ケーススタディ:マルチカメラ装置の特許価値評価(損害賠償)事例

複雑なシステム(例えばスマートフォン)の構成部品について、信頼できる侵害賠償額を見積もるのは難しいですが、ケーススタディを通して、特許の価値についての基本的な理解に基づいた損害賠償を計算したいと思います。

特許権侵害の損害賠償は、法律と経済分析の複雑な融合が必要であり、Georgia-Pacific factorsに左右されることが多いため、訴訟で激しく争われます。しかし、特許の価値についての基本的な理解は、あらゆる取引や訴訟において重要なので今回はマルチカメラ装置を題材にして、特許の公正市場価値を算定したいと思います。

背景

会社

ウェアラブルや既存機器への組み込み用など、マルチカメラ装置を開発している民間企業から、その特許ポートフォリオの価値を判断するよう依頼を受けたと仮定します。

特許ポートフォリオ

この特許ポートフォリオは、11件の発行済み米国特許と5件の出願中米国特許で構成されており、優先日は2009年にまでさかのぼります。また、この特許ポートフォリオは、ウェアラブルカメラデバイスの開発を専門とする事業会社に関連するものだと仮定します。

目標

求められているものは、写真効果、画像補正、視線追跡、顔認識、およびその他の効果や能力のために使用される可能性のあるマルチカメラシステムおよび装置に関する特許ポートフォリオの予備的「損害」モデル(preliminary “damages” model )を開発するというものです。この予備的な損害賠償モデルは、特定の3つの主要なスマートフォン製造業者に向けられたものと仮定されています。

評価と損害賠償

35 U.S.C. § 284に従い、侵害が認められた場合、特許権者は「侵害を補償するのに十分な損害賠償、ただし、いかなる場合も妥当なロイヤルティを下回らない」権利を有します。したがって、ロイヤリティからの救済支払方式として知られる所得法を用いて特許ポートフォリオの価値を決定する損害モデルを開発(damages model that determines the value of a patent portfolio using an Income Approach known as the Relief-From-Royalty Payment Method)。このアプローチは、無形資産をライセンスすることで得られる収入額を定量化し、比較可能な非管理取引(「CUT」または「比較対象」)のロイヤルティ率を適用して予測ロイヤルティ支払額を決定し、財産の価値を測定するものです。

次に、35 U.S.C. § 286で定義された損害賠償の法定期限を考慮し、関連する期間を2016年から2030年の間と判断。そして、関連する期間における米国内のスマートフォンのTotal Available Market(「TAM」)を算出。TAMの情報は2020年まで入手可能であり、その後は2020年から2021年までの予測成長率と年平均成長率(CAGR)を適用して2025年までのTAMを予測。2025年以降の米国におけるスマートフォンの成長に関する情報が得られなかったため、追加予測は行わず、2030年までスマートフォン市場は安定的に推移すると仮定。この仮定は、最も保守的な評価となります。そして、TAMは、市場シェアに基づき、各年度のスマートフォンメーカーに帰属させました。

次に、ロイヤルティ率を決定します。使用分野である画像処理技術のためのマルチカメラシステム及び装置について、158の市場比較対象製品を特定。様々な要因を考慮した結果、比較対象製品のロイヤルティ率はxx%~yy%の範囲にあると判断しました。比較対象が直接スマートフォン用途でないこと、スマートフォンには多くの機能や部品があることから、この範囲のロイヤリティはスマートフォン市場には適切でない可能性があると判断しました。そこで、合理的なロイヤリティの範囲を決定するために、いくつかの追加的なアプローチを開発。そのうちの3つのアプローチについて以下で説明します。直接比較できるものがない場合、既成概念にとらわれない発想が、正当な価値を見積もる上で非常に有効であることがよくわかると思います。

  1. 各オンラインショップで販売されているカメラ関連のスマートフォンアプリケーションは、通常、スマートフォンの技術を利用した画像補正機能を備えています。これらのアプリケーションの収益を分析することで、1つのロイヤリティの範囲を算出することができました。
  2. スマートフォンメーカーは、新世代のスマートフォンを発売するたびに、様々な機能を搭載しているのが一般的です。各スマートフォンの主要機能を分析した結果、マルチカメラ画像処理装置とみなされる割合が判明。先に確認したxx%-yy%のロイヤリティが機器の全能力を表していると仮定すると、ロイヤリティ率のうち、関心のある発明に関連付ける必要がある部分を推定することができました。これによって、もう一つの独立したロイヤルティ率の範囲を推定することができました。
  3. 典型的なポイントアンドシュートデジタルカメラが現在市場で販売されている価格から、そのようなデバイスのロイヤルティ率をxx%-yy%(我々が見つけた比較可能なデータに基づく)とし、それらが生み出すであろう1台当たりのロイヤルティを算出。逆算して、スマートフォンのロイヤリティも同じ単価になるように算出しました。

上記を含む全ての独立したアプローチにより、ロイヤリティの範囲は互いに近いものになりました。これにより、正しい解答に到達していることが確認されました。以上の分析から、適切なロイヤリティは、当初のxx%-yy%の範囲から約10倍低い値になりました。

最後に、上記のロイヤルティ率を適用し、2016年から2030年までの予想ロイヤルティの正味現在価値(Net Present Value. 以下「NPV」)を主要スマートフォンメーカーごとに算出。また、TAMに基づき、特許ポートフォリオの総合的な価値も決定しました。

成果

価値評価に対する多角的なアプローチと、偏りのない保守的な価値評価に対する評判に基づき、クライアントは推定損害額/価値額が信頼でき、デューデリジェンスの目的で信頼できると、第三者を容易に納得させることが可能になります。特許の価値を算出するのは難しいですが、このようにステップに分けて計算し、多面的なアプローチをすることで、ある程度信頼性の高い価値評価ができるようになります。

参考文献:CASE STUDY: PATENT VALUATION (DAMAGES) OF A MULTI-CAMERA APPARATUS

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