PTABも間違える:IPRのinstitution判決が覆った珍しいケース

特許審判部(PTAB)がすでにIPRを行わないと判断していたケースに対して間違えを認め、再審請求を認めた珍しいケースがありました。IPRのinstitutionに関する判決は上訴できないので、PTABのinstitutionに関する手続きが間違えていた時の対処方法として、いい例になると思います。

ケース:Maxlite, Inc. v. Jiaxing Super Lighting Elec. Appl. Co., Ltd., No. IPR2020-00208, Paper 14 (P.T.A.B. June 1, 2021)

今回の争点は、優先日に異議を唱える際にどちらの当事者がいつ証明責任を負うかです。この責任配分について適切な判断がなされなかったので、その結果、「IPRを拒否したことは裁量を逸脱している」と述べました。

IPRでは、まず最初に、申立人がクレームの少なくとも1つが非特許性であるという合理的な可能性を証明する責任があります。このとき、申立人は、先行技術文献を用いて、新規性や自明性がないことを示すことができます。

しかし、その後、特許権者は、特許が先行技術よりも先に出願された優先日を有することを示すことにより、この相手の主張に反論することができます。しかし、このような反論をする場合、クレーム制限のすべてについて、優先権書類に記述されていることを示さないといけません。そうすることで、証明責任が申立人に移ることになります。

このように証明責任が申立人と特許権者の間を行き来するのですが、今回のMaxLiteのケースでは、特許権者は、すべてのクレーム制限に対して優先権を主張した中国出願に記述されていることを示してはいませんでした。

PTABは、当初、特許権者が、中国の出願が、記述されていないとされている制限1つについて記述されていると示したことに基づいて、IPRの開始を否定していました。しかし、この時点では、クレームのすべての制限を支持する記述があることを示す十分な証拠を提出するよう要求していませんでした。

このことが再審理(rehearing)で問題になり、PTABは最終的に自身の過ちを認め、IPRの開始を否定した判決を覆しました。

そして、優先が主張された中国の出願には共通の発明者がいないため、優先権が正しく主張されたのかも再審理で問題になりました。特許権者は、中国の出願が米国の発明者を代表して出願されたことを示すことができず、したがって、外国の出願が問題になった特許から優先権を主張できるものではないという結論に至りました。

参考文献:PTAB Admits Mistake, Reverses, and Institutes

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