和解には注意?同じ特許でも立場が異なるとCAFCへの上訴ができなくなるかも

同じQualcommの特許に関して別々にIPRをおこなっていたAppleとIntelのCAFCに対する上訴手続きが全く異なる結果になってしまいました。訴訟になっていたものの、すでにライセンス契約に至っていたAppleに対してはCAFCへの上訴を認めず、訴訟の当事者ではなかったIntelには上訴を認めるという結果に至りました。今回は判断の違いに着目して立件資格(Standing)について考察します。

Appleのライセンス契約が足かせに?

連邦巡回控訴裁(CAFC)は、IPR裁定における最終書面決定に対するAppleの控訴を立件不能(lack of standing)として却下しました。

Apple Inc. v. Qualcomm Inc., No. 2020-1642 (Fed. Cir. Apr 7, 2021) 

AppleはPTABにおける争いの後で控訴前というタイミングえ、Qualcommと問題となった特許に関わる全ての訴訟において和解に達していました。この和解で、関連特許に関して6年間のライセンス契約を締結。しかし、Appleは、このライセンス契約後も、PTABにおけるIPRをCAFCに上訴し続けました。

CAFCは、行政機関への手続きに関する立件資格(Standing)と連邦裁判所への上訴に関する立件資格を説明し、第3条の要件(Article III standing)から行政機関の最終処分から連邦裁判所へ の控訴には、控訴人が事実上の損害(injury in fact)を示すことが要求されるとしました。

そのような理解の上で、CAFCは、すでにライセンス契約に至っているAppleが事実上の損害を被ったという証拠を十分に提出していないと判断。特に、IPRの結果がライセンスに基づくAppleの支払い義務に影響を与えること、Qualcommがライセンス満了後に特許侵害でAppleを訴えるかどうかを判断することは、あまりにも憶測に過ぎるとに着目。ライセンス期間が特許満了よりも短いライセンスでしたが、Appleがライセンス満了後に当該特許に基づく訴訟を引き起こす可能性のある活動を行う可能性が高いことを示せなかったことを指摘して、Appleの立件資格(Standing)がないと判断。そのため、CAFCはIPR裁定における最終書面決定に対するAppleの控訴を立件不能(lack of standing)として却下しました。

訴訟の可能性が大いにあるIntel

続いて、Intelの話。

関連したIPRの上訴に対して、CAFCはIntelに立件資格(Standing)を認め、Appleのときとは真逆の判決を下しました。

判例:Intel Corp. v. Qualcomm Inc., No. 2020-1664 (Fed. Cir. Dec. 28, 2021).

詳しく背景を見てみましょう。

まずは今回のIPRに関わる特許を使って、QualcommはAppleを訴えていて、問題となった特許の1つをインテル製品に対応させました。しかし、Intelはこの訴訟の当事者ではありませんでした。その後、Apple社とIntel社は別々にクアルコム特許のIPRを申請。AppleのIPRに関しては、すでに解説したとおりですが、IntelのIPRにおいも、PTABはいくつかのクレームの特許性を支持し、IntelはCAFCに控訴します。Qualcommは、Appleのときと同様に、控訴の立件不能(lack of standing)を理由に控訴の棄却を求めます。

控訴で、CAFCは、Intelに、立件資格(Standing)を認めます。

裁判所は、Appleのときと同じように、第3条の権利要件である「事実上の損害」に着目し、IPR申立人が一般的にこの要件を満たすのは、「侵害訴訟を引き起こす可能性のある活動を行った、行っている、または行う可能性が高い」場合であると述べました。

しかし、事実へ適用した場合のIntelの状況がAppleとは異なりました。すでに説明したようにQualcommがIntelを提訴したことはありませんが、QualcommとAppleの過去の訴訟において、Intelの行為が侵害訴訟を引き起こす可能性があることがすでに示されていました。Intelは、事実上の損害を示すために「侵害の具体的な脅威に直面する必要はない」と述べています。IntelはAppleとQualcommの和解の当事者ではなく、不訴追条項(covenant not to sue)も提示されていませんでした。このような状況を考慮すると、Intelは関連製品の販売を継続していたため、Intelの訴訟リスクは「単なる推測や仮説」を超えるものであったと、CAFCは判断。これにより、「事実上の損害」を証明するのに十分であったと判断されたIntelは、連邦裁判所における立件資格(Standing)を認められ、CAFCはIPR裁定における最終書面決定に対するIntelの控訴を受け入れるという判断をしました。

参考文献:No Standing on Appeal from PTAB Where Appellant Cannot Prove Injury in FactThe Federal Circuit Finds IPR Petitioner Has Standing

ニュースレター、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

money
訴訟
野口 剛史

ケーススタディ:マルチカメラ装置の特許価値評価(損害賠償)事例

2022年度から2021年11月末まで(2021年10月1日から2021年11月30日まで)の付与後願書(post-grant petitions)の institution率は66%(Institution許可138件、却下71件)であり、前年度の59%から大きく低下しています。特許庁によると、申立ごとではなく特許異議申立ごとで見ると、これまでの2022年度の institution率は69%(Institution許可135件、却下60件)でした。直近8月の申立単位でのは institution率は80%(Institution許可70件、却下17件)。

Read More »
訴訟
野口 剛史

Mayo判決後、診断方法特許の権利行使は困難を極める

最高裁で診断方法特許の特許性に言及したMayo v. Prometheus判決以降、アメリカにおける診断方法特許の権利行使は困難を極めています。 Athena Diagnostics, Inc. v. Mayo Collaborative Servs., LLCにおいて、CAFCは地裁の判決を是正し、権利行使されたクレームは不適格で無効としました。

Read More »
ビジネスアイデア
野口 剛史

コロナ禍で学生・新米がコネを作る方法

コロナで就職活動も大きく変わりました。会社や事務所で行われていた説明会はなくなり、同業者の勉強会やイベントもオンラインにシフトしました。オンライン化することで便利になった面もありますが、知財業界に知り合いがいない学生や知財に入ってきた新米が「新しいコネ」を作るには非常に難しい環境になっています。そこで、どうやってコロナ禍で学生・新米がコネを作るべきかを考えてみました。

Read More »