審査履歴における免責と禁反言が非侵害につながる

出願人が特許審査中に先行技術を区別するためにおこなった主張は、クレーム範囲の放棄をする可能性があり、権利行使をする際に特許権者が侵害を示すために均等法の理論を用いる際に大きな問題になる可能性があります。

判例:TRAXCELL TECHNOLOGIES, LLC V. NOKIA SOLUTIONS AND NETWORKS

Traxcell社は、自己最適化無線ネットワークに関連する3つの特許を侵害したとしてNokia社を訴えました。連邦地裁は、クレーム用語の「位置」(location)とは「グリッドパターン内の単なる位置ではない位置」を意味し、「第1のコンピュータ」(first computer)または「コンピュータ」(computer)とは、クレームが要求する各機能を実行できる単一のコンピュータを意味すると解釈しました。これらの解釈に基づき、連邦地裁は非侵害の略式判決を下し、特許権者であるTraxcellは控訴します。

連邦巡回控訴裁(CAFC)は、特許出願人が審査中に先行技術を区別するために「格子状の位置」を否認していたことから、地裁における「位置」の解釈を支持。また、Nokia社の反証されなかった専門家の証言により、被告製品はグリッドパターンのロケーションのみを使用していることが示されたため、裁判所はこの限定に基づく非侵害の判決を支持しました。

「第1のコンピュータ」および「コンピュータ」については、CAFCは、出願人の出願時の主張に基づき、単一のコンピュータであるという限定を認めました。この解釈により、裁判所は、Traxcellは審査中に複数のコンピュータの同等品をクレームの範囲に含むことを放棄したと判断。そのため、Traxcell社はこの用語に関する均等法の理論(doctrine of equivalents)による侵害証明をすることができなくなりました。そのため、Traxcell社は、「コンピュータ」および「第1のコンピュータ」に関するCAFCの解釈の下で、文字通りの侵害(literal infringement )の証拠を提出することができなかったため、裁判所は、これらの制限に基づく非侵害の判決を支持しました。

教訓

特許の審査において、先行技術と差別化するためにクレーム内の用語に対して「定義」や追加説明を加えることがあります。クレーム自体に変更がなされていなくても、これらの用語に関する追加説明はクレーム範囲を狭める可能性があります。

そのような審査のときに行わてた主張は、訴訟で権利行使する際に不利に働く場合があります。場合によっては、今回のように非侵害という判断が下る可能性もあるので、権利行使を考えている重要な出願案件では、今回のような審査中の用語に対する追加説明であっても最新の注意をもっておこなうようにするべきでしょう。

参考文献:Prosecution History Disclaimer and Estoppel Lead To Noninfringement

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