインを無断で複製したとして、著作権侵害を含む複数の請求で訴訟を提起しました。
両当事者は2009年に和解に達しましたが、この和解合意の解釈が後の紛争の火種となりました。和解合意では、シェルビーがEleanorの「誇張された隆起したフード特徴」と「Eleanorの小型デュアルヘッドライトの特定デザイン」を複製することを禁止していました。
しかし、和解後まもなく、シェルビーはクラシック・リクリエーションズ(Classic Recreations)に「GT-500CR」マスタングの製造ライセンスを供与しました。ハリッキはこれを和解合意違反と見なし、GT-500Eのオーナーやオークションハウスに連絡して車両への著作権権益を主張し、クラシック・リクリエーションズにGT-500CRの製造中止を要求しました。
第9巡回区控訴裁判所への上訴
この新たな紛争により、シェルビーは和解合意違反(breach of settlement agreement)と宣言的救済(declaratory relief)を求めて訴訟を提起しました。ハリッキは反訴で和解合意違反と著作権侵害を主張し、クラシック・リクリエーションズも第三者被告として著作権侵害で訴えられました。
地方裁判所は、相互の略式判決申立てにおいて、Eleanorがキャラクター著作権保護を受ける資格がないと判断しました。法廷審理後、地方裁判所はハリッキの和解合意違反請求を棄却しましたが、シェルビーのGT-500CRがハリッキの権利を侵害しないとの宣言的救済の要求は却下しました。
この判断に対し、両当事者が第9巡回区に上訴し、2025年5月27日に重要な判決が下されることとなりました。
第9巡回区控訴裁判所による「Eleanor」の著作権保護否定判決
第9巡回区のジェレミー・D・カーノドル地方裁判所判事(Jeremy D. Kernodle, District Judge)による判決は、Towle テストの厳格な適用を通じて、Eleanorがキャラクター著作権保護を受けられない理由を詳細に説明しています。
判決は以下のように明確に結論づけました:
Eleanor is not a character, much less a copyrightable character.
(Eleanorはキャラクターではない、ましてや著作権保護可能なキャラクターでもない。)
第1要件:概念的特質の欠如
Towle テストの第1要件である「物理的および概念的特質」について、裁判所はEleanorが概念的特質を完全に欠いていると判断しました。この分析は、キャラクター著作権保護における人間的特徴の重要性を浮き彫りにしています。
人間的特徴の不存在
裁判所は、概念的特質として以下の要素を挙げました:
anthropomorphic characteristics, autonomous and volitional conduct, the display of sentience and emotion, the expression of personality, speech, thought, or interaction with other characters or objects
(人間的特徴、自律性と意志を持った行動、知覚と感情の表示、個性の表現、発話、思考、または他のキャラクターや物体との相互作用)
これらの要素は、単なる物体をキャラクターへと昇華させる重要な特徴となります。
Eleanorの場合、これらの概念的特質が一切認められませんでした。車両は常に映画の主人公によって運転され、独自の判断や行動を示すことはありませんでした。バットモービルが「忠実」でバットマンの援助に「礼儀正しく停車する」自律的な行動を示したのとは対照的に、Eleanorは受動的な存在でした。
自律性・意志・感情表現の欠如
ハリッキ側は、リメイク版でEleanorのエンジンが止まったシーンを指して、主人公のガールフレンドが車内にいることへの「嫉妬」を示していると主張しました。しかし、裁判所はこの解釈を「純粋な推測」として退けました。
裁判所は以下のように述べ、客観的な証拠に基づく判断の重要性を強調しました:
A reasonable viewer would attribute the breakdown to the poor condition of the vehicle, not to Eleanor’s emotions.
(合理的な視聴者は、故障を車両の状態の悪さに帰するのであって、Eleanorの感情によるものとは考えない。)
この判断は、キャラクターの概念的特質を認定する際の厳格な基準を示しています。
単なる「道具」としての位置づけ
最終的に、裁判所はEleanorを以下のように位置づけました:
Eleanor is just one of many named cars in the movies… In this respect, Eleanor is more like a prop than a character.
(Eleanorは映画の多くの名前付きの車の一つに過ぎない…この点で、Eleanorはキャラクターというよりも道具に近い。)
この判断は、名前が付けられた物体であっても、それだけではキャラクター性を獲得できないことを明確にしています。
第2要件:一貫したキャラクター特性の欠如
Towle テストの第2要件である「一貫した識別可能なキャラクター特性」について、裁判所はEleanorが4つの映画と11の登場シーンを通じて一貫性を欠いていると判断しました。
映画間での外観の大幅な変化
Eleanorの物理的外観は映画間で劇的に変化していました。1974年版では黄色と黒のファストバック・マスタング、2000年版では灰色と黒のシェルビーGT-500マスタング、さらにリメイク版の最後には錆びた塗装剥がれの修理が必要な車両として登場しました。
裁判所は以下のように指摘し、視覚的一貫性の重要性を強調しました:
Later Eleanors are not recognizable until the protagonist introduces them as Eleanor.
(後のEleanorは、主人公によってEleanorとして紹介されるまで認識できない。)
これは、キャラクターが「登場するたびに同一のキャラクターとして認識可能」でなければならないという Towle の要件に直接関連しています。
識別可能性の欠如
ハリッキ側が主張したEleanorの特徴として「深刻な損傷を受ける」「盗むのが困難」といった点が挙げられましたが、裁判所はこれらの一貫性を否定しました。実際には、Eleanorの半数以下しか損傷を受けておらず、その損傷も警察追跡による車体損傷から美容的損傷、完全なスクラップまで様々でした。
また、主人公によって盗まれたEleanorの大部分は「ほとんど困難なく盗まれた」ことも指摘されました。これらの事実は、ハリッキ側の主張する一貫した特徴が実際には存在しないことを示しています。
キャラクター特性の非一貫性
「警察から逃げるのが上手」「壮大なジャンプを生き延びる」といった特徴についても、裁判所は以下のように判断しました:
These traits are more easily attributable to the movie protagonists driving the cars rather than to Eleanor itself.
(これらの特徴は、車を運転している映画の主人公により容易に帰属する特徴であり、Eleanor自体によるものではない。)
この分析は、キャラクターの特性を評価する際に、その特性が真にキャラクター自身に帰属するものなのか、それとも他の要因によるものなのかを慎重に検討する必要があることを示しています。
第3要件:独特性の欠如
Towle テストの第3要件である「独特性と独自の表現要素」について、裁判所はEleanorが「ストック」スポーツカーの域を出ないと判断しました。
一般的なスポーツカーとの区別不可能性
裁判所は以下のように述べました:
There is nothing that distinguishes Eleanor from the numerous sports cars featured in car-centric action movies.
(Eleanorを車中心のアクション映画に登場する数多くのスポーツカーと区別するものは何もない。)
これは、バットモービルの「独特なコウモリのような外観」「ジェットエンジンと火炎放射管」「通常の車をはるかに超える機動能力」と対照的です。
Eleanorは、特別な武器システムや超自然的な能力を持たず、基本的にはカスタマイズされたフォード・マスタングの範囲内に留まっていました。この点で、一般的なスポーツカーとの明確な区別を欠いていました。
「Eleanor」という一般的な名前
名前の独特性についても、裁判所は「Eleanor」が「一般的な女性名」であることを指摘し、これが「映画で車両にコードネームを付ける際の正常性の全体的なポイント」であったと述べました。これは、バットモービルの「独特で高度に認識可能な名前」とは対照的です。
この判断は、キャラクターの名前も独特性の評価において重要な要素となることを示しています。一般的すぎる名前は、キャラクターの独自性を支持する要因とはならないのです。
ストック・キャラクターとしての位置づけ
最終的に、裁判所はEleanorを「『ストック』スポーツカー」と位置づけ、Towle テストの第3要件を満たさないと結論づけました。この判断は、キャラクター著作権保護が「標準的な魔術師の衣装を着た魔術師」のような典型的なキャラクターには適用されないという Towle の原則と一致しています。
バットモービルとEleanorの決定的な違い
Towle 事件のバットモービルと本事件のEleanorの比較は、キャラクター著作権保護の境界線を理解する上で極めて有益です。両者の違いは、Towle テストの各要件において明確に現れています。
バットモービルの人間的特質と自律性
バットモービルは、数十年にわたる登場において一貫して人間的特質を示してきました。Towle 判決では、バットモービルが以下のような表現で描かれていることが強調されました:
an impatient steed, straining against the reins and ready to charge, with a high-powered engine revving with energy
また、バットモービルは「バットマンに忠実」で、必要な時には「礼儀正しく停車して通り過ぎる子供たちを待つ」自律運転能力を持つことが評価されました。
これらの特徴は、バットモービルが単なる乗り物ではなく、独自の個性と判断能力を持つキャラクターとして描かれていることを示しています。バットモービルは、バットマンの相棒として積極的に犯罪と戦い、時には独立して行動する能力を示しました。
対照的に、Eleanorは常に受動的な存在でした。主人公によって運転され、独自の判断や行動を示すことはありませんでした。Eleanorが示すとされる特徴(警察からの逃走能力など)は、実際には運転手の技能によるものであり、車両自体の特性ではありませんでした。
一貫したビジュアルアイデンティティの重要性
バットモービルは、メディアや時代によって細部は変化しても、常にコウモリを模した独特なデザインを維持してきました。ジェットエンジン、武器システム、そして何よりもコウモリのような外観は、どの版のバットモービルにも共通する識別可能な要素でした。
一方、Eleanorは映画間で根本的に異なる外観を示しました。色、モデル、状態が大きく変化し、視聴者は主人公の紹介なしにはEleanorを識別することができませんでした。この一貫性の欠如は、Towle テストの第2要件である「十分に明確に描写され、登場するたびに同一のキャラクターとして認識可能」という基準を満たさない決定的な要因となりました。
物語における能動的役割の有無
バットモービルは、バットマンの物語において能動的で不可欠な役割を果たしてきました。単なる移動手段ではなく、バットマンの犯罪撲滅活動における重要なパートナーとして機能し、時には物語の展開に直接影響を与える存在でした。
Eleanorの場合、物語における役割は本質的に受動的でした。確かに映画のクライマックスで使用されましたが、それは主人公の技能と勇気を示すための舞台装置としての機能に留まっていました。Eleanorが物語の展開に独立して影響を与えることはなく、主人公の行動を支援する道具以上の存在ではありませんでした。
この比較から明らかになるのは、キャラクター著作権保護を獲得するためには、単に名前が付けられ、物語に登場するだけでは不十分だということです。真のキャラクター性を獲得するためには、独自の個性、一貫した識別可能性、そして物語における能動的な役割が必要なのです。
和解契約解釈における重要な教訓
本事件では、著作権侵害の問題と並んで、2009年の和解契約の解釈が重要な争点となりました。第9巡回区の判断は、契約解釈における重要な原則を示しており、知的財産ライセンス契約の実務に貴重な示唆を提供しています。
カリフォルニア州契約法の適用
裁判所は、カリフォルニア州契約法に基づく解釈原則を適用しました。カリフォルニア州法では、契約文言が明確で明示的であり、不条理を含まない限り、その文言が契約解釈を支配します。また、以下の解釈原則が適用されます:
- 用語は、技術的または特別な意味が適用されるべき場合を除き、通常かつ一般的な意味を受ける
- すべての条項に効力を与える解釈が、一部の条項を無意味にする解釈よりも優先される
- 契約は全体として読まれるべきである
- 不条理な解釈は避けるべきである
これらの原則は、知的財産ライセンス契約の起草および解釈において、常に念頭に置くべき基本的な考え方です。
契約条項の限定的解釈
争点となったのは、和解契約がシェルビーに対して(1)Eleanorの独特な特徴のすべてを複製することを禁止しているのか、それとも(2)Eleanorの独特なフードとインセットライトのみの複製を禁止しているのかという点でした。
地方裁判所および第9巡回区は、後者の限定的解釈を採用しました。和解契約第4条は、シェルビーが「Eleanorフードの誇張された隆起したハンプ特徴」または「Eleanorの小型デュアルヘッドライトの特定デザイン」の製造またはライセンスを禁止する唯一の条項でした。
裁判所は、「文言はその意味するところを意味する」として、契約の明確な文言に従った解釈を採用しました。この判断は、契約解釈において文言の明確性が最優先されることを再確認しています。
ハリッキ側は、契約の他の条項(第8条と第17条)を組み合わせて、より広範な禁止を主張しましたが、裁判所はこの「拡張的読解」を採用しませんでした。裁判所は、このような解釈が「関連のない条項を契約の文言によって支持されない方法で組み合わせる」ものだと批判しました。
外的証拠の限界
ハリッキ側は、和解契約が「永続的な平和」を創出し、当事者間のEleanor問題を「完全に解決」することを意図していたという外的証拠を提示しました。しかし、裁判所はこの証拠が「契約の意味について何の光も投げかけない」として考慮を拒否しました。
裁判所は以下のように述べ、このような一般的な意図では契約の具体的な文言を覆すことはできないと判断しました:
All settlement agreements intend to create lasting peace.
(すべての和解契約が永続的な平和を創出することを意図しているのは当然のこと。)
この判断は、外的証拠の使用に関する重要な制限を示しています。外的証拠は、契約文言の特定の解釈を支持する場合にのみ考慮され、一般的な契約目的を理由に明確な文言を無視することはできません。
知的財産ライセンス契約の実務においては、この判決から以下の教訓を得ることができます:
- 明確な定義の重要性: 重要な用語は契約内で明確に定義すべきです
- 包括的条項の必要性: 広範な保護を求める場合は、具体的かつ包括的な条項を設けるべきです
- 外的証拠への過度な依存の危険性: 契約の文言が明確である場合、外的証拠に頼ることはできません
知的財産実務への実務的示唆
Carroll Shelby Licensing v. Halicki 事件の判決は、知的財産実務に多方面にわたる重要な示唆を提供しています。特に、キャラクター著作権戦略、ライセンス契約の起草、そして宣言的救済の活用において、実務家が考慮すべき重要なポイントを明確にしています。
キャラクター著作権戦略の見直し
本判決は、Towle テストの厳格な適用を通じて、キャラクター著作権保護の高いハードルを再確認しました。これは、クライアントのキャラクター著作権戦略を構築する際に、以下の点を慎重に検討する必要があることを意味します。
概念的特質の重要性: 単に名前が付けられた物体や、視覚的に魅力的なデザインを持つ製品であっても、人間的特徴、自律性、感情表現などの概念的特質を欠く場合、キャラクター保護は困難です。クライアントがキャラクター保護を求める場合、これらの要素をいかに物語や表現に組み込むかが重要になります。
一貫性の維持: キャラクターが複数の作品や媒体に登場する場合、外観や特性の一貫性を維持することが不可欠です。ブランド管理の観点からも、キャラクターの核となる特徴を明確に定義し、それを維持するためのガイドラインを策定することが重要です。
独特性の強化: 「ストック」キャラクターでは保護を受けられないため、他と明確に区別される独自の要素を開発し、強調することが必要です。これは、デザイン面だけでなく、キャラクターの役割や物語における機能においても独自性を追求することを意味します。
ライセンス契約における明確な定義の重要性
和解契約の解釈に関する判断は、知的財産ライセンス契約の起草において重要な教訓を提供しています。
用語の明確な定義: 本事件では、「Eleanor」という用語が契約全体を通じて異なる文脈で使用され、明確な定義が欠如していたことが問題となりました。ライセンス契約では、重要な用語(特に保護対象となる知的財産)を明確に定義することが不可欠です。
包括的な制限条項: ライセンサーが広範な保護を求める場合、具体的かつ包括的な制限条項を設ける必要があります。本事件のように、特定の要素(フードとヘッドライト)のみを明示的に禁止した場合、それ以外の要素については制限が及ばないと解釈される可能性があります。
外的証拠への依存の危険性: 契約の「精神」や一般的な意図に依存するのではなく、具体的な権利と義務を契約文言に明記することが重要です。外的証拠は契約文言が曖昧な場合にのみ考慮されるため、明確な文言が最優先されます。
宣言的救済の戦略的活用
第9巡回区は、地方裁判所による宣言的救済の拒否を覆し、この救済手段の重要性を強調しました。
法的関係の明確化: 宣言的救済は、当事者間の法的関係を明確化し、将来の紛争を防止する効果的な手段です。特に、知的財産権の範囲や有効性について不確実性がある場合、宣言的救済によって法的地位を明確にすることができます。
不確実性からの解放: シェルビーのケースでは、ハリッキの継続的な権利主張により事業上の不確実性が生じていました。宣言的救済は、このような不確実性から当事者を解放し、安定した事業環境を提供する重要な機能を果たします。
戦略的タイミング: 宣言的救済は、侵害訴訟を待つのではなく、積極的に法的地位を明確化したい当事者にとって有効な戦略です。特に、競合他社からの権利主張に対して防御的な立場を取る場合に有用です。
これらの示唆は、現代の知的財産実務において、技術の進歩と法的保護の境界線を慎重に見極める必要性を強調しています。AI技術の発展により、様々な創作物の著作権保護が問われる中、本判決が示す原則は今後の戦略策定において重要な指針となるでしょう。
まとめ
Carroll Shelby Licensing v. Halicki 事件における第9巡回区控訴裁判所の判決は、キャラクター著作権保護の境界線を明確に示す重要な先例となりました。この判決は、DC Comics v. Towle で確立された3要件テストの厳格な適用を通じて、自動車「Eleanor」がキャラクターとしての著作権保護を受けられない理由を詳細に解説しています。
判決の核心は、真のキャラクター性を獲得するためには、単なる名前の付与や物語への登場だけでは不十分であるという点にあります。人間的特徴や自律性などの概念的特質、一貫した識別可能性、そして独特性という3つの要件すべてを満たす必要があり、そのハードルは決して低くありません。バットモービルとEleanorの比較が示すように、真のキャラクターは物語において能動的な役割を果たし、独自の個性と一貫したアイデンティティを持つ存在でなければならないのです。
また、和解契約の解釈に関する判断は、知的財産ライセンス契約の実務において重要な教訓を提供しています。契約文言の明確性が最優先され、外的証拠や一般的な意図では明確な文言を覆すことができないという原則は、契約起草の際に常に念頭に置くべき基本的な考え方です。
AI技術の急速な発展により、様々な創作物の著作権保護が問われる現代において、この判決が示す原則は特に重要な意義を持ちます。技術革新と既存の法制度の調和を図る上で、キャラクター著作権保護の明確な基準は、創作者の権利保護と技術発展の両立を可能にする重要な指針となるでしょう。
知的財産実務家にとって、本判決は単なる判例研究の対象ではなく、クライアントの権利保護戦略を構築する上での実践的な指針です。キャラクター著作権の主張、ライセンス契約の起草、そして宣言的救済の活用において、この判決が示す原則を適切に理解し、活用することが、効果的な知的財産保護につながることでしょう。