特許の出願日などの優先権主張日は特許システムが成り立つ上で大切なコンセプトです。通常、優先権日以降の文献は先行例文献として成立しませんが、ある一定の条件を満たせば限定的な用途で先行例文献として扱うことができます。
今回は、CAFCで下された2つの判決を元に、どのような時に優先権主張日以降の文献が先行例文献として使えるのか見ていきましょう。今回紹介する判決は2つですが、同じ特許に対して、同じCAFCパネルが行ったもので、1つはPTABからの上訴、もう一つは地裁からの上訴です。 Yeda Research & Dev. Co. v. Mylan Pharm. Inc., Case Nos. 17-1594, -1595, -1596 (Fed. Cir. Oct. 12, 2018) (Reyna, J); In re Copaxone Consol. Cases, Case No. 17-1575 (Fed. Cir. Oct. 12, 2018) (Reyna, J).
背景
Yeda社は今回問題になる薬の投与量に関する3つの特許の権利者です。特許のクレームには、Copaxone というすでに知られている薬品を7日間の間に最低でも1日間隔をあけて40 mg 3回皮下投与する方法が書かれていました。この特許クレームは地裁とPTABの両方で無効という判断が下されました。その判決を不服とし、特許権者のYedaは上訴。
CAFCは地裁とPTABの判決を支持。特許が無効という判断をサポートするにあたり、Copaxone の投与には投与部分に大きくまた不快な反応が現れることがよく知られていたことに注目。先行例文献ではすでに毎日の投与量20mgと1日おきの投与量40mgという2つの異なる投与量がすでに開示されていました。この異なる投与方法は(1週間で見るとほぼ同量の投与が得られるので)同様の効果があるものの、投与回数が少ない方の方法の方が患者に負担がかからないことがわかっていました。
このような先行例文献と知識から、地裁とPTABは、特許クレームと公知の情報の差は、2週間ほどの期間において 40 mg1回の投与だけです。具体的には、特許クレームの方が2週間のスパンで見ると先行例文献のものよりも1回投与数が少なくなっています。しかし、先行例文献で、すでに投与回数は少ない方が効果的だという動機が明確で、エキスパートの証言もその動機を裏付けるものあったため、地裁でもPTABでもクレームで書かれている投与方法を使うのは自明だという結論にいたりました。
この自明の理由の1つとして、地裁でもPTABでも、特許の優先権主張日の3週間後に公開された文献が使われました。通常は優先権主張日以降の文献を無効理由のために使うことはできませんが、文献の元になった実験が2年前にすでに行われていたことから、発明が起きたときの技術レベルを示すこと(for the limited purpose of showing the state of the art at the time of the invention)に限定した形で文献が採用されました。この文献では、患者の負担を減らすため、Copaxone の投与頻度を減らし、1日おきに行うべきという結論に至っていました。このような開示内容から、患者の負担を減らすために投与数を減らすのことは発明の時点ですでに公知であったことが示されました。
まとめ
特許の優先権主張日以降の文献は通常先行例文献として成立しません。しかし、自明性を証明する際に、発明が起きたときの技術レベルを示すことだけを目的にした用途であれば、他の先行例文献と共に自明性を証明する文献の1つとして使うことができます。といっても、文献の内容とクレームされている発明内容、他の先行例文献の開示内容、文献の公開日などにもよるので限られた場合にのみ適用されるものですが、覚えておくといいと思います。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:K. Nicole Clouse. McDermott Will & Emery (元記事を見る)