知財権利行使における 模倣品・侵害品による損害の特定と定量化

模倣品、海賊版、その他の形態の知的財産権侵害による市場シェアと利益の損失を阻止するためには効果的な知的財産権(IP)の行使プログラムの設計、実施、最適化が必要です。その上で、市場シェアを保護するための知的財産権の重要性を強調することは大切で、特に模倣品・侵害品による損害の特定と定量化は大切なプロセスの1つです。

今回は、現在被っている損害(金銭的、その他)を定量化し、知的財産権強化プログラムを測定するためのベースラインを確立することに焦点を当てます。損害を定量化することで、プログラムのおおよその投資収益率 (ROI) を計算することも可能になります。ROIはプログラムの設計だけでなく、ここでは触れませんが、実施(ステップ4)および最適化(ステップ5)の段階でも重要な要素になります。

理想的な知的財産権(IP)の行使プログラム

始める前に、このシリーズ全体を簡単に要約し、IP強化プログラムの開発と実施に関するステップバイステップのガイダンスを提供します。

  • ステップ1:模倣品や侵害による損失の特定と定量化
  • ステップ2: ノックオフや侵害に対抗するための知的財産資産の増強
  • ステップ3: ノックオフや侵害を阻止し、市場シェアを拡大するためのIPエンフォースメントプログラムの設計
  • ステップ4: 知的財産エンフォースメントプログラムの実施
  • ステップ5: メトリクスを用いた侵害防止プログラムの最適化
  • ステップ6: 積極的な知的財産戦略による将来の市場シェアの拡大

今回はこの6ステップの内のステップ1に注目します。

模倣品による損害の特定と定量化

効果的な知的財産権行使プログラムを設計するためには、目的を念頭に置いて開始することが重要です。この目的は、模倣品や侵害によって生じる損失を分析し、可能であればドルで定量化することから始める必要があります。

例えば、横流し販売のような一部の損失については、計算は簡単です:

  • 横流し販売の総量は、逸失利益に等しい。
  • 知的財産所有者の逸失利益は、逸失利益合計に利益率を掛けたもの
  • 侵害者の不正収益は、横流し販売の総量に等しく、
  • 侵害者の不正利得は、横流し販売の総収入に侵害者の利益率を掛けたものに等しい。


侵害者は研究開発費などの負担がないため、製品メーカーよりも利益率が高くなる傾向があります。このため、多くの知的財産権を主張する原告は、ランハム法(15 U.S.C. § 1117(a)-(c))、著作権法(17 U.S.C. § 504(b))、特許法(35 U.S.C. § 284)に基づいて侵害者の利益を求めるか、法定損害賠償を要求します。

模倣品により企業が被る損失の種類は広範囲に及び、技術の進歩に伴い不正な利益の新たな機会を提供するため、時とともに変化する傾向があります。損害の例としては、売上の損失、リードの流用、見込み顧客の混乱、顧客の不満、誤った企業への苦情やレビュー、顧客の混乱、のれんや評判へのダメージ、誤った企業への製品返品、ネット広告のペイパークリック入札コストの上昇、利益率の低下、さらには顧客のクレジットカード番号の窃盗などが挙げられます。

一般に、ほとんどの企業では、特定の問題をきっかけに、その損失を食い止める方法が議論されます。例えば、オンラインでブランドを求める潜在顧客によるリードと販売を行うための商標の侵害的使用などが考えられます。言い換えれば、これは「売上損失」のシナリオです。さらに詳しく調査すると、ブランドの正規品を購入したと信じている第三者による、侵害者の模倣品に関する誤ったレビューや苦情が見つかるかもしれません。このような被害は「定量化」するのが難しいのですが、これらも立派な模倣品による損害になります。

これとは対称的な侵害行為として、悪質業者がブランドのウェブサイトからコンテンツをコピーして偽のウェブサイト、ランディングページ、またはソーシャルメディアのページを作成することが挙げられます。偽のサイトでは、ブランド製品が85%オフで販売され、それを目当てに利用者が注文し、その中でクレジットカード番号が悪徳業者の元に行きます。この場合、当然商品は出荷されません。この結果、ブランドオーナーには、商品が届かないだけでなく、クレジットカード番号も盗まれた、不幸な「顧客」が殺到することになります。先ほどの例と同様に、ブランドオーナーは売上を横流しされ、信用を失墜させられました。また、ブランドオーナーは、製品を受け取らず、クレジットカード番号が盗まれたことを後で知って不満を持つ、潜在的に多数の被害者のケアーをしなければなりません。このように、侵害の形も様々で、損害の計算にはいろいろな要素が関わります。 

侵害がもたらすさまざまな種類の被害と損失

侵害が引き起こすさまざまな種類の損失に加え、悪質な業者が模倣品や侵害に関与する方法は数多く存在します。以下は、潜在的な侵害の簡単な要約に過ぎませんが例を上げると:

  • ドメイン名登録の盗用や侵害
  • ウェブサイトのコンテンツやメタタグにおける商標権または著作権の侵害
  • ソーシャルメディアにおける悪影響
  • ペイパークリック広告やランディングページにおける商標権または著作権の侵害
  • 不正な再販業者
  • グレーマーケット商品
  • オンラインプラットフォームにおける無許可の販売
  • ウェブサイトや物理的な製品の模倣品
  • ソフトウェアの不正コピー など

企業によっては、類似の製品やサービスに収益機会を見出した競合他社が、模倣品/侵害品を販売している場合があります。このような製品は、本当に「コピー商品」ではない場合や、製品の出所について混乱を招く可能性がありますが、それでも、特に競合他社が製品を低価格で提供できる場合や、はるかに大きなマーケティング予算を持っている場合、かなりの売上損失をもたらす可能性があります。競合他社を撃退するために、企業は、新しく革新的な製品やサービスに対して特許保護を受けることを検討すべきです。これにより、特許の対象となる製品やサービスを他者が製造、使用、販売のために提供、販売、および輸入することを阻止することができます。

目標ROIを設定するための損失のドル化

必須ではありませんが、損失を定量化することで、権利行使プログラムの投資収益率(ROI)を計算することができます。完全な情報がなくても、また実際に損害の全体を定量化できなくても、少なくとも損害の概算を行うことがベストプラクティスとなっています。別の言い方をすれば、最終的な計算が外れていたとしても、損失の見積もりを決定するプロセスには価値があるということです。なぜなら、計算結果は、将来の情報によってより正確なものに修正することができ、また、プログラムの成功を長期的に測定するためのベースラインとして機能する可能性があるからです。

例えば、典型的な侵害者が、定量化可能な5,000ドルの損失と定量化不可能な量の無形の損害を引き起こした場合、平均3,500ドルのプログラムコストで各侵害者を阻止するプログラムは、経済的に大きな「価値がある」と言えるでしょう。もし、侵害者一人につき7,500ドルの費用がかかるのであれば、被った無形の損害の額や、将来の侵害者の阻止といった他の検討事項について、判断を下さなければなりません。このような「数値化できない」損害は、プログラムを正当化するのに十分な場合があります。プログラムの明確な目標や成果を設定しておくことは、この判断の助けとなります。

ある時点で、知的財産権行使プログラムは、回避された損害の価値がプログラムのコストと同等のレベルに達するはずです。その時点で、プログラムは定常状態に達し、さらなる投資を行っても、より大きなドル換算のリターンが得られない可能性があります。この分析には、プログラムが自己資金で賄われなければならないという仮定が含まれています。しかし企業や法務部門によっては、それが必ずしもプログラムの目標とはならない場合もあります。この判断は、少なくともプログラム設計の段階で前もって行うか、議論しておく必要があります。

次のステップ – 模倣品に対抗するための知的財産を集める

この時点で、少なくとも、被った被害の種類、侵害の種類、侵害が発生した場所について予備的な分析を行っています。この分析から、プログラムの設計を開始するための予備的なROIと、潜在的なプログラムの目標や成果を得ることができるでしょう。

参考記事:IP-Enforcement Programs: Identifying and Quantifying Losses Caused by Knockoffs and Infringement

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