言葉選びは慎重に。特許用語の危険性

言葉の選択は、米国特許の質に大きな影響を及ぼします。特に、明細書や審査中に使用される言葉に関しては慎重になるべきでしょう。厄介なのが、例えば日本では無害な表現であっても、アメリカでは、クレームの範囲を不用意に限定するような表現もあります。今回は判例を通していくつか例を見てみましょう。

「必要」(“Necessary”)

Atofina v. Great Lakes Chemical Corp., 441 F.3d 991 (Fed. Cir. 2006)において、“chromium catalystという用語が問題になりました。

Claim 1. Process for the manufacture of difluoromethane consisting essentially of gas-phase catalytic fluorination of methylene chloride with anhydrous hydrofluoric acids …, at a temperature of between 330 and 450 Cº and with a bulk or supported chromium catalyst. (emphasis added)

この判例では、“chromium catalyst”という用語が、“metal oxides” と “non-inert additives”を除外するものなのかが問題になりました。

連邦巡回控訴裁判所は、1)明細書に“it is necessary to have a catalyst containing solely chromium”と記載されていること、そして、2)審査中に、特許権者が it was “unnecessary to employ special additives to increase [the catalyst’s] selectivity.”と発言していたことを受け、“chromium catalyst”という用語が“metal oxides” と “non-inert additives”を除外するものと判断しました。

侵害が疑わていたcatalystにはchromium以外の物質が含まれていたため、訴訟の対象になったcatalystはchromiumだけに限定しない(not limited to “solely chromium”)とし、クレームを侵害していないという結論に至りました。

「重要」(“Critical”)

Pharmacia & Upjohn Co. v. Mylan Pharmaceuticals, Inc.*, 170 F.3d 1373 (Fed. Cir. 1999) において、等価物の原則(the doctrine of equivalents)に基づき、「無水ラクトースはスプレードライラクトースと同等である 」(“anhydrous lactose is the equivalent of spray dried lactose”)かが問題になりました。

Claim 1. In an [sic] micronized anti-diabetic pharmaceutical composition as a unit dose, containing one or more pharmaceutically acceptable excipients, the improvement which comprises: spray-dried lactose as the preponderant excipient in said composition, being present therein at about not less that [sic] seventy percent (70%) by weight of the final composition.

この判例では、出願人が、審査中に、「噴霧乾燥乳糖の使用は本発明の『重要な』特徴である」(“the use of spray dried lactose was a ‘critical’ feature of the invention”)と主張し、噴霧乾燥乳糖を医薬品組成物の主要賦形剤として使用することの「重要性」を強調したため、prosecution history estoppelにより、等価物の原則(the doctrine of equivalents)が適用されないとしました。

このような発言から、噴霧乾燥された乳糖を含まない微粒化されたGlyburide組成物(micronized glyburide compositions that do not contain spray dried lactose)はクレーム範囲に含まれないと判断され、問題となっていた「無水ラクトースはスプレードライラクトースと同等である 」(“anhydrous lactose is the equivalent of spray dried lactose”)の議論に進むまでもなく、裁判が終わりました。

“Special,” “Peculiar,” and “Superior”

Bayer AG v. Elan Pharmaceuticals Research Corp.*, 212 F.3d 1241 (Fed. Cir. 2000)において、問題となった特許は、定義された比表面積(SSA)のニフェジピン結晶を含む医薬組成物を請求していました。

A solid pharmaceutical composition comprising as the active ingredient an effective amount of nifedipine crystals with a specific surface area of 1.0 to 4 m2/g, in admixture with a solid diluent, to result in a sustained release of nifedipine.

Bayerは、Elan社が自社の特許を侵害していると主張。しかし、Elan社のANDAにはSSAが5m2/gを超えることが明記されており、クレームはSSAが1.0~4m2/gの範囲にあるニフェジピン結晶に限定されていると指摘したされていました。

裁判所は、出願履歴から、出願人であるBayerが「ニフェジピンの特別な形、すなわち1.0から4 m2/gの比表面積を持つ」ことが特徴であり、これは「優れた発明範囲」である(“a special form of nifedipine, namely having a specific surface area of 1.0 to 4 m2/g,” which was a “superior inventive range.”)と発言していることを重要視しました。

また裁判所は、Bayerが、このSSA範囲のニフェジピン結晶は、ニフェジピンの高い血中濃度を長期間維持するという「特異な」(“peculiar” )効果をもたらすと主張していたことも指摘。

このような発言から、クレームはSSAが1.0~4m2/gの範囲にあるニフェジピン結晶に限定されていると解釈され、非侵害という判決が下りました。

“Very Important”

Inpro II Licensing, S.A.R.L. v. T-Mobile USA, Inc.*, 450 F.3d 1350 (Fed. Cir. 2006) において、以下のクレームが問題になりました。

Claim 34. A digital assistant module that interfaces with a host computer, comprising: an on-board CPU that manages functions of the digital assistant module; …; a host interface adapted so as to provide communications between the digital assistant module and the host computer upon docking with the host computer; and an enclosure that houses said CPU, said memory, said display, said input apparatus, and said host interface. (emphasis added)

このクレームにおいて、明細書内で“direct parallel bus interface” は重要な(“very important” )特徴と明記されていたので、“host interface”は “direct parallel bus interface”と解釈されました。

侵害が疑わていた製品は“direct parallel bus interface”を含んではいなかったので、裁判の結果は非侵害となりました。

参考文献:”Watch Your Language: The Perils of Patent Profanity – Consideration of Both the U.S. and Europe” by Melissa C. Santos, Ph.D., Amanda K. Murphy, K. Victoria Barker, Ph.D., Stacy Lewis and Thomas L. Irving. Finnegan, Henderson, Farabow, Garrett & Dunner, LLP

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