優先権出願で気をつけたいクレーム補正における記述要件不備の問題

優先権を主張した外国出願に書かれている内容が、アメリカ出願では省略されていたケースにおいて、クレーム補正が認められないという判例がありました。クレーム補正が外国出願にのみ書かれていた内容だったので記載要件不備(Lack of Written Description)と判断されてしまい、クレームに特許性がないと判断されてしまいました。

翻訳のミスなのかはわかりませんが、優先権を主張した外国出願に書かれている内容が適切にアメリカ出願に反映されているかは最低限確認しておくべきでしょう。

判例:Dong Guan Leafy Windoware Co. Ltd., v. Anli Spring Co., Ltd. And Hsien-Te Huang, PGR2020-00001, Paper 21 (P.T.A.B. October 30, 2020).

PGRにおいて審査会はクレームが不定である可能性が高いと判断

Post Grant Review(PGR)において、クレーム2と4の不定(indefiniteness)が問題になっていました。クレーム2と4は共に、「不等トルクコイルスプリングは、4:1の間の比率で使用可能なフィードバックトルク値を生成する」(“the unequal-torque coil spring generates usable feedback torque values with a ratio between 4:1”)ことを要求しており、審査会はこれらのクレームは不定である可能性が高いと判断していました。

PGRは特許発行後に行える再審査の1つで、IPR(Inter Partes Review)と共にAIAで新たに作られた制度です。IPRで主張できる新規性 (novelty)、進歩性 (obviousness)だけでなく、特許適格性(patent eligibility)や記述要件の不備、有効性の不備、不明確性(lack of compliance with written description, enablement or indefiniteness)をベースにした無効理由も主張できます。しかし、PGRが行える期間には限りがあり、後の訴訟における近反語(estoppel)の問題からあまり活用されていないのが現状です。

クレーム補正に関わる記載は優先権を主張した外国出願だった

PGRが開始(institution)されたあと、特許権者は不定の可能性が高いクレーム2と4の代替クレームを提案します。そして、補正申立の実務と手続きに関する審査会のパイロットプログラムに従って、提案した代替クレームに関する見解を審査会に要求しました。

特許権者が提案した代替クレームは、「不等トルクコイルばねは、最大フィードバックトルク値と最小フィードバックトルク値を発生させる」(“the unequal-torque coil spring generates a maximum feedback torque value and a minimum feedback torque value”)、「最大フィードバックトルク値と最小フィードバックトルク値の比は4:1である」(“a ratio of the maximum and the minimum feedback torque values is 4:1”)と記載することで、不定性の問題に対処していました。また、この補正のサポートとして、特許権者は優先権を主張した台湾の明細書における記載を提示。

審査会はクレーム補正のサポートはアメリカ出願に記載されていないといけない

しかし、審査会は、アメリカ出願に書かれていない台湾出願にのみ見られる開示によって提案されたクレームの記述要件は満たせないとして、出願人のクレーム補正の主張を認めませんでした。

さらに審査会は、特許権者は台湾出願にだけ開示されている内容はアメリカ出願で否認(disavowed)されていると判断しました。というのも、台湾出願には、「さらに、カーテンセット1の大きさに応じて最大力と最小トルク力の値が決定され、前記トルク力の間の比率を1に設定することができる」(“In addition, a maximum force and a minimum torque force values are determined according to the size of the curtain set 1, and a ratio between the above-described torque forces can be set to 1.”)という記載があるものの、アメリカの出願にはそのような記載が省略されていました。

このアメリカ出願における記載の省略は、意図的に行われていて、その内容をアメリカ出願において否認するものであり、台湾出願にだけ記載されている内容をサポートとしたクレーム補正は適切ではないという見解を示しました。

最終的に審査会は、1)適切なサポートを示すことができなかったため、特許権者は代替クレームが法定および規制要件を満たしているということを示すことが困難であり、2)申立人は記載要件の不備により代替クレームには特許性がないという合理的な可能性を示していると判断しました。

参考記事:“Patentee Cannot Cure Lack of Written Description by Reference To Matter Present Only Foreign Priority Application” by Louis L. Campbell, Michael R. Rueckheim, Eimeric Reig-Plessis, Vivek V. Krishnan, Sharon Lin and Robert Nai-Shu Kang. Winston & Strawn LLP

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