医療機器としてのソフトウェアの特許適格性に関する問題

テクノロジーはヘルスケアのあり方を変え続けていますが、それが顕著になっている分野の一つが、ヘルスケアアプリケーションを目的としたソフトウェアの普及です。これには、医療機器に不可欠なソフトウェア、医療機器の製造やメンテナンスに使用されるソフトウェア、あるいは医療機器そのものであるソフトウェア(Software as a Medical Device:SaMD)などが含まれることがあります。非常に大きな成長を遂げている分野ですが、SaMDの特許適格性(patent eligibility)には、まだ注意しなければいけない大きな問題があります。

SaMDの特徴は、実際の医療機器ハードウェアを必要とせず、独立した医療機能を実行するソフトウェアとしてのユニークな役割にあります。そのため、SaMDの発明は、しばしば米国特許庁によって「抽象的なアイデア」(abstract idea)とみなされ、特許適格性の問題に直面することになります。

SaMDとAliceテスト

米国特許法では、特許適格性は35 U.S.C. § 101によって規定されており、特許性の対象となる発明や発見の種類を「新規かつ有用なプロセス、機械、製造、または物質組成、またはそれらの新規かつ有用な改良」として定義しています。この適格要件は、2014年に米国最高裁がAlice Corp. v. CLS Bank Internationalで示したテストに基づいて解釈されます。

Aliceテストでは、まず、クレームが抽象的なアイデアに向けられているかどうかが問われます。これはソフトウェアアルゴリズムの場合に多く、特許適格性に対する3つの長年の除外事項である抽象的アイデア、自然法則、自然現象を「著しく上回る」追加的要素をクレームが記載しているかどうかが問われることが多いです。このテストに合格した場合、そのクレームは特許として認められます。

SaMDの場合、イノベーションは医療機器としての独立した機能にあり、医療機器のハードウェアや物理的な装置から切り離されています。例えば、患者の入力データに基づいて患者の治療計画を立案するソフトウェアや、医療診断のための画像処理ソフトウェアなどがSaMDの発明になります。

このように、これらの発明の最大のハードルは、ソフトウェアアルゴリズムを記載したクレームが抽象的なアイデアを包含しているとみなされることが多いことです。しかし、このハードルを解決する可能性があるのは、Aliceテストの下で、何が抽象的アイデアを「著しく超える」(significantly more)ものになり得るかを判断することにあります。具体的には、あるクレームが抽象的なアイデアを対象としていたとしても、そのクレームが発明的概念を含んでいる場合、つまり、そのクレームが「よく理解された、日常的な、従来の活動」以上のものに基づいている場合は、特許適格となり得ます。この「「著しく超える」(significantly more)という特徴を達成する一つの方法は、その発明が現在の最先端技術に対する改良に向いていることを証明することです。

SaMDが満たすべき条件とは?

では、SaMDが特許の観点から著しく超える」(significantly more)には、何が必要なのでしょうか。裁判所は、コンピュータの機能の改良を含むクレームは、抽象的なアイデアよりも有意に優れていると判断しています。また、他の技術や技術分野を改善するクレームも、著しく超える」(significantly more)であると判断されやすい傾向にあります。

SaMDに最も関連することですが、裁判所は、単にソフトウェアの使用を特定の技術環境に関連付ける以上の意味のある限定が、クレームを抽象的なアイデアよりも有意に高めるとも判断しています。ある例では、クレームは、免疫の最適化のためのデータの収集と比較(SaMDと同様)に向けられていましたが、比較に基づいて実際に患者に免疫を付与するという追加のステップは、比較の具体的な適用と実用的な使用でした。このように、免疫の実行という実際のステップを記載することで、データ解析を免疫に結びつけることは、クレームに利益をもたらすものであったのです。

明細書で注目すべき点

特許権者は、これらの例やその他の例を考慮することで、特許や特許請求の範囲の作成を効率化し、SaMDの特許適格性の妨げとなりがちなハードルを様々な方法で克服することができます。

まず、特許権者は、技術的な改善や解決策を提供する発明の具体的な特徴を記載することに重点を置くことができます。例えば、測定装置からのデータをより正確にする診断機能を記載することが有効な場合があります。また、特定のソフトウェアの実装が、診断又は治療方法をより速く又はより効率的にする場合、その特定のソフトウェアがどのようにコンピュータを速く又はより効率的にするのかを説明する明細書のサポートとともに、クレームに記載すべきであす。

次に、数学的概念、精神的思考、その他の除外領域を読み取る用語への過度の依存を避けることが有益となる場合があります。

これらの点を考慮した明細書を作ることによって、特許出願人は、SaMDに関連する特許審査を有利に持っていくことができ、権利化できる可能性が大いに高まる可能性があります。

参考記事:How to Pass the Patent Eligibility Test for Software as a Medical Device

ニュースレター、公式Lineアカウント、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

公式Lineアカウントでも知財の情報配信を行っています。

Open Legal Community(OLC)公式アカウントはこちらから

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

訴訟
野口 剛史

リモート社員の所在地が特許の裁判地の決定する要素に

米国連邦巡回控訴裁は、連邦地裁に対し、不適切な裁判地(Venue)に基づく訴訟の却下または移送を指示するよう求めたマンダム令状(writ of mandamus)を求める請願を却下しました。その際、連邦巡回控訴裁は、連邦地区内に居住するリモート従業員を挙げ、裁判地法の規定を満たしているとしました。

Read More »