職務規約において発明や特許の譲渡が明記されている場合もありますが、その規約の文言だけで発明の権利が自動的に会社に譲渡されるということにはならない可能性があります。今回のように、文言が譲渡する意思を示すものとして解釈されたり、また、実務では別途譲渡書に署名してもらうという手続きをとっていると、職務規約だけに依存した発明の譲渡の主張が難しくなります。
判例:Omni MedSci, Inc., v. Apple Inc., Nos.2020-1715, -1716 (Fed. Cir. Aug. 2, 2021)
大学職員であったときの特許はどこに帰属するのか?
イスラム博士はミシガン大学の職員であったときに、いくつかの特許を取得しましたが、特許権はOmni社に譲渡していました。
その後、Omni社は譲渡された特許を使いAppleを侵害で提訴。しかし、AppleはOmni社には特許侵害訴訟を起こす権利(Standing)がないという主張をし、訴訟の棄却を申し立てます。
アップルは、イスラム博士はミシガン大学の職員であったときに取得した特許は、大学に帰属するものであり、イスラム博士が特許権をOmni社に譲渡したのは適切でないと指摘。その理由として、大学の職員が取得し、大学の資金によって支援された特許は、大学の所有物であるとする大学の内規(bylaws)に従って、主張された特許は大学が所有していると主張しました。
大学の内規は発明の権利の自動譲渡ではない
連邦地裁は、大学の内規はせいぜい将来の発明に関する譲渡の意思(a statement of future intention to assign)を表明するに留まるものであり、現在における自動的な所有権の譲渡(a present automatic assignment of title)を強制するものではないと判断し、Appleの申し立てを却下。
控訴審では、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)も地裁に同意。CAFCは、(1)将来の譲渡の可能性を約束する「shall be the property」という表現の使用、(2)確認の文言は含まれておらず、むしろ現在の譲渡を示す明確で曖昧でない文言を含む別のフォームの締結を大学が要求していることなど、内規の文言や実務的な面からも見て、内規の文言だけで、現在における自動的な所有権の譲渡を実現していないことを示していると判断しました。
参考文献:“Shall Be” Language May Not Effectuate a Present Automatic Assignment of Rights