芸術家の故アンディ・ウォーホル氏の財団と写真家のリン・ゴールドスミス氏との間で争われていた著作権侵害訴訟ですが、今回、transformativeな作品と著作権のあり方について、最高裁が審理することになりました。
最高裁は、故アンディ・ウォーホル氏がプリンスの写真を版画した事件を審理し、著作権侵害と transformative useに関する紛争を裁判所がどのように解決するかについて判断します。
地裁と高裁の判決が異なる事態に
ウォーホルの版画アートの復刻は、2016年のプリンスの死後、一連の訴訟問題をひきおこしました。
連邦地裁はウォーホルのアートはフェアユースであると判断しましたが、控訴裁はフェアユースのケースで裁判所が作品の意味を判断しようとすることは「禁じ手」であるとし、地裁の判決を覆しました。
この訴訟は、ウォーホルが『ヴァニティ・フェア』誌から依頼を受け、80年代半ばまでにその知名度が爆発的に上昇した象徴的なミュージシャン、プリンスをモチーフにした画像を制作した1984年のアートに関するものです。しかし、ウォーホルのプリンスのアートワークは、その3年前に撮影されたゴールドスミスの写真をトリミングしたもので、ゴールドスミスが著作権を有していました。
左がゴールドスミスの写真、右がウォーホルが作った版画の1つです。版画(手書きのスケッチも合わせて)は全部で16枚あるようです。
ウォーホル財団によると、1987年に亡くなったウォーホルは、「社会が有名人に出会い、消費する方法についてコメントする」ことを求めていました。しかし、ゴールドスタインによると、この写真は1回だけ参考資料として使われることになっており、その1984年の号以外には使用できないことになっていました。
プリンスの2016年の死後、『ヴァニティ・フェア』はトリビュート号で、1枚の画像からプリンスのプリントシリーズに拡大したウォーホルの作品を掲載した。ゴールドスタインはウォーホルの画像を見て、自分の作品と同じであることに驚きました。
「私は自分のデジタル・アーカイブを見て、これこそ目だと思いました」と、ゴールドスタイン弁護士は最高裁に提出した準備書面の中で述べています。「顔の輪郭だけでなく、顔、髪、顔立ち、首の位置も。写真なんです」と。
ゴールドスタインの発見は、すぐに訴訟の脅威、実際の訴訟、そして反訴へとつながっていきました。その中で、著作権侵害、作品の改変(transformation of artwork)、フェアユースなどが争点になりました。ゴールドスタインは、最高裁に提出した弁護団の準備書面において、連邦地裁の判決は、「公正使用」の抗弁に基づいて、ウォーホルの作品が元の写真の雰囲気と意味を変えたと認め、アンディ・ウォーホル財団に有利な判決を下した、と述べています。
第2巡回区控訴裁判所は、裁判所は 「問題となっている作品の背後にある意図や意味を確認しようとすることは禁じられている」とし、この判決を覆しました。その代わりに、裁判所は、二次的著作物がその原作を「根本的に異なる新しい」方法で使用しているかどうか、つまり「最低限、原作に他の芸術家のスタイルを押し付ける以上の何かで構成されていなければならない」と書いています。
つまり、芸術作品が原作とは異なる意味やメッセージを伝える場合に変容的(transformative)とみなされるのか、それとも裁判所が被告作品の意味を考慮することを禁じられるのかを判断することが、最高裁の課題となっています。
ウォーホル財団の弁護士は、第2地区の判決はフェアユースの防御を「空洞化」させたと主張し、この意見が既存の作品の芸術的変換に冷や水を浴びせることになると論じています。「第2巡回控訴裁の判決が商業的複製に限定されたものであったとしても、それがそうであると考える理由はないが、作品を複製する能力はアーティスト、ギャラリー、美術館にとって極めて重要である」と、同財団の弁護士は書いています。
まとめ
今回は写真をベースにした版画が十分異なるもの(改変された作品(transformative work)であり、そのため写真の使用はフェアーユース(公正使用、Fair use)の範囲内のため、著作権侵害にはならないのか、それとも、版画はあくまでも二次的著作物 (derivative work)であるため、ベースになっている作品の著作権者から適切なライセンスを得ないと作成できないものなのか、が争われています。
特に、現代アートでは、他の作品を意図的に利用して、自分の芸術的な表現を行うこともあるので、今年の秋の最高裁における審議には目が離せません。
参考記事:Supreme Court to hear copyright case on Warhol prints, Prince photo