特許侵害訴訟の損害賠償の算出に関して、理由と証拠が明確でなかったため、複数の特許に均等に損害割合を配分した損害賠償専門家の証言を地裁が排除しました。特許の価値は平等ではありません。また、保有している特許が必ずしも使用されている特許ではないことを理解し、信頼できる既存の方法を用いて損害賠償の算出を行う必要があります。
特許の数で1件あたりの価値を示すのは乱暴すぎる
この特許侵害訴訟において、原告であるPersonalized Media Communications, LLC(以下「PMC」)が、Appleの損害賠償専門家の証言の排除を求め申し立てを行いました。Appleの損害賠償専門家は、PMCが特許1件につき100万ドルの一括払いを受ける権利があると推定しました。
問題になった技術はAppleのFairPlayで、DRM(Digital rights management)に関するものです。この技術に対してAppleは50のDRM特許を持っていて、PMCは3つの特許を権利行使していました。
そこでAppleの損害賠償専門家がAppleのFairPlayによる利益から損害賠償の算出を行う際、利益を53分割し、特許1件につき100万ドルの価値があると算出しました。53言う数字はAppleが持っているFairPlayに関する特許50件と権利行使された3件を足したものです。自社で持っている50件への賠償責任は無いので、権利行使された3件について1件につき100万ドルと算出しました。
しかし、これには問題があります。
まず、この計算が成立するには、各特許が実際にFairPlayに個別かつ非累積的な利益(separate and noncumulative benefits)をもたらしたことが前提になってきます。
また、AppleのDRM特許50件が、訴訟中の特許が発行された時点でFairPlay技術で実際に使用していたかどうかが問題になってきます。
特許を持っているからと言って特定の製品にその特許が使われているとは限らない
地裁は、Appleの損害賠償専門家の証言の信憑性を判断する上で、専門家がAppleの持っている50 件の特許のうち、侵害時に Apple が実施していたものがあるかどうかを確認していなかったこと、さらに、侵害時に 50 件の特許のいずれかが Apple によって実施されていたという証拠が、報告書に引用されていなかったことを受け、証言を却下。
当たり前の話ですが、自社で特許を所有しているからと言って、その特許が特定の製品で実施されているとは限りません。その事実を確認するには、綿密な調査や分析を行う必要があり、そのような作業を行わないで、特定の特許が実施されていると仮定することはできません。
そのため、Appleが持っているFairPlayに関する特許50件と権利行使された3件を足した53という数字から、損害賠償の算出を行うのは正しくないと地裁は判断しました。
特許の価値は平等ではなく、個別に価値を査定する必要がある
さらに、地裁は、Appleの持っている50 件の特許をAppleがすべて訴訟の対象になっている技術に対して実施しているとしても、それらの特許がすべて同じ価値を持っていると仮定することはできないと説明しました。
特許の価値は、信頼できる既知の方法を用いて、個別に査定する必要があります。
例えば、専門家は、訴訟中の特許が Apple の他の DRM 特許と同じ価値を持つと、証拠による裏付けを用いて結論づけることができます。しかし、Appleの損害賠償専門家は、証拠も提示せず、分析も行わずに、関連する特許はすべて等価値であると仮定しました。この仮定には、何の裏付けがなかったので、地裁ではこのAppleの損害賠償専門家の証言は認められませんでした。
参考文献:”District Court Excludes Damage Expert for Allocating Damages Equally Among Multiple Patents” by Stanley M. Gibson. Jeffer Mangels Butler & Mitchell LLP