IPRにおいて、IPRの開始を審議するInstitutionの段階における審査会の先行技術文献の取り扱いが問題になりました。特に、先行文献である特許が仮出願で開示された内容を含むものなのかが問題になりました。
判決:Neumodx Molecular, Inc. v. Handy Lab, Inc., IPR2020-01133, Paper 23 (Aug. 6, 2021)
この判決において、重要な先行特許文献の中で仮出願を特定しており、そのすべてが「参照により組み込まれていた」(incorporation by reference)ため、再審理の結果、審査会は、先行文献である特許が仮出願で開示された内容を含むものとして解釈し、IPR開始を拒否するという前回の決定を覆しました。
経緯
このケースが始まり、最初にIPR開始(Institution)を審議するにあたり、審査会は、申立人が先行技術が新規性目的のために仮出願を必ずしも組み込んでいることを立証できなかったと判断し、IPR開始(Institution)を拒否しました。この認定はIPR開始を妨げるのに十分なものであったため、審査会は、申立人がIPR手続きにおいて勝つための合理的な可能性を確立したかどうかについては言及しませんでした。
しかし、この決定に関して再審理が行われ、参照による組み込み(incorporation by reference)に関する法律を審査会が誤って理解していたかどうかが問題になりました。
この問題について、審査会は、法律は参照による取り込み(incorporation by reference)が、取り込まれる正確な文章や取り込みに関連する正確な実施形態を特定するほど具体的であることを要求していないと説明。その代わりに、参考文献を特定し、その全体が組み込まれていることを示すだけで十分であるとしています。このような組み込みの範囲は「広い」ですが、「曖昧さがなく」、「明白に十分である」ことが求められます。
今回のケースで、申立人の提案した先行技術は、いくつかの仮出願を特定しており、そのすべてが「参照により組み込まれている」(incorporation by reference)ことから、審査会は、当初のIPR開始の判断が法律を誤って理解していたと判断。そのため、前回の決定を覆し、仮出願は新規性目的の先行技術公開の一部であるとしました。そして、不必要だったため議論されなかった、新規性の主張に勝てる合理的な可能性(reasonable likelihood of prevailing on its anticipation argument)に関しても審議をおこない、審査会は、申立人が仮出願に基づいて、新規性の主張に勝てる合理的な可能性を確立したと判断しました。
参考文献:PTAB Grants Institution on Rehearing—Incorporation by Reference Saves the Day