原則、新しい製法で既存の製品を作る発明は特許になりません。そして、よくあるケースがモノの発明をクレームするのに「製法」に係る要素が含まれていることで、プロダクト・バイ・プロセスクレームだと理解されてしまうケースです。そのような場合は、明細書における構成の開示などが必要で、クレームの範囲も狭まります。また、反論するにも難しい場合があるので、クレームの文言には最新の注意を払いましょう。
判例:KAMSTRUP A/S, v. AXIOMA METERING UAB,
クレームがプロダクト・バイ・プロセスとして解釈される理由と反論の際の論点の重要性
2019年9月23日、Axiomaは、’957特許の全15請求項について当事者間審査(inter partes review、IPR)を申請しました。最終書面決定において、審査委員会は、異議申立請求項を自明性がある、または新規性がない、として特許不実施としました。Axioma Metering UAB v. Kamstrup A/S, No. IPR2019-01640, 2021 WL 1235790 (P.T.A.B. Apr. 1, 2021)
最終書面決定を下すにあたり、審判部は、”cast in one piece “というクレームの要素をproduct by processのクレーム要素として解釈し、また、”cavity separated from the flow tube “というフレーズを解釈しました。
審判部は、クレームの文言はポリマーハウジングを「鋳造」するプロセスを説明するものであり、ハウジングの構造を説明するものではないと説明しました。クレーム要素の解釈後、審判部は、このクレーム要素はクレームに特許性を付与するものではなく、したがって、新規性はなくまたは自明性分析の一部として考慮されるべきではないと結論づけました。また、審判部は、Kamstrup社が、当該クレーム要素が先行技術と区別する構造的・機能的な差異を提供することを示す証拠を提示していないと説明。したがって、審判部は、クレームエレメントは特許性なしと結論づけました。
控訴審においてKamstrupは、審判部が「cast in one piece」をプロダクト・バイ・プロセス・クレーム要素として解釈したのは誤りであると主張しました。しかし、連邦巡回控訴裁判所(以下、「CAFC」)は、クレームの文言から、クレームはプロダクト・バイ・プロセス・クレームであることが確認されたと判断。したがって、クレーム要素(「一体成形されたモノリシックなポリマー構造体」)は、構造体が特定の方法で「成形される」ことを記述しているため、その表面上、プロセスを記載していると解釈されました。
Kamstrup社は、「クレームの限定にプロセスが記載されているだけでは、その限定が自動的にプロセスの限定に変換されるわけではない」と主張します。しかし、CAFCは、それは事実かもしれないが、Kamstrupは「なぜ、ここでクレームがプロセスを記載しているという事実を無視しなければならないか」を説明していないと反論。また、Kamstrup社は、この用語の構造を説明する明細書の開示も指摘していませんでした。その代わりに、Kamstrup社は、デバイスの製造工程を論じた開示に依拠しており、これがプロダクト・バイ・プロセスのクレーム要素であることをさらに裏付けていると捉えられました。このようなことから、CAFCはは、審判部が「cast in one piece」をproduct-by-process claim elementと判断したことに誤りはなかったと結論づけました。
プロダクト・バイ・プロセスクレームは「構造的及び機能的な差異」を示しているのか?
次にCAFCが検討した2つ目の問題は、product-by-process claim elementがクレームに特許性をもたらすものなのかを審議しましたが、そうではないと結論づけました。Kamstrup社は、審判部が、単一の金型で鋳造されたポリマー構造と複数の金型で鋳造されたポリマー構造との間に機能的または構造的な差異がないと認定したのは誤りであると主張。Kamstrupは、「様々な構造を……単一の金型で鋳造することはできない」と述べました。従来のダイカスト射出成形技術では、……1つの金型に様々な構造を鋳造することはできない」と述べています。
しかし、CAFCによれば、「仮にそれが事実であったとしても、Kamstrup社は、「一体に鋳造された」構造体と他の方法で製造された構造体の間の機能および構造の相違を特定したわけではないと指摘しました。むしろ、Kamstrup社は、クレーム要素が何らかの固有の制約を伴う製造方法を記載していると主張しただけで、明細書や審査経過における開示や、構造的・機能的差異を証明する外部証拠は特定しなかった、とCAFCは述べています。
また、CAFCは、クレームには、構造が「一体に鋳造」されるべきという記載であって、一つの鋳型で鋳造されるべきという記載ではない(“cast in one piece,” not cast in one mold)ことから、Kamstrup社が指摘した構造的・機能的差異は、クレームから切り離されている(クレームの請求範囲とはまた別の話)と指摘しました。CAFCは、明細書の「流量計ハウジングを製造するのに必要な工程数を減らすことに重点を置いており、1つの鋳型で鋳造することに重点を置いていない」という審判部の解釈に同意。「記述の特定の図、すなわち図5A及び5Bは、単一の金型を描いているが、審判部は、これらの実施形態は、単一の金型の使用を必要としない請求項よりも狭いと正しく判断し、明細書から請求項に狭義の制限を導入することを正しく拒否した」と述べています。CAFCは、外的証拠は、”cast in one piece “が “cast in one mold “を意味することのみを示すものではないとの審判部の認定も実質的証拠によって支持されると判断しました。
そのため、CAFCは、Kamstrup社が、クレームされたプロセスが先行技術とは異なる「構造的及び機能的な差異」を付与したことを示すことができなかったため、特許性をもたらすものではないと判断しました。
まとめ
この事例において、CAFCは、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの有効性を判断する際、焦点は製品にあり、その製造プロセスにはないことを改めて認識させました。「それは、……新しいプロセスによって作られたものであっても、古い製品は特許性がないという長年のルールがある。」 Greenliant Sys., Inc. v. Xicor LLC, 692 F.3d 1261, 1268 (Fed. Cir. 2012).
参考記事:Product-by-Process Claim: The Focus is On the Product and Not the Process of Making It