特許翻訳を仕事にしている場合、明細書の翻訳だけしかやっていない翻訳家が多いとおもいますが、AIや自動翻訳の登場で競争が厳しくなっていると聞いています。とは言うものの、法律という少し広い分野で見てみると、まだまた人による翻訳業務を必要としている場面はたくさんあります。今回は法律事務所が翻訳を必要とする場面を紹介し、特許翻訳者が活躍できそうなサービスをまとめてみました。
アメリカの法律事務所では、訴訟の準備書面や証拠開示書類、裁判所への提出書類など、文書によるコミュニケーションがメインの業務であるところもたくさんあります。しかし、クライアントや相手方が日本語などの英語以外の言語を話す場合、コミュニケーションであったり、裁判所に提出する書類などを管理することが難しくなります。そのため、アメリカの法律事務所では様々な場面において、法務翻訳サービスを活用することがあります。
法律文書翻訳とは?
法律文書の翻訳とは、法律文書をある言語から別の言語に変更し、元の意味を維持したまま、法的な場で使用できるように準備するプロセスです。このプロセスには、自国の法律とその仕事の法的意味を理解する専門翻訳者が必要な場合が多くあります。
法律文書の翻訳サービスには、さまざまな種類があります。これらのサービスには、法律文書翻訳(legal document translation)、認定法律翻訳(certified legal translation)、法律通訳(legal interpretation)、オンサイトスタッフ派遣(on-site staffing)、eディスカバリーサポート(e-discovery support)、文書作成(document production)、トランスクリプション(transcription)、法律ローカライゼーション(legal localization)が含まれます。
これらのサービスとその使用例について、もう少し詳しく見ていきましょう。
外国語による電子証拠開示(E-discovery)サービス
電子証拠開示(通称:eディスカバリー)とは、訴訟や調査において証拠となる情報、または証拠となる可能性のある情報を確認するプロセスのことです。このようなディスカバリー関連の仕事は法律事務所の活動には欠かせないものです。どのような業務分野であっても、レビューする文書の大半はデジタル文書であるのが普通です。証拠開示のプロセスでは、コンピュータで作成された不動産文書から電子メールまで、あらゆる種類の電子記録を入手し、作成できる能力が必要です。
また、これらの文書をあらゆる言語でレビューし、処理できる必要があります。たとえ英語を話すクライアントだけを相手にしていても、クライアントが他の言語の人々とコミュニケーションをとることもあるでしょう。手元にある証拠を理解するためには、経験豊富な法務翻訳会社や翻訳者を利用して、多言語のeディスカバリーコンテンツを翻訳する必要があります。
文書作成(document production)
国際的な紛争を担当し、担当地域が英語圏でない場合、翻訳のニーズが出てきます。具体的には、裁判所に現地語で書類を提出する必要がある場合、正確な翻訳を提出する必要があります。また、相手方が提出した書類を英語に翻訳しなければならない場合もあります。
米国では、連邦民事訴訟規則34(a)に従って、要求された文書は使用可能な形式で提供されなければなりません。しかし、この規則は、ある話し言葉または書き言葉から別の話し言葉への翻訳には特に適用されません。つまり、eディスカバリーの際などに、訴訟相手が英語以外の言語の文章を提出してもよいようになっています。
そのため、他の言語で書かれた文書を受け取った場合、それを翻訳するのは受け取った側になります。翻訳の結果は内部で使用するため、翻訳費用を削減する方向に行きがちですが、出来上がった翻訳によるコミュニケーションで生じる結果を予測し、適切な翻訳者を選ぶ必要があります。当然、裁判の結果が翻訳の品質に左右される場合もあるので、訴訟の内容や状況を総合的に考慮して、適切な翻訳者を選ぶ必要があります。
法律通訳サービス(legal interpretation)
弁護士は、しばしば他言語を話す証人の尋問や宣誓証言を行う必要があります。訴訟に関連するコミュニケーションや文書は、それがどの言語で伝達されるかにかかわらず、正確である必要があります。通訳者は、話し手の言葉を翻訳するだけでなく、声のトーン、非言語的表現、意味のニュアンスも伝えなければなりません。
法廷であろうとなかろうと、証言にはかなりの精度が要求されます。そのため、通訳者は法廷での高度な言語を証人の母国語に翻訳する能力が必要です。そのためには、法律英語だけでなく、翻訳された言語にも精通している必要があります。
リーガルローカライゼーションサービス
異なる文化を持つ顧客にサービスを提供することは、豊かでやりがいのあるキャリアとなります。しかし、クライアントが異なる国にいる場合は特に、クライアント全体とコミュニケーションをとることは困難です。
ローカリゼーションは、翻訳よりもさらに深く、原文の文化的なニュアンスや雰囲気、正確な意味を維持したまま、多言語のクライアントとのコミュニケーションや宣誓証言を行うことを可能にします。
また、リーガルサービスのマーケティングや他言語での研究発表の際にも、誤解によって顧客基盤や評判が損なわれる可能性があるため、法務ローカライゼーションを重要視する事務所も多いです。一般に公開する資料が、他の地域の潜在的な顧客や同僚にとって、アクセスしにくい、または異質なものに見えては困るからですね。
コンテンツをローカライズすれば、より親近感を持ってそのコンテンツを見てもらえる可能性が高まります。そのため、アメリカの法律事務所には、新しいマーケットでの信頼獲得を得るために積極的に事務所のコンテンツを現地向けにローカライゼーションしているところも多いです。
認証翻訳サービス(Certified Translation Services)
法廷に提出する認証文書がある場合、その正確さには一切の妥協が許されません。米国では、法制度上、翻訳サービスを認証するための特別なプロセスがないため、弁護士が経験豊富な翻訳チームを探すことになります。
認証文書が含まれる場合は、このチームは複数人で構成される必要があります。認証翻訳は、翻訳された文書と原文とを並べて何度も確認する多面的なプロセスです。そのためには、複数の分野のプロフェッショナルが協力し合う必要があります。
なので、認証翻訳サービスを行うには翻訳だけでなく、翻訳物の品質評価を行う人も必要になってきますが、もともと正確性が問われている特許翻訳業務などをやっているようであれば、認証翻訳サービスとも相性はいいと思います。
法律文書翻訳はビジネスチャンス?
法律の世界では、言葉がすべてです。たった一つの言葉のニュアンスに、裁判の全容がかかっていることもあります。この重要性は、翻訳や通訳が関わる場合、より一層高まります。
しかし、それは特許翻訳でも同じようなことが求められているので、法律の分野、特に特許などの知財系の訴訟や紛争に関わる翻訳業務というのは、特許翻訳家との相性はいいと思います。
参考記事:Translation Services for Legal Documents – When Do Firms Need Them?