親の特許が取り消された後も継続特許は有効か?これは権利行使をするときに誰でも考えることかもしれません。特に、無効化された親特許のクレーム文言と継続特許のクレーム文言がほぼ同じ場合は、継続特許の有効性に大きな懸念が生じます。今回は、パテントファミリーの1つが無効になったにも関わらずファミリーの他の特許を権利行使した場合、どうなったかを実際の訴訟ケースを交えて紹介します。
ケース:Stragent, LLC v. BMW of N. Am.
継続出願戦略で生まれるパテントファミリー
パテントファミリー(Patent familiy)とは、同一の開示に基づく複数の継続/分割出願 (continuation/divisional applications)から形成されるもので、特に重要な技術に関わるものだと複雑で多くのパテントファミリーが存在します。
一般的に、継続特許(continuation patents)は、親出願で書かれたクレームに近い表現のクレームセットを提示します。アメリカでよく知られている出願戦略1つに、継続出願を審査中にして、クレームセットを反復的に競合他社のデザインに適合させることです。しかし、PTABが親特許のクレームを取り消した場合、そのような戦略で生み出された継続特許にはどのような影響があるのでしょうか?
PTABで無効になったクレームと同等のクレームは無効?
少なくともPTABの観点からは、PTABよって取消されたクレームから差異がないクレームは禁反言(estopped)となります。つまり、37 C.F.R. 42.73(d)(3)(i)に従って、USPTOは、PTABによって取り消された請求項と特許的に区別されない請求項を発行すべきではありません。
しかし、PTABの最終的な書面(final written decision)による決定の前に発行された継続特許は、発行が禁止されているわけではありません。連邦巡回控訴裁判所を含む裁判所は、このようなクレームは付随的禁反言(collateral estoppel)によって禁止されると判断していますが、特許的に明確(patentable distinctness)であるかどうかの問題は、いくつかの訴訟で争われています。
親特許がPTABで無効になったことにより、その権利行使をしていた訴訟は取り下げに
デラウェア州裁判所では、Stragent, LLC v. BMW of N. Am.において、この問題が審議されました。このデラウェア州で係争中の事件は、当事者間で行われている3件目の訴訟です。
この事件は、AUTOSTAR通信規格に関連する特許を中心に展開しています。両訴訟の原告は同じファミリーの特許を主張していますが、先の訴訟では、被告がPTABで最初の特許群を無効にすることに成功しました。この結果、原告は特許権を放棄し、テキサス州東部地区(EDTX)における訴訟を却下(dismiss with prejudice)していました。
次に継続特許による侵害訴訟が始まる
EDTXでの訴訟が係属中に、現在デラウェア州で問題となっている4件の特許が認められました。その後、原告は被告に対し、デラウェア州で侵害訴訟を提起します。
被告は、デラウェア州での訴訟において、棄却の申し立て(motion to dismiss)を行い、その中で、クレームプリクルージョン(claim preclusion)が原告の訴訟を禁止すると主張しました。
しかし、デラウェア州の裁判所は、本件は同一の訴因に関与していないと判断し、被告の主張を認めず、訴訟は継続。同裁判所は、一般的なルールとして、それぞれの特許が独自の訴訟原因を生じさせることを繰り返し述べました。しかし、特許的に他のファミリー特許と差別化できていない特許では別々の訴訟を起こすことができないので、今回の裁判では、今回問題になっている継続出願とPTABで無効になった特許の範囲が実質的に同じであるかどうかが問題になりました。
継続特許と親特許は「同じ」ものなのか?
二重特許回避のためのterminal disclaimerがあった事実
被告は、USPTOの禁反言ルール(USPTO estoppel rule)と特許性のある独自性(patentable distinctness)に関する審査上の履歴を利用して、クレームが特許的に特徴の無い(親出願と継続出願は同じもの)ものであることを強調しようとしました。例えば、被告は、二重特許の拒絶(double patenting rejection。特許的に特徴が無いクレームの認定)を克服するためにPTABに提出したterminal disclaimerに注目し、継続特許クレームが現在取り消されている親特許から特許的に差がないことを示す「強い手掛かり」であると主張しました。さらに、被告は、継続特許には、同じコア要素が記載されていることも示しました。
時間軸がズレていたらそもそも継続出願は特許になっていなかった?
さらに、被告は、USPTOにおいて、37 C.F.R. § 42.73(d)(3)(i)に基づき、親クレームの取消/放棄後に継続クレームが係属していれば、除外されていたと主張しました。しかし、裁判所は、この規則はUSPTO以外では適用されず、特許権者に不利な決定の後に内で「維持」されるものにのみ適用されると指摘しました。
棄却申し立ての段階では明確な判断はできない
これらの主張を考慮した結果、裁判所は、棄却申し立ての段階では、デラウェア州で主張されている継続特許に含まれる追加の制限が、これらのクレームを特許的にPTABで無効とされた親特許を区別するものであるかどうかを評価する立場にないと判断しました。
棄却申し立ては、特許訴訟のかなり早い段階で行われる場合があります。今回はDiscoveryやクレーム解釈が行われるステージに入る前だったので、法律の観点と限られた証拠だけで特許のクレーム範囲を判断することはできないということになりました。
Terminal disclaimerがあった事実は特許権者にかなり不利?
このケースでは、原告は却下の申し立てを回避できたとは言え、USPTOがクレームが実際に特許的に区別できないと判断し、特許権者がその判断に同意してterminal disclaimerを提出したことは、裁判が進んでも、最終的に克服するのが非常に難しい事実であると思われます。
特許所有者は、この脅威を念頭に置き、それに応じてポートフォリオを構築することが重要です。例えば、請求項数の多い出願を行うことで、(おそらく)制限要件(restriction requirement)により、いくつかの請求項セットを分割出願することができます。USPTOが制限要件(restriction requirement)を出すということは、複数の発明が混在しているということになるので、分割されたそれぞれの出願は、それぞれ「特徴のあるもの」として認識されるという事実を作ることができます。
参考文献:”Patent Family Viability After a PTAB Loss?” by Scott A. McKeown. Ropes & Gray LLP