特許表示の要件を満たしていないため訴訟前の損害賠償請求が棄却される

アメリカの訴訟はディスカバリーシステムがあるので限られた事実情報だけでも訴訟を起こすことができます。また、特許の場合、特許表示の要件を満たすことで、訴訟前の損害賠償請求もできます。しかし、当然ながら「結論ありきの主張」は認められず、説明責任があることを忘れないでください。

2022 年 8 月 26 日、米国連邦地方裁判所の Denise Cote 判事は、Blackbird Tech LLC (“Blackbird”) の Argento SC By Sicura, Inc. (“Argento”) に対する提訴前に発生した侵害に対する賠償請求を棄却することを認めました。

ケース:Blackbird Tech LLC v. Argento SC By Sicura, Inc., No. 21-cv-11018 (DLC) (S.D.N.Y.).

訴状内容と特許表示の要件に対する争い

米国意匠特許第D720,933号(以下「’933特許」)の所有者であるBlackbirdは、2021年12月にArgentoに対して訴訟を提起しました。’933特許は、両面洗顔ブラシの装飾意匠をクレームしています。Blackbirdは、当初の弁論において、標示法である35 U.S.C. § 287への準拠(あるいは非準拠)については一切言及していませんでした。

しかし、Argentoが、Blackbirdが訴訟前の損害賠償を求める範囲で訴状を却下する申し立てを行った際、Blackbirdは「35 U.S.C. § 287に基づくすべてのマーキング要件は遵守されている」というたった一文を追加して修正訴状を提出しました。

Argentoは、このBlackbirdの修正に満足せず、再度同じ内容で訴状を却下する申し立てを行いました。

特許表示法(Patent Marking Statute)

特許法の下では、35 U.S.C. § 287において「特許権者及び特許された物品を製造、販売又は輸入する者は、物品又はその包装に特許番号又は特許番号を参照するオンラインアドレスのいずれかを表示することによって、その物品が特許されていることを通知することができる」と書かれています。

特許権者が上記の表示要件を遵守しない場合、被告が侵害の実際の通知を受けた日以前に発生した損害は回復できず、「侵害訴訟を提起することは、そのような通知を構成するものとする」と書かれています。35 U.S.C. § 287

今回のケースの場合、Blackbirdの訴状への一文の追加だけでは、特許法における特許表示の要件を満たすことができませんでした。同裁判所によれば、Blackbird は結論めいた表現しかしておらず、さらに、被告 Argento が「(訴訟が)提起される前に侵害とされる行為を実際に認識していた」ことを示唆する他の事実も主張していませんでした。

さらに、この問題に関しては、Argentoが事実上、最初の「提出責任」(“burden of production”)を負っているため、Blackbirdが第287条のマーキング要件に準拠していることを具体的に説明する必要はないというBlackbird社の主張にも、裁判官は納得しませんでした。というのも、Argentoにそのような責任があるからと言って、Blackbirdの法令遵守の「主張する責任」に取って代わるものではないからです。

訴訟提起前に発生した侵害に対する Blackbird の損害賠償請求を棄却した後、裁判所は、Blackbird の修正申立てを却下しました。裁判官は、Blackbird が既に一度、訴状を修正する機会を与えられており、「遵守をもっともらしく示すのに十分な事実を主張するのではなく」Blackbird は「結論ありきの主張」しか加えていないと判断し、原告にもう一度修正する権利を与えることを断念した、と述べています。

このように、訴訟前の損害賠償請求は主張するだけではだめで、特許標示法に準じた形でいつから表示を開始したのかなどの説明責任が求められます。

参考記事:“Mark it Zero”: Judge Cote Dismisses Claims to Pre-Suit Damages For Failure to Satisfy Patent Marking Requirements

ニュースレター、公式Lineアカウント、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

公式Lineアカウントでも知財の情報配信を行っています。

Open Legal Community(OLC)公式アカウントはこちらから

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

契約
野口 剛史

使えるJDAガイドライン

顧客のニーズが多様していく中、社内のリソースだけでは魅力的な商品やサービスが作れなくなってきています。そこで、他社とコラボレーションとなる訳ですが、その際はNDAやJDAなどの契約も重要になってきます。そこで、今回はとてもいいガイドラインを見つけたので紹介します。

Read More »
rejected-trash
再審査
野口 剛史

並行して提出されているIPRの申立ての大多数は容易に排除できる

IPRをする上で問題になってくるのが申立書の文字制限です。その問題を回避するために、並行して複数の申立書(parallel petitions)を提出することもありますが、その行為の一部が問題視されています。今回は、この問題に関する現状を深堀りし、解決策として提案されている方法について解説していきます。

Read More »