Chemours Company FC, LLC v. Daikin Industries, Ltd.において、CAFCパネルは、PTAB(以下「審査会」)による自明性の判断を覆し、審査会は、先行技術文献の「進歩的概念」(inventive concept)が発明に関わるような変更を避けること(taught away)を示唆しているにもかかわらず、先行技術文献を変更する動機を不適切に発見したと判断しました。
判例:Chemours Company FC, LLC v. Daikin Industries, Ltd.,
このケースで問題となった特許は、通信ケーブルに高品質なコーティングを施しつつ、高速で押出成形が可能な独自の特性を持つポリマーに関するものでした。 特に、特許請求の範囲には「約30±3g/10分の高メルトフローレート」と記載されており、これによりポリマーを高速でコーティングすることができると特許は開示していました。
PTABの審査会の判断
この特許に対して、PTAB審査会は関連する先行技術文献に注目し、30±3g/10分という特定のメルトフローレートを除く、請求項に記載されたポリマーの各要素を教えている1つの先行技術文献に対して自明であると判断しました。
この先行技術文献の「発明の概念」は、より高いコート速度を達成するためにメルトフローレートに着目するのではなく、ポリマーの「狭い分子量分布」を維持することに着目しているものでした。メルトフローレートに関して、先行技術文献は、そのポリマーが「15g/10分以上」のメルトフローレートを持つ可能性があることだけが明細書に開示されていて、24g/10分のメルトフローレートを持つ例を含んでいました。
しかし、特許請求の範囲である「約30±3g/10分の高メルトフローレート」という記載は先行技術文献にはなく、先行技術の例のメルトフローレートを請求項の範囲内にするには、ポリマーの分子量分布を広げる必要があり、これが狭い分布という先行技術の発明概念に反することを審査会は認めていました。
しかし、それにもかかわらず、審査会は、記録された他の証拠が、より高いコーティング速度を達成する手段としてメルトフローレートを増加させることを教えていると判断したため、メルトフローレートを増加させるように先行技術の文献を修正することは自明であっただろうと結論づけました。
審査会は、引用された先行技術の「分子量分布を狭める」という教示は、当業者がメルトフローレートの増加など、速度を向上させるための他の既知の技術を検討することを妨げなかっただろうと判断しました。
連邦巡回控訴裁判所の判決
CAFCは、自明性の問題についてPTABの判決を2-1で覆しました。
審査会の自明性の判断は、基礎となる事実認定に基づく法律問題であり、実質的な証拠があるかどうかが審査されます。このような基本的な事実の問題には、先行技術が何を教えているか、当業者であれば参考文献を組み合わせる動機になったかどうか、参考文献がクレームされた発明から遠ざかること(teaching away)を教えているかどうかなどが含まれます。
CAFCは、先行技術文献が「分子量分布の拡大を回避することを教えている」とし、具体的には、メルトフローレートを増加させるために使用される処理技術の多くの例が、分子量分布を拡大させるリスクがあることを理由に、分子量分布を拡大させるメルトフローレートを増加させる行為を回避することを教えていると判断しました。
CAFCは、審査会は技術背景を知るために他の先行技術に依存することができるが、引用された先行技術文献は審査会の拒絶理由の唯一の文献であり、動機付けを裏付けるために審査会が依存した他の教えは、引用された先行技術文献が解決しようとした特定の問題に関係していない文献からのものであったと指摘しました。
CAFCは、先行技術のポリマーのメルトフローレートを請求項の範囲まで増加させるための既知の方法は、分子量分布を広げることで先行技術の「発明の概念」を変更することを必然的に必要とするにもかかわらず、なぜ当業者が動機付けられ、合理的に期待されるのかについて、実質的な証拠に基づいて十分な説明を行うことができなかったと結論付けました。
教訓
審査官からの拒絶に直面した場合、依拠した先行技術が、当業者を請求項の発明とは異なる方向に導いたであろうこと、または、当業者が請求項の発明に至る道筋で成功することを合理的に期待しなかったであろうことを示すようにすることがポイントです。
しかし、Teaching awayを示すことはハードルが高い可能性もあるので、実務的には反論する際、文献が単なる代替品の開示や、いくつかの教えが多少劣っているという記述である場合はTeaching awayを示すことが難しいので注意が必要です。
Teaching awayが適切な業況は、参考文献の開示から流れてくる開発が、合理的には、出願人の発明の目的をもたらす可能性が低いことを示唆する場合です。特定の組み合わせが好ましい実施形態ではないという記述は、その組み合わせを明らかに阻止するものでない限り、Teaching awayとはなりません。
しかし、今回のChemoursの判決は、一次文献が単に代替案や「好ましい」解決策を提示しているだけでなく、修正として提案された解決策そのものを明示的に戒めている場合には、一次文献を修正または組み合わせる動機の主張を攻撃するために、特許権者にとって「Teaching away」が有効な論拠となり得ることを強調しています。
参考文献:Teaching Away May Preclude Motivation to Modify a Reference